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社会人編
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ルリ子が異性の部屋を訪れるのは浩太で二人目だ。
工藤の部屋はいつもちょっとだけ荒れていて、片づけを手伝うこともあった。
料理が苦手だったのでルリ子が食事を作ることも多かった。
そんなことをぼんやりと思いながらきれいなエントランスに入ってエレベーターに乗り込む。
浩太に連れられて彼が明けた扉に入る。
「うわぁ!」
玄関からリビングまでモノトーンでまとめられたシックな部屋だ。
「ソファにでも座ってて」
ルリ子は黒い革張りのソファに恐る恐る腰かける。
「メイク落としあったよ、僕の使いかけだけど。良かったらどうぞ」
「ありがとうございます」
浩太の部屋に来る途中でコンビニに寄ってもらい、簡易的な下着の替えと基礎化粧品だけ購入させてもらったが、メイク落としは浩太の家にあるとのことだったので買わなかったのだ。
「先にシャワー浴びておいでよ。お客様なんだから、ね?」
「え、いいんですか?」
ルリ子は床に荷物を下ろす。
「うん、行っておいで。タオル置いておくから」
「は、はい」
ルリ子はドキドキする胸元を抑えながら浴室に向かった。
シャワーを浴びながら自身の身体をくまなく確認する。
浴室からでると脱いだ服の隣にスウェットの上下とタオルが置かれていた。
ルリ子はコンビニで買った下着と置かれていたものを身に着けて脱衣所を出た。
「ただいま戻りました…」
リビングに入ろうとしたルリ子は立ち止まって息をひそめる。
浩太は誰かと電話で話しているようだ。
「え、明日?明日はちょっと予定があるんだ。うん、うん、今日これから家に来るって?それは困るよ、うん、必ず埋め合わせはするから、あぁ、うん、じゃあね」
水族館で見たあの優しい表情で浩太は電話していた。
ルリ子は気づかなかったふりをしてリビングに入る。
「お先に、お風呂いただきました」
「おかえり」
浩太は笑顔でルリ子を出迎えてくれた。
「僕も入ってこようかな」
「はい、いってらっしゃい」
「テレビ見たりとか好きにしてていいからね」
「ありがとうございます」
ルリ子は笑顔で浩太を見送る。
テレビを見る気分にもなれず、ルリ子はゴロリとソファに寝転がる。
テーブルの上に見える浩太の携帯を恨めしく思う。
「どうして私がこんな気持ちにならなければいけないの…」
折角、お互いの気持ちが通じ合ったというのに。
唇をかみしめたルリ子は身体を動かして彼の携帯を視界に入れないようにする。
目をつぶると疲れていたのか意識が沈んでいく。
「泊まりに、来たのに」
ルリ子は浩太がバスルームから戻るのを待てずに眠ってしまったのだった。
…
次の日、ルリ子が目を覚ますと浩太と二人でベットに寝ていた。
着衣は乱れていない。
「私、昨日、」
「おはよう、ルリ子ちゃん、早起きだね」
浩太が目を覚ましたのかルリ子の隣で身体を伸ばしている。
「すみません、昨日、私ったら」
「いいんだよ、仕事もあったし疲れていたんだろ?その代わり…」
ルリ子の上に浩太が跨る。
「今日はたくさんルリ子ちゃんをいただこうかな」
二人は朝から濃密な時間を過ごしたのだった。
…
それから浩太との関係は”順調に”深まっていった。
ルリ子は一つだけ驚くことがあった。
工藤の時に感じた身体をつなげる嫌悪感がないことだ。
ルリ子は彼女自身が大人になったからだ、と考えているが工藤と比較して嫌悪感が少ないだけで一定程度心の中ではそういった行為があまり好きにはなれずにいる。
それから浩太が表情を柔らかくする件の電話の相手だが、いつになっても誰かはわからないでいた。
誰かと電話をしている浩太の様子は幾度となく見かけるが、その度にルリ子は電話の相手を確かめられずにいた。
「彼の仕事関係の人かもしれない」
日を重ねるごとに疑心暗鬼になっていく自分が嫌になるルリ子はそう割り切って考えることにしたのだった。
彼に限って浮気しているわけがないのだ。
そうすると少しだけ気持ちが楽になった。
それから浩太は付き合い始めてからもデートの内容は付き合う前と変わらなかった。
ただ一つだけ大きな変化が起きた。
「今日、泊っていくよね?」
「はい!」
付き合うまでは決して日を跨いで一緒にいてくれなかった浩太が泊めてくれるようになったのだ。
また逆にルリ子の部屋に泊まったりするようになったのだ。
こうしてルリ子は浩太と一緒に時を過ごせることがとても幸せだった。
その一方で心のどこかで何かがくすぶっているのを感じていた。
しかしその心の中にくすぶっているもやもやを誰にも相談できないでいる。
友達に相談しようにもマリは最近、子供が走り回るので大変らしいし、サキは新たに儲かるSNSビジネスを見つけたとかで忙しそうだ。
「最近、彼氏とどう?」
色々ルリ子の中に溜まっていたのだろうか。
昼休みに先輩にそう尋ねられて思わずルリ子の涙腺は崩壊して、涙がとめどなくあふれてしまう。
「ど、どどうしたの?何かあったの?」
先輩が二人がかりでルリ子の周りをオロオロする。
しかしルリ子にもなぜ涙があふれてくるのか分からなかった。
工藤の部屋はいつもちょっとだけ荒れていて、片づけを手伝うこともあった。
料理が苦手だったのでルリ子が食事を作ることも多かった。
そんなことをぼんやりと思いながらきれいなエントランスに入ってエレベーターに乗り込む。
浩太に連れられて彼が明けた扉に入る。
「うわぁ!」
玄関からリビングまでモノトーンでまとめられたシックな部屋だ。
「ソファにでも座ってて」
ルリ子は黒い革張りのソファに恐る恐る腰かける。
「メイク落としあったよ、僕の使いかけだけど。良かったらどうぞ」
「ありがとうございます」
浩太の部屋に来る途中でコンビニに寄ってもらい、簡易的な下着の替えと基礎化粧品だけ購入させてもらったが、メイク落としは浩太の家にあるとのことだったので買わなかったのだ。
「先にシャワー浴びておいでよ。お客様なんだから、ね?」
「え、いいんですか?」
ルリ子は床に荷物を下ろす。
「うん、行っておいで。タオル置いておくから」
「は、はい」
ルリ子はドキドキする胸元を抑えながら浴室に向かった。
シャワーを浴びながら自身の身体をくまなく確認する。
浴室からでると脱いだ服の隣にスウェットの上下とタオルが置かれていた。
ルリ子はコンビニで買った下着と置かれていたものを身に着けて脱衣所を出た。
「ただいま戻りました…」
リビングに入ろうとしたルリ子は立ち止まって息をひそめる。
浩太は誰かと電話で話しているようだ。
「え、明日?明日はちょっと予定があるんだ。うん、うん、今日これから家に来るって?それは困るよ、うん、必ず埋め合わせはするから、あぁ、うん、じゃあね」
水族館で見たあの優しい表情で浩太は電話していた。
ルリ子は気づかなかったふりをしてリビングに入る。
「お先に、お風呂いただきました」
「おかえり」
浩太は笑顔でルリ子を出迎えてくれた。
「僕も入ってこようかな」
「はい、いってらっしゃい」
「テレビ見たりとか好きにしてていいからね」
「ありがとうございます」
ルリ子は笑顔で浩太を見送る。
テレビを見る気分にもなれず、ルリ子はゴロリとソファに寝転がる。
テーブルの上に見える浩太の携帯を恨めしく思う。
「どうして私がこんな気持ちにならなければいけないの…」
折角、お互いの気持ちが通じ合ったというのに。
唇をかみしめたルリ子は身体を動かして彼の携帯を視界に入れないようにする。
目をつぶると疲れていたのか意識が沈んでいく。
「泊まりに、来たのに」
ルリ子は浩太がバスルームから戻るのを待てずに眠ってしまったのだった。
…
次の日、ルリ子が目を覚ますと浩太と二人でベットに寝ていた。
着衣は乱れていない。
「私、昨日、」
「おはよう、ルリ子ちゃん、早起きだね」
浩太が目を覚ましたのかルリ子の隣で身体を伸ばしている。
「すみません、昨日、私ったら」
「いいんだよ、仕事もあったし疲れていたんだろ?その代わり…」
ルリ子の上に浩太が跨る。
「今日はたくさんルリ子ちゃんをいただこうかな」
二人は朝から濃密な時間を過ごしたのだった。
…
それから浩太との関係は”順調に”深まっていった。
ルリ子は一つだけ驚くことがあった。
工藤の時に感じた身体をつなげる嫌悪感がないことだ。
ルリ子は彼女自身が大人になったからだ、と考えているが工藤と比較して嫌悪感が少ないだけで一定程度心の中ではそういった行為があまり好きにはなれずにいる。
それから浩太が表情を柔らかくする件の電話の相手だが、いつになっても誰かはわからないでいた。
誰かと電話をしている浩太の様子は幾度となく見かけるが、その度にルリ子は電話の相手を確かめられずにいた。
「彼の仕事関係の人かもしれない」
日を重ねるごとに疑心暗鬼になっていく自分が嫌になるルリ子はそう割り切って考えることにしたのだった。
彼に限って浮気しているわけがないのだ。
そうすると少しだけ気持ちが楽になった。
それから浩太は付き合い始めてからもデートの内容は付き合う前と変わらなかった。
ただ一つだけ大きな変化が起きた。
「今日、泊っていくよね?」
「はい!」
付き合うまでは決して日を跨いで一緒にいてくれなかった浩太が泊めてくれるようになったのだ。
また逆にルリ子の部屋に泊まったりするようになったのだ。
こうしてルリ子は浩太と一緒に時を過ごせることがとても幸せだった。
その一方で心のどこかで何かがくすぶっているのを感じていた。
しかしその心の中にくすぶっているもやもやを誰にも相談できないでいる。
友達に相談しようにもマリは最近、子供が走り回るので大変らしいし、サキは新たに儲かるSNSビジネスを見つけたとかで忙しそうだ。
「最近、彼氏とどう?」
色々ルリ子の中に溜まっていたのだろうか。
昼休みに先輩にそう尋ねられて思わずルリ子の涙腺は崩壊して、涙がとめどなくあふれてしまう。
「ど、どどうしたの?何かあったの?」
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