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推しから下僕へ
最後の夜
しおりを挟む息苦しくならないよう少し浮かした布団の隙間から、畳の青臭い匂いをわずかに嗅ぎ取れる。馴染みのないその匂いはすがすがしく、新築の家みたいで、どこか落ち着かない気分にもさせられる。
おしゃべりが聞こえなくなって、かれこれ30分が経つ。そろそろみんな寝てしまっただろうか……。
俺は布団の中で、スマホをスクロールしていた指の動きを止めた。
修学旅行最後の夜は、これまでで一番穏やかだった。
恒例の枕投げは、やれば翌日のスマホ没収が事前に通達されていて、学年全体でも果敢に挑む猛者はいなかったらしい。恋バナやその延長でのエロ話も、二日続ければそろそろネタも尽きる。三日目の今日は丸一日自由行動で、羽目を外しすぎたのか、夕食の席に並んだ顔は、一様に疲労を色濃く滲ませていた。
そんな調子だったから、消灯時間前にはおしゃべりも自然と止み、部屋のあちこちから寝息が聞こえ始めた。
うちの高校は二年の6月に関西方面へ三泊四日の修学旅行がある。
クラスに仲のいいグループができ始めたくらいの微妙な時期で、子どもの頃からグループ分けのたびにあぶれてきた俺にとっては、LHR(ロング・ホームルーム)の班決めが苦痛でしかなかった。
けれど不安をよそに、一番最初に決まった男子グループの中に、俺――渡辺響の名前があった。
面倒見のいい委員長のおかげだった。
入学した頃から成績トップの川嶋昴陽は、俺とは真逆の感じで特定の誰かと群れることはなく、誰に対しても人当たりがいい。
強いて言えば、いわゆる「一軍」と呼ばれる成績も顔面偏差値もトップクラスの四人組と一番仲がいい。今回も、その四人グループに声をかけられた委員長が、ついでに万年ぼっちの俺を誘ってくれて、男子六人の班が完成した形だった。
俺としては、声をかけてもらわなければ今回も最後まであぶれていただろうから、委員長に心の中で手を合わせた。
向こうは覚えていないだろうけど、川嶋と最初に出会ったのは中学の頃だ。川嶋昴陽という名前を知ったのは、高校の入学式の日。スピーチをする新入生代表として、彼の名前が呼ばれたときだった。
抜きんでて背が高く、くっきりとした二重の切れ長の目元にすっと通った鼻筋。同じ高校一年生とは思えない男らしい顎のラインは遠目にも明らかで、受験の日に助けてくれた彼だとすぐにわかった。
以来、見かけるたびに彼の姿を目で追うようになり、二年で同じクラスになってからは、人生で初めて、給食以外に学校に来る楽しみができた。
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