モテ男でインキュバスな彼は、魅了の力をなくしたい

無月兄

文字の大きさ
18 / 45

第18話 力を制御する方法

しおりを挟む
 ホレスがオウマ君にお願いした、自分が楽しむための無茶振りの数々。そう思っていたけど、本人が言うにはちゃんとした理由があるらしい。
 とはいえ、すぐにはそれを信じられない。

「だって、オウマ君は自分の力を押さえたいって思ってるんだよ。ホレスのやらせたことって言ったら、逆に力を使わせてばっかりじゃない。それとも、そうしたらいいってどこかに書いてあったの?」

 ホレスはうちにある悪魔関係の本や資料のほとんどを頭の中に叩き込んでいる。だけど、悪魔の力を押さえる方法なんてピンポイントなものが載っているかは怪しいものだ。

「直接そうとは書いてなかったけど、分かってる事を照らし合わせたら、自然とそうなるよ。例えば、これを見てみなよ」

 ホレスから渡されたそれは、あるインキュバスの成長記録のようなものだった。全部に目を通すと時間がかかるから、重要そうな部分にだけ絞って読んでみたけれど、幼少の頃は力のコントロールがきかずに、周りの人をとにかく魅了させていったらしい。

「俺と同じだ」
「そういうこと。もっともこの人の場合、俺達くらいの歳になると、力を押さえることも、逆に意識して強くすることもできるようになってたみたいだけどな。一人の女性を心底自分に惚れさせたかと思ったら、別れる時には一切の好意をゼロにする。それどころか、魔法のような力で、付き合っていた記憶すら奪って、一切後腐れなくポイ捨てしてたみたいだぞ」
「……最低だ」

 オウマ君が渋い顔をするけど、そんなのを気にするホレスじゃない。次はこれを見てみろと、いくつかの資料を出してくる。
 その中には、インキュバス以外の悪魔について書かれたものもあった。

「いくつか記録をみたけど、悪魔やその血族が、幼少期に自分の力を上手くコントロールできないのは珍しいことじゃないらしい。だけどほとんどが、成長したら制御できるようになっている」
「じゃあ、オウマ君もそのうちコントロールできるようになるってこと? でも、今のところ全然そんな気配は無いんだよね」

もし成長と共に何とかなるなら、今ごろもう少し制御できるようになっていておかしくないはずだ。

「その人達と俺と、いったいどこが違うって言うんだ」

オウマ君も、答えが分からず困っている。だけどそんな私達を見て、ホレスはフッと息をついた。

「二人とも、少し話がそれるけど、鳥はどうやって飛び方を覚えると思う?」
「えっ。そりゃ、自然に覚えるんじゃないの?」

ホレスがどうしてそんなことを聞くのかは分からないけど、私達人間がわざわざ教わらなくても歩いたり走ったりできるみたいに、鳥だっていつの間にか自然と覚えるものだと思う。

「じゃあ、もしもその鳥が高いところを怖がって、いつまでも飛ぼうとしなかったらどうなる? それでも、他の鳥と同じように飛べると思う?」
「それは……」

 多分、無理だと思う。だけどそれが、オウマ君の力といったい何の関係があるっていうんだろう。
 そう思っていると、次にホレスは、オウマ君だけに尋ねた。

「オウマ君、インキュバスの力って、普段から意識して使ってる? 怖がってばっかりで、とにかく使うべきじゃないって思ってない? まるで、飛ぶのを怖がる鳥のように」
「…………」

 オウマ君は、すぐには何も答えない。だけどその沈黙は、実質頷いているようなものだった。

「……そもそも使う必要なんてない」
「そうかな? 力を押さえるってのも、力の使い方の一種だと思うよ。だから、もっと力を使う練習をして、そのコントロールを覚えれば──」
「力を、制御できるようになるってことですか?」
「全部推測だけどね。やってみる気はある?」

 ホレスの言ってることには、確かな根拠なんてなに一つない。だけどそれは、初めて提示された希望のようにも思えた。
 なのにオウマ君は、すぐにはそれに頷かず、迷うように視線を泳がせる。多分、迷っているのだろう。今まで、怖くてまともに使うことのなかった力。それを自らの意思で使うことに、どうしても躊躇いが出てきてしまうんだ。

「正直、それが必要な事だって言われても、やっぱりこの力は嫌いで、できれば使いたくない。それに、魅了したり生気を吸いとるってなると、俺だけじゃなく、相手をする誰かが必要になる」

 オウマ君の目が私に向けられる。当然、その相手というのは、私以外にいないだろう。

「私は構わないよ。もちろん、生気を全部くれなんて言われたら無理だけど、少し疲れるくらいなら全然大丈夫だから」
「でも……」

 元々、オウマ君の中にあるインキュバスの力を何とかするって言うのが、私の受けた依頼だ。そのためなら、少しくらい大変な目にあうのは覚悟している。
 だけどそれでも、オウマ君は頷こうとしなかった。多分、怖がってるんだと思う。本当に私から生気を吸いとっていいものか、迷っているんだと思う。

 そしてたくさん悩んだ末に、オウマ君は言った。

「悪魔としての力を使っていくってのには、賛成する。でも、人の生気を吸い取るような、誰かを傷つけかねないものは、やめておく。本当は、そうするのが一番の近道なのかもしれない。でもそれは、どうしてもやりたくないんだ。」

 やっぱりオウマ君にとって、人から生気を吸いるってのは、できる限り避けたい事なんだろう。

「悪魔の力ってのは、相手を魅了したり、生気を吸い取ったりするだけじゃないから。例えばさっきみたいに、悪魔の姿になって石を砕くだけでも、力のコントロールは覚えられるかもしれない」
「わかったよ。じゃあ、それらを中心に練習メニューでも考えるか」

 ホレスもそんなオウマ君の気持ちを理解したのか、今度はしつこく促すようなことはしなかった。生気を吸い取る現場を見られないせいか、少しだけ残念そうだったけど、それはこの際どうでもいい。

「ごめん。自分で何とかしたいって依頼しておきながら、こんなこと言うなんて、勝手だよな」
「ううん、そんなことないって。だけど、もし気が変わったたら言ってね。私は、いつでも協力してもいいって思ってるから」

 申し訳無さそうに言うオウマ君だけど、私はそれを責める気はなかった。

 今までの彼を見ていると、誰かに迷惑をかけることを極端に嫌っているのがよく分かる。こんな風に躊躇うのも、無理はないのかもしれない。

「じゃあ、生気を吸い取るかどうかは一旦保留。どのみち今日はもう遅いし、これ以上実験するのも難しいだろう」

 今まで話をまとめるようにホレスが締める。外を見ると、いつの間にか辺りは暗くなっていて、確かに今日はもう解散した方が良さそうだ。

「それじゃ、力を使う練習は明日からになるかな」
「ああ、よろしく頼む」

 学校が終わったら、またこの家に集まって練習する。そう決めたところで、オウマ君とホレスは、それぞれ自分の家に帰っていく。

「上手くいくといいな」

 去っていくオウマ君の後ろ姿を見ながら、気がつけばそんな言葉が漏れた。
 依頼成功のため、何より今までずっと苦しんできたオウマ君の悩みを解決するため、これで何とかなりますようにと思わずにはいられない。

 だけど、同時に思う。インキュバスと言えば、女の子を魅了するのと、その生気を吸い取と言うのが最大の特徴だ。果たしてその最大の特徴を磨かないままで、力を制御するなんてできるのかな?

 それともうひとつ。今の話だと、オウマ君は誰かの生気を吸いとることもなく、一人でできる練習を続けていくことになる。
 だけど、それって私いらなくない? 元々うちが悪魔祓いだから依頼しに来たんだよね。
 抱いた疑問に答えてくれる者は、誰もいなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

前世の記憶しかない元侯爵令嬢は、訳あり大公殿下のお気に入り。(注:期間限定)

miy
恋愛
(※長編なため、少しネタバレを含みます) ある日目覚めたら、そこは見たことも聞いたこともない…異国でした。 ここは、どうやら転生後の人生。 私は大貴族の令嬢レティシア17歳…らしいのですが…全く記憶にございません。 有り難いことに言葉は理解できるし、読み書きも問題なし。 でも、見知らぬ世界で貴族生活?いやいや…私は平凡な日本人のようですよ?…無理です。 “前世の記憶”として目覚めた私は、現世の“レティシアの身体”で…静かな庶民生活を始める。 そんな私の前に、一人の貴族男性が現れた。 ちょっと?訳ありな彼が、私を…自分の『唯一の女性』であると誤解してしまったことから、庶民生活が一変してしまう。 高い身分の彼に関わってしまった私は、元いた国を飛び出して魔法の国で暮らすことになるのです。 大公殿下、大魔術師、聖女や神獣…等など…いろんな人との出会いを経て『レティシア』が自分らしく生きていく。 という、少々…長いお話です。 鈍感なレティシアが、大公殿下からの熱い眼差しに気付くのはいつなのでしょうか…? ※安定のご都合主義、独自の世界観です。お許し下さい。 ※ストーリーの進度は遅めかと思われます。 ※現在、不定期にて公開中です。よろしくお願い致します。 公開予定日を最新話に記載しておりますが、長期休載の場合はこちらでもお知らせをさせて頂きます。 ※ド素人の書いた3作目です。まだまだ優しい目で見て頂けると嬉しいです。よろしくお願いします。 ※初公開から2年が過ぎました。少しでも良い作品に、読みやすく…と、時間があれば順次手直し(改稿)をしていく予定でおります。(現在、146話辺りまで手直し作業中) ※章の区切りを変更致しました。(9/22更新)

私の存在

戒月冷音
恋愛
私は、一生懸命生きてきた。 何故か相手にされない親は、放置し姉に顎で使われてきた。 しかし15の時、小学生の事故現場に遭遇した結果、私の生が終わった。 しかし、別の世界で目覚め、前世の知識を元に私は生まれ変わる…

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

職業『お飾りの妻』は自由に過ごしたい

LinK.
恋愛
勝手に決められた婚約者との初めての顔合わせ。 相手に契約だと言われ、もう後がないサマンサは愛のない形だけの契約結婚に同意した。 何事にも従順に従って生きてきたサマンサ。 相手の求める通りに動く彼女は、都合のいいお飾りの妻だった。 契約中は立派な妻を演じましょう。必要ない時は自由に過ごしても良いですよね?

月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~

真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。

この度娘が結婚する事になりました。女手一つ、なんとか親としての務めを果たし終えたと思っていたら騎士上がりの年下侯爵様に見初められました。

毒島かすみ
恋愛
真実の愛を見つけたと、夫に離婚を突きつけられた主人公エミリアは娘と共に貧しい生活を強いられながらも、自分達の幸せの為に道を切り開き、幸せを掴んでいく物語です。

処理中です...