モテ男でインキュバスな彼は、魅了の力をなくしたい

無月兄

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第19話 不吉な呼び出し

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「はぁ……はぁ……」

 ここは、我が家の裏手にある、人気のない山の中。目の前では、オウマ君が膝に手をつきながら、激しく息を切らせている。今の彼は、普段見せる人間の姿ではなく、悪魔インキュバスのとしての姿に変わっていた。

 力の使い方を覚える。そう決めてから数日、オウマ君は学校が終わると、一度我が家に来てから、この裏山でその練習をするのが日課になっていた。
 街外れという、貴族の家にしては立地条件のよくない場所にある我が家だけど、こうして都合のいい練習場所がすぐそばにあるのはよかったよ。

「おおっ! 短距離走のタイム、最短記録を更新したよ!」

 たった今測ったタイムを見て、私は興奮ぎみに叫ぶ。
 練習内容は、この短距離走の他に、走り幅跳び等や反復横跳びといった、体力測定のようなものがほとんど。他には、一分間の間に何個の石を砕けるか、なんてのもあった。
 そして私は、その記録係。なんだか悪魔祓いの意義を全然感じないけど、今はそれにつっこむのはやめておこう。

 それらを測定してみて改めて分かったのは、インキュバスの姿になったオウマ君は、常識では考えられないくらいの身体能力を持っているってこと。ただし非常に燃費が悪く、全力で動いたらすぐにバテるということだ。

「普通のインキュバスなら、こうならないように、人から生気を吸ってエネルギーを補給するんだろうけどな」

 息切れするオウマ君を見ながら、ホレスが言う。彼もまた、この練習に付き合うため、毎日この裏山へと通いつめていた。

「オウマ君も、生気を吸い取ったら、もっと効率のいい練習ができるんじゃないのか?」
「それは……」

 試しにやってみるか? ホレスの言葉はそんな含みをもっていたけれど、オウマ君がそれに頷くことは無かった。やっぱり彼にとって、人から生気を吸い取るというのは、絶対に避けたいことなんだろう。

 だけど正直なところ、今のやり方で上手くいってるとは思えなかった。

「オウマ君も限界みたいだし、今日の練習はこれまでかな」
「悪い。わざわざ付き合ってもらってるのに、いつもちょっとしかできなくて」

 すぐに体力がつきるから、一度にできる練習量はそう多くない。数回記録を測ったら、その日の練習はもう終わりと言うのがいつものパターンだ。
 そして肝心の力の制御については、今のところ何の進展も見られていなかった。

「学校では相変わらずの王子様扱い。体を動かすだけじゃ、魅了の力は制御できないのかな?」
「いや、単に練習量が少ないだけかもしれないぞ。もう少しデータをとらないと、なんとも言えないな」

 ホレスはまだ結論を出すには早いと言うけれど、現時点では上手くいってないのは明らかだ。せっかく希望が見えたと思ったのに、いざ試してみると、とたんに躓いてしまっている。

「生気を吸って力を回復させたら、もっと練習量を増やせるのにな」

 たった今オウマ君が否定したにも関わらず、ついそんな言葉が口から漏れる。とはいえ、本人の意思を無視して、軽々しくやってみてとは言い辛かった。






 そしてその翌日。この日もいつものように、オウマ君とホレスが家に来る予定だ。
 と言っても、オウマ君と私は、学校が終わった後ら別々に我が家へと向かうことになっている。

 何しろオウマ君は、我が校では知らないものはいないモテ男。迂闊に一緒に帰ろうものなら、嫉妬にかられた女の子から、どんな目にあわされるかわからない。学校で話をするのだって、昼休み、人気のない中庭だけにしている。

 と言うわけで、オウマ君とは別々に教室を出て、それから私の家で合流ってのが習慣になってきていた。

 教室を見回すと、オウマ君の姿は既にない。私も早く帰ろうと、教科書を鞄の中に入れていると、パティが声をかけてくる。

「シアン、なんだか最近帰るの早いね。もしかして、バイト決まったの?」
「まあ、そんなとこ」

 正確にはバイトではないんだけど、もちろん何があったかなんて、詳しく話せないから、その辺は曖昧にしてごまかしておく。

「頑張るのはいいけど、あんまり無理はしないでね」
「大丈夫。私はそんなに大変じゃないから」

 私がやっていることと言えば、ほとんどオウマ君の体力測定の記録をつけているだけ。大変だって言うならオウマ君本人だろう。
 毎日ヘトヘトになるまで体力を使い、だけど今のところ、肝心の力の制御については、まるで進展が見られない。まだ始めて数日とはいえ、このままでいいのかなと思ってしまう。

 そんなことを考えていると、不意に、全く別のところから、私を呼ぶ声が聞こえてきた。

「アルスターさん、ちょっといいかしら」
「えっ、エイダさん?」

 振り向いた先にいたのは、エイダ=フィリスさん。前にオウマ君をダンスに誘っていた、校内で女王の如く君臨する女の子だ。
 それに、普段から彼女のそばにいる取り巻き二人も健在だ。

「えっと、なに?」

 訪ねながら、なんだか嫌な予感がしてくる。と言うのも、彼女達が明らかに不機嫌そうな顔をしていたからだ。

「話があるの。ちょっと、ついて来てくださらない?」
「えっ? でも、話ならここでもできるんじゃ……」
「いいから、ついてきて」

 有無を言わさぬ口調で私の言葉は一蹴され、取り巻きの二人が、まるで逃げ道を塞ぐように私の左右に立つ。こうなるともうとても、断れそうにない。

「あ、あの。シアンは今、私と話をしてる途中で……」

 不穏な気配を察してか、パティが助け船を出すように言ってくれるけど、それで引き下がるエイダさんじゃない。

「あらそうなの。それじゃ、少しの間借りていきますわね」

 まるで、それが決定事項であるかのように言い放つ。いや、実際エイダさんがこうしろと言った時点で、それはもうほとんど決定みたいなものなのかもしれない。

「パティ、ありがとう。もういいから」
「でも……」

 パティは尚も口を挟もうと言葉を探しているようだったけど、これ以上何か言うと、パティまで巻き込まれかねない。そんなのは、私の望むところじゃなかった。

「どこへ行けばいいの?」

 返事をすると、エイダさんはクルリと背中を向けて歩き始める。ついてこいと言うことなのだろう。

 心配そうにしているパティに、大丈夫と告げると、エイダさんの後を追い、教室を出る。

 気分はまるで連行される囚人だ。彼女達はいったい私をどこに連れていき、何を話そうとしているのか。なんだか、悪い予感しかしなかった。
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