モテ男でインキュバスな彼は、魅了の力をなくしたい

無月兄

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第37話 大団円?

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 ほんの数秒前まで、嬉しさを隠せないって様子だったオウマ君。だけどホレスの口からキスって言葉が出てきた瞬間、とたんにその表情が固まった。そしてそれは、多分私も同じだ。

 今までは、起きたばかりで、上手く頭が回らなかった。だけど改めて、ゆっくりと思い出す。
 刃物で刺されて意識を失ったオウマ君に対して、私が何をしたのかを。

 …………うん。したよね、キス。たくさんの生気をあげるために、口と口を合わせたよね。何も、間違ってないよ。

 けどね、ホレス。よりによって、今それを言っちゃう? ジトッとした目で見るけど、彼はそんなこと気にも止めずに続ける。

「これが、シアン以外の奴からのキスだと、どうなっていたんだろうな。悪魔祓いは人より多くの生気を持っているって言うから、やはり与える生気の量も多いのか、起きる事象に違いはあるのか。比較実験ができたらよかったんだけどな。力を制御できないオウマ君があと一人いてくれて、誰か別の女の子とキスしてくれれば……」
「ダメーーーッ!」

 あまりに勝手な言いぐさに、思わず声を上げる。あと、オウマ君と他の女の子がキスすると聞いて、なぜだか無性に腹が立った。

「勝手に変なプラン立てるんじゃない。緊急事態でもないのにそんなことして、オウマ君の迷惑でしょ!」
「だから、できたらいいなって仮定の話で──ぐふっ!」

 あまりにムカついたから、怒鳴ると同時に一回頭を叩いてやった。

「そもそもあれは、生気をあげるためのものだから、キスって言うか人工呼吸のようなものじゃない」
「いてて……でもインキュバス相手なら、人工呼吸で生気をあげたって言うより、キスの方がしっくりくるんじゃないか?」
「どうでもいい!」

 まったく。ここに来てもホレスはホレスでいつも通りの平常運転だ。こんなに好き勝手言われて、オウマ君は大丈夫なのかな?
 そう思ってオウマ君を見ると、彼は未だ固い表情のまま。ただ、その顔は真っ赤になっていた。
 
「えっと、その……実はその時のこと、あんまり詳しくは覚えていないんだ。刺されて倒れたと思ったら、気がついたらシアンを抱えてたって感じ。でも、したんだよな。シアンが俺に、キ、キ、キスを……」
「いや、それは、まあ……」

 あの時のオウマ君はまともに意識がないように見えていたけど、やっぱりそうだったか。とはいえ、知らないうちに唇を奪われたのはショックだったのかも。
 これは、一言謝っておいた方がいいかも。

「了解もとらずに、勝手なことしてごめ──」
「お、俺の方こそこめん!」

 言いかけた私のごめんは、より大きなごめんによってかき消された。

「女の子にとって、その……キ、キ、キスって、大事なものだろ。それを、あんな形で奪うなんて……ごめん!」
「そ、それは私が勝手にやったことだから」

 私自身は、助けるためああしたことに後悔はない。けれどこんな風に改めて言われると、さすがに恥ずかしくなってくる。だけど、彼の謝罪はまだ終わらない。

「それにエイダのことだって、守るって言ったのに危険な目にあわせた。刺されて心配かけたし、いくら持ってる生気の量が多いって言っても、倒れるくらいに吸いとったし……」

 少し前までの喜びはどこへやら。大慌てで謝ってくるオウマくん。まあ、確かにエイダさんに浚われた時は心底怖かった。オウマくんが刺された時は目の前が真っ暗になりそうだったし、生気を大量に吸い取られた時は、このまま死んじゃうかもしれないと思った。
 だけど──

「はい、そこでストップ!」
「むぐっ──」

 なおも謝ろうとするオウマ君に向かって、伸ばした手でその口に強引に蓋をする。当然、喋れなくなったオウマ君は、目を白黒させながら押し黙る。

 ビックリさせてごめんね。けど、彼の口から出てくるごめんを、いい加減止めてやりたかった。

「確かに怖い目にもあったけどさ、助けに来てくれたし、みんな無事だったじゃない」
「ふぇも……」

 口を塞がれてるせいでまともに喋れないけど、まだ言いたいことがありそうなオウマ君。だけど私は、そんな彼の言葉を奪うように、よりいっそうその口に蓋をする。
 そしてその間に、私の言葉をしっかり伝えよう。

「ごめんの前に、私だって言いたいことあるんだから、ちゃんと聞いてよ」
「──っ!」

 その一言が効いたのか、オウマ君の動きが止まった。

「助けに来てくれてありがとう。かばってくれてありがとう。それに、元気になってくれてありがとう。これが、私の言いたいことだよ。元々の原因が何だっていい。必死に頑張って、守ってくれて、本当に感謝してるんだからさ。だから、もうごめんなんて言わないでよ」

 確かに今回の一件は、元を辿ればオウマ君が原因で起こったことには違いない。だけどこうしてみんな無事だったんだから、今さらそれをどうこう言う気なんてない。

「ごめんはもう終わり。せっかく念願だった力の制御ができるようになったんだから、わざわざ水をささない。いいね」
「あ、ああ……」

 頷くオウマ君を見て、実は内心ホッとする。エイダさんの事については、今言った事が全てだ。だけどキスに関しては、実はもう少しだけ違う思いがある。

 何と言うか、深く謝れるとなおさら恥ずかしくなってくるんだ。人工呼吸のようなものだって自分で言ったのに、変な気なんてなかったはずなのに、思い出してみると、ドキッとしてしまう。
 だからそんな思いを振り払うように、改めて祝福の言葉をかける。

「力の制御、達成おめでとう」
「あ……ありがとう」

 ニコッと笑顔で言うと、オウマ君は相変わらず顔を赤くしたままだったけど、ちゃんとその言葉を受け止めてくれた。
 よかった。せっかくの嬉しい場面なのに、変な空気になったら嫌だからね。

 だから私は、ドキドキする気持ちを隠しながら、なんでもないように笑う。と言うかそうでもしないと、ドキドキが強くなりすぎて、どうすればいいか分からなくなりそうだった。
 それはまるで──

「ん……?」

 まるで……何? 私は今、何を考えた?

 オウマくんが言うには、インキュバスの力は完全に制御できていて、誰彼構わず魅了することはない。そしてそれ以前に、私には元々魅了の力は効かなかった。そのはずだ。

 けどそれなら、どうしてさっきからオウマくんを見る度に、胸の奥が変な感じになるんだろう。
 キスしたことの気まずさだけとは、どういうわけか思えなかった。

「シアン、急に黙りこんで、どうかした?」
「な、なんでもない」

 不思議そうに尋ねるオウマくんをごまかしながら、同時に、頭に浮かんだ思いも振り払う。

 高鳴る胸と、熱くなる体。それは、まるで恋のようだと思ったけれど、そんなの、きっと気のせいだよね。
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