生贄花嫁はアヤカシ狐からの溺愛を受け入れられない

無月兄

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謀反の幕引き

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「思い切ったことを仕掛けたものよのう。後継者同士の競い合い、殺し合い、大いに結構。じゃが、それでも貴様は詩には勝てなんだ。その上、私に弓引こうとしたのじゃから、覚悟はできておるじゃろうな」

 その口ぶりは、古空の企み全てを見透かしているようだった。
 古空の周りには、沙紀の配下のアヤカシが集まり、彼が妙なことをしないよう目を光らせている。
 もはや、悪あがきすらできそうになかった。

「まさか、最初からこの計画を知っていたというのか」
「ふふふ、私を誰だと思うておる。血みどろの争いを勝ち抜き、お主らの生まれる前からずっと当主をやってきたのじゃぞ。ひよっこの企みを見抜くなど造作もないわ」
「くっ……」

 悔しさの入り交じった声が、古空から漏れる。
 ずっと彼女の掌の上で踊っていた。その事実は、敗北を受け入れるには十分なものだった。
 ガクリと膝をつき、そこに沙紀の配下のアヤカシたちが縄をかける。
 月城の花嫁の誘拐と、当主への反逆。これらを企てた者の最後としては、実に呆気ないものだった。

 それを見て、詩はホッと息をつく。
 正直なところ、沙紀が来てくれて助かった。
 自分が優先だったとはいえ、もしも古空が相打ち覚悟で仕掛けてきたら、無事ですんだかはわからない。

 紬を見ると、目を閉じたまま動かない。また幻術にかかったのかと不安になるが、どうやら気を失っているだけのようだ。
 いったいどうやって幻術から抜け出したのかは、未だわからない。だがこうして無事ですんだ事に安堵しそっと抱きしめる。
 それから、ジトリとした目で沙紀を見た。

「ご当主様。本当は、もう少し早く駆けつけることができたのではないですか?」

 全ての企みを見透かしていたのだ。
 その気になれば、古空が紬をさらう前にどうにかできたのではないだろうか。

「そんなことをしたらつまらんではないか。それに、お主が自分の花嫁も守れぬようなら、それまでだったということじゃ。その時は、私がその娘をもらって霊力を思う存分いただこうと思ったのじゃが、惜しかったのう」
「────っ!」

 紬を抱きしめる手に力が入る。
 今回は彼女が来てくれて助かったが、やはり油断のならない相手だ。
 それでも、アヤカシの世界での人間の扱いなどこんなもの。これからも紬を守っていくには、この程度の危機は自分で乗り切らなくてはならないのかもしれない。

「しかし、お主も面倒なやつじゃのう。その娘の霊力を吸い取れば、手っ取り早く力を得られるというのに。父や母の名誉がそこまで大事か?」
「はっ? なにを言っているのですか?」

 沙紀が呆れたように言うが、詩も怪訝な顔をしながらそれに返す。
 本当に、何を言っているのか心底わからないといった様子だ。

「なんじゃ? 父親の人生を再現しつつ当主となることで、奴の名誉を取り戻す。そのために、こんな面倒なことをしているのではないのか?」
「いったい、誰がそんなことを?」
「古空じゃよ」

 沙紀は、昼間の中庭での試合の際、古空が自分や紬の前で、そんなことを語っていたのだと告げる。
 それを聞いた詩は、はーっと大きなため息をついた。

「なるほど。だからあれ以来、紬の様子がおかしかったのか。あいつ、やっぱり首をはねておけばよかった」

 試合が終わってからずっと、紬が不安そうにしていたのを思い出す。
 古空のせいでそんなことになっていたのかと思うと、怒りが込み上げてくる。

「違うのか? 私もだいたいそんな理由だろうと思っていたのじゃがな」
「全くの的外れですよ。そもそも俺は、半分は人間なんです。いくら力を得られるからって、そのために同族を犠牲にするなんてできると思いますか?」
「私はできるぞ」

 あっさりと答える沙紀を見て、詩はため息をつく。確かに彼女なら、人間だろうとアヤカシだろうと遠慮なく犠牲にしそうだ。

「普通の人間の倫理観なら、そんなことはしないんです。それを教えてくれたのは父さんや母さんだから、二人は全くの無関係じゃないかも知れませんが、俺が紬を大切に思っているのは別の理由です」

 実を言えば、母親が人間であることを知られたら、今言われたような邪推をされ、不安にさせてしまうのではという考えはあった。
 だからこそ紬にはしばらく言わない方がいいだろうと思ったのだが、隠していたのはその程度の理由でしかない。
 しかしそのせいで不安にさせてしまったのなら、ものの見事に裏目に出てしまった。

「人間なんぞを大切に思うとは。やはりお前も物好きなやつじゃな」

 沙紀はまた呆れたように声をあげるが、それからはもう興味が失せたようだ。
 他のアヤカシたちと一緒に、さっさと屋敷に戻っていく。
 詩も、それ以上は何も言わなかった。元より、彼女に理解してもらおうなどとは思っていない。
 だが、紬に不安な思いをさせてしまった。それだけは、どうしても心に引っかかる。

「言うべきなのかな。俺が、どうして紬を好きなのかを」

 抱きかかえた紬を見ながら、そう漏らす。
 今まで何度、好きだと伝えてきたかわからない。
 だが、それが全くと言っていいほど届いていないというのはわかっている。

 当然だ。初めて会ったやつからいきなり好きだと言われても、まともに受け入れることなどできないだろう。

 なのに、未だその理由を語らなかったのは、恐れがあるからだ。
 紬が全てを知った時、彼女はなんというか。自分との間に、決定的な溝ができてしまうのではないか。

 だが、全てを伝えるべき時は、もう間近に迫ってきているのかもしれない。
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