生贄花嫁はアヤカシ狐からの溺愛を受け入れられない

無月兄

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生贄花嫁はアヤカシ狐から溺愛される

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 アヤカシの花嫁とは、生贄と同意。
 霊力を持つ人間はアヤカシにとって格好の餌であり、長い時をかけ、少しずつ命を食われていく。
 当然、そこに愛など存在しない。

 紬はずっとそう聞かされてきていて、アヤカシとはそういうものだと信じていた。

 そして彼女は今、そんなアヤカシである詩と一緒にゲームをしていた。

「これで……私の勝ち!」
「あっ! くそーっ、負けた」

 二人がやっているのは、車を操作しながら時々アイテムを使って自分を有利にしたり相手を攻撃したりするという、レースゲーム。その対戦プレイだ。
 何度か戦ってみたが、その結果は詩が勝ったり紬が勝ったりと、互角の戦績だった。

 詩が次の勝負を挑もうとしたが、紬はそこでコントローラーから手を離す。

「少し休憩。ずっと続けてきたから、目が疲れちゃった」

 そう言って、ゴロリと床に転がる。
 そんな紬を、詩はじっと見ていた。

「なによ?」
「せっかく時間とったのに、やるのがこんなのでいいのかなって思って」

 詩との賭けを継続させると決め、再びアヤカシの世界に戻ってきてから数日後。今日は一日空いているから何かやりたいことはないかと尋ねた詩に、紬が言ったのが、一緒にゲームをすることだった。

「だって、やりたいことなんて言われてもわからないんだもの。それにあなたと一緒にやることといったら、ゲームしたりマンガ読んだりってのがほとんどだったでしょ」
「まあね」

 紬が言っているのは、二人がまだ幼いころの話だ。
 あの頃も、紬が持っていたゲームを二人でプレイしたことが何度もあった。

「どうりで、この部屋にあるマンガやゲームが、私の趣味に合ってるのが多いと思ったわ」
「紬が好きそうなやつを選んで揃えてたからね。まあ、俺が気に入ったから買ったのもたくさんあるけど」

 初めてこの部屋を見た時は、なぜアヤカシの世界にこんなものがと驚いたし呆れもしたが、今となっては、詩がなぜこんなにも揃えていたかがわかる。

「俺も、これはこれで楽しいけど、もっと他のことだってたくさんやって、紬のやりたいことや楽しいことを見つけていきたいな。例えば、前に行った甘味処で、違うのを頼んでみるとか、人間の世界に行って二人であちこち回ってみるとか」

 それは、前にも詩が言ってきたこと。その時紬は、別にいいと素っ気なく答えるだけだった。
 何かをやってみたい、楽しんでみたいなんて気持ちなど、ほとんど失っていた。
 だが今は、少しだけ違う。

「そうね。たまには、そういうのもいいかも」

 前より少しだけ、自分のやりたいことや楽しいことを見つけてみたいと思えるようになった。
 このゲームを詩と一緒にやるのだって、以前はなんの興味も湧かなかっただろう。

 そんな自分の変化に少し戸惑うが、同時に心地よく感じていた。

「それじゃあ、今から色々考えないとね。俺と紬の、最高のデートプランを」
「はっ、ちょっと待ってよ!? 色々行ってみたいとは言ったけど、デートするなんて言ってないわよ!」

 突然出てきたデートという言葉にギョッとするが、詩はウキウキと笑っていた。 

「二人きりで一緒に出かけるんだから、それはもうデートでしょ」
「そうとは限らないでしょ! 普通に美味しいもの食べたいだけってこともあるじゃない!」
「じゃあ紬は、俺とデートはしたくない?」
「それは……」

 遊びに行くなら、行くのもいいかと言えたが、デートとなると、とたんに答えるのが難しくなる。
 デートに行きたい。詩の前でそう言うのを想像すると、なんとも言えない恥ずかしさが湧いてくるのだ。

「あっ、そうだ。そろそろ、晩御飯の用意しなくちゃ」
「わっ。雑に話を逸らした」

 詩が不満そうに声をあげるが、そろそろ食事の支度をした方がいいというのは本当だ。
 忍たちに教わり料理をする習慣は、今もまだ続いている。
 しかも、今日作る予定のものは、少し特別だった。

「お母さんから、オムライスのレシピを教えてもらったのよ。ここの調理器具でどれだけ再現できるかはわからないけど、じっくりやってみたいの」

 アヤカシの世界に戻ってきてからも、志織とのやりとりは続いていた。
 詩からもらったスマホで、いつでも連絡がとれるようになっているのだ。
 どうやったら世界を超えてスマホで連絡ができるようになるのかは知らないが、それを使ってしょっちゅう話をしていて、大好きだったオムライスのレシピも教えてもらっていた。

「だったらさ、俺も一緒に作っていい? 紬の好きな味、俺も作り方から知りたいから」
「えっ? そりゃあ、ダメってことはないけど」
「よし。それじゃあ早速、台所に行こうか」
「はいはい。わかったわよ」

 そこまで話すと、詩は笑いながら紬の手を引いて、台所に向かう。
 一緒に料理をする。ただそれだけなのに、すごく楽しそうだ。
 そんな詩を見ていると、胸の奥が、ザワザワと騒いで落ち着かなくなる。

(まただ。なんなんだろう、これ?)

 少し前から感じるようになった、不思議な気持ち。だが、決して嫌なものではなく、むしろどこか心地いい。
 そして詩と一緒にいればいるほど、この気持ちが、少しずつ大きくなっていくような気がした。

「紬、どうかした?」
「なっ、なんでもない!」

 詩に声をかけられたとたん、胸の奥のザワザワが、一気に大きくなる。
 この気持ちの正体がなんなのか、今の紬にはまだわからない。いや、実を言えば、想像はできているのだ。

(こんなのまるで、詩のことを本当に好きになったみたいじゃない! けど、恋愛なんてしたことないから勘違いかもしれないし、面と向かって好きって言うのも恥ずかしいし、どうすればいいのよ!)

 紬が観念して、この気持ちに恋という名前をつけるのは、もう少し先の話だ。

[完]
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