転生勇者のヒーロー活動~現代に求められるのは勇者ではなくヒーローだ~

ハムスター

文字の大きさ
1 / 2

第1話 決着……そして

しおりを挟む
(……体の奥が熱く痛む……どうやら奴の炎を吸いすぎたようだ……)

 私は奴の胸に深々と突き刺した大剣を支えに何とか立っていた。激闘の末、致命傷を何度も受け今にも失いそうな意識を必死に保ちつつ精一杯の虚勢で奴を見下す。

 奴の名は邪龍王じゃりゅうおうランドギムス。

 この世界を何百年もの間、その絶対的な力で支配していた巨悪の龍王。しかし、私は遂に邪竜王を討伐する事に成功した。そして、その邪竜王は今……

「……どうした勇者よ?……我を討ち果たし、念願を叶えた割には浮かぬ顔だな……」

 私の足元で胸を穿たれたまま小馬鹿にした様に口を開く。

「黙れ!貴様に語る事など無い!」

「つれないことを言う……最後を共にする仲だと言うのに……」

 奴の言う通り、奴の巨大な漆黒の体はその役割全うしたのか、手足と羽の先端から灰となり朽ち始めていた。放っておけば数刻後には全てが灰に代わるだろう。……しかしそれは私とて同じこと……

「……うっ」

 大きな声を出すのにどうやら力の最後の一滴を使い切ってしまったのか、剣を掴む私の手は私の意思とは無関係に剣を離してしまった。支えを失った私はまるで糸の切れた人形のように奴の体を転がり落ち地面に叩きつけられた。

「がはっ!」

 衝撃で肺の空気が押し出され、痛みで悶え苦しむ。しかし、その痛みですら感じなくなるほど意識が朦朧とし始めていた。

「やれやれ……この邪竜王を倒した勇者の最後がこれか……なんとも不憫よのう……」

「だ……ま……れ……」

 憐れみなどいらない……私は自らの天命に従ったまでの事。我らが天母神ヴェリス様のお導きのままに私は闘い続けた。私の人生に後悔など微塵もない。

「……どうやら……我は時間切れのようだ……勇者よ……貴様のおかげでそこそこ楽しめた……よ……さらば……だ……」

 最後まで余裕を見せるように軽口を叩くと奴は灰になった。……そして私自身も体から力が抜けていくのを感じる……おそらくこれが死なのだろう……

「リ……イ……ナ……」

 死の淵で1人残してしまう妹の名を呼ぶ。私の唯一の心残りを。

(どうか……平和な世界……で……しあわ……せ……に……)

 私は閉じてしまえば二度と開かないであろう重い瞼をゆっくりと閉じ……死という闇を受け入れた……




 ——そこは不思議な場所だった。上下左右を数多の光で囲まれており、まるでいつも見上げていた星空の中にいるようだ。

(これが……死後の世界なのか?)

 私はそう考え自分がどうなったのかを確認しようとした時、ある事に気がついた。

(体が……ない?)

 私自身は自分の手を見ているつもりでもそこには何もない。しかし手を動かしたり、足を動かしている感覚はあるというよく分からない状況に陥っていた。

(体は消滅して今は精神?心だけの状態と言う事か?)

 答えの出ない自問自答をしつつ私は徐々に周りの星々が動いている事に気付いた。

(いや……これは私が動いているのか?)

 星々の景色が私の後ろに流れていく。その速度はどんどんと速くなり、やがて光は点から線へと変わっていった。そして……それは現れた。

(……人!?)

 正面から流れてくる景色の中、人が1人立っていた。私はその人物を避ける事が出来ず思い切りぶつかった……はずだった。

(すり抜けただと?)

 ぶつかる覚悟をしていた私はホッと無い胸をなでおろしすれ違う直前に脳裏に焼き付いた人影の顔を思い出す。

(子供だったな……)

 それはおそらく十代半ばの少年だった。どんな理由があるかは知らないが、

(若いのに……彼もまた……死んでしまったのか……?)

 そんな感傷に浸っている内に風景の流れは徐々に遅くなっていき、やがて止まった。そして遂に景色にモヤがかかり意識がどんどんと遠のいていく……

(今度こそ……終わりか……)

 私は再び覚悟を決め、運命を受け入れた……




(……流石に……いい加減にして欲しいな……)

 私は再び目が覚めたような感覚を覚えた。しかし、今度はどうやら先程とは異なりちゃんと体があるようだ。疲労困憊の中、たくさん寝すぎてしまって起きるのが辛い時に似た倦怠感がある。そもそもここは死後の世界なのか?それとも奇跡的にあの後私は助かったのか?その答えを求め、私は意を決して重い瞼を開いた。

「……………………」

 目を開くと天井があった。白い綺麗な天井だ。材質はなんだ?木でも石でも無いようだが……

「……う……あ…………」

 どれだけ眠っていたのだろうか?上手く声が出せない。体を起こそうとするが力が入らないので指先から少しずつ動かし慣らす事にした。

 数分後私はようやく上体を起こす程度まで体が動くようになった。改めて周りを見回すとほとんどの物が見慣れないものばかりだ。まず身につけている服だが白く清潔感のある繊細な生地で出来ている。衣類だけでなく寝ているベッドのシーツに周りを囲っているカーテンに至るまで高級そうな布で出来ていた。ベッドのすぐ横には何やら音を発している箱があり、そこから伸びた紐を辿ると私の服の中に続いていた。

(なんだこれは?)

 服の中を覗くと紐の先には体にくっついている吸盤の様な物があり私はそれを剥がしてみた。すると……

「な……なんだ?」

 横の箱が急に異なる音を発する。慌ただしく急かす様な音だ。その音を合図にするように人の足音が聞こえてくる。そして部屋の引き戸が勢い良く開かれた。

「!?」

 そこに現れたのは白い衣服に身を包んだ女性だった。女性は私と目が合うと驚き慌てて近寄ってきた。

「哲平君!目が覚めたの!?今丁度ご家族の方が来ているから先生と一緒に呼んでくるわ!」

 早口でそう伝えると、女性は再び部屋の外に飛び出していった。

(テッペイ?誰の事だ?そもそも今のは誰なんだ?ここはどこなんだ?私は……死んだのか?)

 一向に何も解決しない現状に私は少しイラつきを覚えた。だがそれ以上に不安が勝る。これからどうなるのか……そもそも私にはこれからはあるのか……何もわからない。ふと横にあるテーブルの上に手鏡が置いてあるのに気がついた。私はなんとなくそれを手に取り覗き込んだ。しかし、そこに映っていたのは……

「……誰だ……これは……?」

 全く知らない若い男の顔だった。しかし何かが引っ掛かる……何処かで見たような……見覚えが……

「!」

 私は完全に思い出した。

(あの精神だけの世界ですれ違った少年の顔だ!)

 そこまで思い出し、私は1つの仮説を導き出した。

(ま、まさか!?私は……あの少年の体に転生してしまったのか!?)




 ~こうして異世界の勇者ジークは現代の日本の高校生哲平の体に転生した。しかし、これはまだこれから起きる壮大な物語の序章に過ぎなかった~
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

n番煎じの脇役令嬢になった件について

momo
ファンタジー
ある日、突然前世の記憶を思い出したレスティーナ。 前世、知識モンスターだった研究者の喪女であった事を思い出し、この世界が乙女ゲーム『光の聖女と聖なる騎士』だった事に驚く。 が、自分は悪役令嬢でも無く、ヒロインでもない成金のモブ令嬢だったと気付いて本編始まったら出歯亀しようと決意するのだった。 8歳で行われた祝福の儀で、レスティーナは女神イリスに出会う。女神の願いを叶える為に交換条件として2つの祝福を貰い乙女ゲーそっちのけで内政に励むのだった。

ざまぁされるための努力とかしたくない

こうやさい
ファンタジー
 ある日あたしは自分が乙女ゲームの悪役令嬢に転生している事に気付いた。  けどなんか環境違いすぎるんだけど?  例のごとく深く考えないで下さい。ゲーム転生系で前世の記憶が戻った理由自体が強制力とかってあんまなくね? って思いつきから書いただけなので。けど知らないだけであるんだろうな。  作中で「身近な物で代用できますよってその身近がすでにないじゃん的な~」とありますが『俺の知識チートが始まらない』の方が書いたのは後です。これから連想して書きました。  ただいま諸事情で出すべきか否か微妙なので棚上げしてたのとか自サイトの方に上げるべきかどうか悩んでたのとか大昔のとかを放出中です。見直しもあまり出来ないのでいつも以上に誤字脱字等も多いです。ご了承下さい。  恐らく後で消す私信。電話機は通販なのでまだ来てないけどAndroidのBlackBerry買いました、中古の。  中古でもノーパソ買えるだけの値段するやんと思っただろうけど、ノーパソの場合は妥協しての機種だけど、BlackBerryは使ってみたかった機種なので(後で「こんなの使えない」とぶん投げる可能性はあるにしろ)。それに電話機は壊れなくても後二年も経たないうちに強制的に買い換え決まってたので、最低限の覚悟はしてたわけで……もうちょっと壊れるのが遅かったらそれに手をつけてた可能性はあるけど。それにタブレットの調子も最近悪いのでガラケー買ってそっちも別に買い換える可能性を考えると、妥協ノーパソより有意義かなと。妥協して惰性で使い続けるの苦痛だからね。  ……ちなみにパソの調子ですが……なんか無意識に「もう嫌だ」とエンドレスでつぶやいてたらしいくらいの速度です。これだって10動くっていわれてるの買ってハードディスクとか取り替えてもらったりしたんだけどなぁ。

冷遇王妃はときめかない

あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。 だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。

【完結】追放された子爵令嬢は実力で這い上がる〜家に帰ってこい?いえ、そんなのお断りです〜

Nekoyama
ファンタジー
魔法が優れた強い者が家督を継ぐ。そんな実力主義の子爵家の養女に入って4年、マリーナは魔法もマナーも勉学も頑張り、貴族令嬢にふさわしい教養を身に付けた。来年に魔法学園への入学をひかえ、期待に胸を膨らませていた矢先、家を追放されてしまう。放り出されたマリーナは怒りを胸に立ち上がり、幸せを掴んでいく。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

「魔法を使わない魔術師を切り捨てた国は、取り返しのつかない後悔をする

藤原遊
ファンタジー
魔法を使わない魔術師は、役に立たない。 そう判断した王国は、彼女を「不要」と切り捨てた。 派手な魔法も、奇跡も起こさない。 彼女がしていたのは、魔力の流れを整え、結界を維持し、 魔法事故が起きないよう“何も起こらない状態”を保つことだけだった。 代わりはいくらでもいる。 そう思われていた仕事は、彼女がいなくなった途端に破綻する。 魔法は暴走し、結界は歪み、 国は自分たちが何に守られていたのかを知る。 これは、 魔法を使わなかった魔術師が、 最後まで何もせずに証明した話。 ※主人公は一切振り返りません。

処理中です...