12 / 64
ご主人様は苦労性
威嚇する野良猫
しおりを挟む「渡辺」
周りに人がいなくなったところを見計らい、トイレを過ぎた先の階段の踊り場で声をかけると、階段をのぼろうとしていた彼がびくっと肩を震わせ、足を止めた。
そろそろと振り返り、顔をうつむかせて上目遣いで見上げてくる姿は、いつものコミュ障の陰キャそのものだ。あの夜にらみ返してきた顔は、俺の夢や妄想だったのではないかという気さえしてくる。
「なんか……用?」
しかし、その声は明らかに警戒を含んでおり、あの夜を境にできた壁を思い出させるには十分だった。
気づかないふりをして会話を続ける。
「弁当、いつもどこで食べてんの?」
俺の質問が意外だったのか、渡辺はわずかに顔の角度を上げた。
近くで見ると、やはり鼻筋は細く、スッキリと先が尖っていて形がよい。薄いのに立体感のある唇は遠くから見るよりも艶やかで、なんとなく落ち着かない気分がして目線を上げた。茶色い髪を透かして、アーモンド形の猫目が上目遣いでチラチラとこちらをうかがっている。
「化学室。……昼休みは開放されているから」
予想していた通りの答えだった。
渡辺はいつも、昼休みは教室にいないことが多い。校内にいくつかある特別教室は昼休みは自習用に開放されていて、図書室と違って飲食もできる。自習目的だけでなく、他のクラスに彼氏彼女がいる人が、一緒に昼食を食べるために利用することも多いらしい。
「俺も一緒に食べていい? 弁当取ってくるから」
「はっ? えっ?」
渡辺が大きな声を上げ、弾かれるように顔を上げた。
俺自身、自分が思いつきで口に出した言葉に、内心驚いていた。呼び止めたときは、もっと別のこと――あの写真をどうするつもりか、問い詰めるはずだったのに。
渡辺は明らかに動揺している様子だった。
「あ……、いや、その……。いつもは、おにぎり持ってくるんだけど、今日は寝坊したからなくて……、あんまりお腹も空いてないから、今日は食べないつもり……っていうか、なんで……」
あたふたと説明している途中で、グルグルという音が鳴った。俺じゃないから、渡辺の腹の音だ。
髪の隙間から覗く耳も、頬も、みるみるうちに真っ赤に染まっていく。思わず「うわっ」と声を漏らしそうになった。
「こ、これは別に、空腹とかじゃなくて……。俺、腹が弱いから、たまに鳴るっていうか……」
「俺、下僕なんだろ? だったら、昼飯くらい俺にタカればいーじゃん」
「たっ……」
渡辺は辺りをキョロキョロと見回して近くに人がいないことを確認し、キッと俺を睨み上げた。
「そんな犯罪行為、するわけないだろ!」
前髪の隙間から覗くのは、あの夜に見たのと同じ、目尻が少しだけつり上がった、勝気な眼差しだ。あのときは予想外の抵抗にムッとしたけど、今はなんとなく、野良猫がシャーっと毛を逆立てているようで、可愛くさえ思えた。
236
あなたにおすすめの小説
白花の檻(はっかのおり)
AzureHaru
BL
その世界には、生まれながらに祝福を受けた者がいる。その祝福は人ならざるほどの美貌を与えられる。
その祝福によって、交わるはずのなかった2人の運命が交わり狂っていく。
この出会いは祝福か、或いは呪いか。
受け――リュシアン。
祝福を授かりながらも、決して傲慢ではなく、いつも穏やかに笑っている青年。
柔らかな白銀の髪、淡い光を湛えた瞳。人々が息を呑むほどの美しさを持つ。
攻め――アーヴィス。
リュシアンと同じく祝福を授かる。リュシアン以上に人の域を逸脱した容姿。
黒曜石のような瞳、彫刻のように整った顔立ち。
王国に名を轟かせる貴族であり、数々の功績を誇る英雄。
【完結】いいなりなのはキスのせい
北川晶
BL
優等生×地味メンの学生BL。キスからはじまるすれ違いラブ。アオハル!
穂高千雪は勉強だけが取り柄の高校一年生。優等生の同クラ、藤代永輝が嫌いだ。自分にないものを持つ彼に嫉妬し、そんな器の小さい自分のことも嫌になる。彼のそばにいると自己嫌悪に襲われるのだ。
なのに、ひょんなことから脅されるようにして彼の恋人になることになってしまって…。
藤代には特異な能力があり、キスをした相手がいいなりになるのだという。
自分はそんなふうにはならないが、いいなりのふりをすることにした。自分が他者と同じ反応をすれば、藤代は自分に早く飽きるのではないかと思って。でも藤代はどんどん自分に執着してきて??
不器用なαと素直になれないΩ
万里
BL
美術大学に通う映画監督志望の碧人(あおと)は、珍しい男性Ωであり、その整った容姿から服飾科のモデルを頼まれることが多かった。ある日、撮影で写真学科の十和(とわ)と出会う。
十和は寡黙で近寄りがたい雰囲気を持ち、撮影中もぶっきらぼうな指示を出すが、その真剣な眼差しは碧人をただの「綺麗なモデル」としてではなく、一人の人間として捉えていた。碧人はその視線に強く心を揺さぶられる。
従順で可愛げがあるとされるΩ像に反発し、自分の意思で生きようとする碧人。そんな彼の反抗的な態度を十和は「悪くない」と認め、シャッターを切る。その瞬間、碧人の胸には歓喜と焦燥が入り混じった感情が走る。
撮影後、十和は碧人に写真を見せようとするが、碧人は素直になれず「どうでもいい」と答えてしまう。しかし十和は「素直じゃねえな」と呟き、碧人の本質を見抜いているように感じさせる。そのことに碧人は動揺し、彼への特別な感情を意識し始めるのだった。
【完結】毎日きみに恋してる
藤吉めぐみ
BL
青春BLカップ1次選考通過しておりました!
応援ありがとうございました!
*******************
その日、澤下壱月は王子様に恋をした――
高校の頃、王子と異名をとっていた楽(がく)に恋した壱月(いづき)。
見ているだけでいいと思っていたのに、ちょっとしたきっかけから友人になり、大学進学と同時にルームメイトになる。
けれど、恋愛模様が派手な楽の傍で暮らすのは、あまりにも辛い。
けれど離れられない。傍にいたい。特別でありたい。たくさんの行きずりの一人にはなりたくない。けれど――
このまま親友でいるか、勇気を持つかで揺れる壱月の切ない同居ライフ。
【完結】男の後輩に告白されたオレと、様子のおかしくなった幼なじみの話
須宮りんこ
BL
【あらすじ】
高校三年生の椿叶太には女子からモテまくりの幼なじみ・五十嵐青がいる。
二人は顔を合わせば絡む仲ではあるものの、叶太にとって青は生意気な幼なじみでしかない。
そんなある日、叶太は北村という一つ下の後輩・北村から告白される。
青いわく友達目線で見ても北村はいい奴らしい。しかも青とは違い、素直で礼儀正しい北村に叶太は好感を持つ。北村の希望もあって、まずは普通の先輩後輩として付き合いをはじめることに。
けれど叶太が北村に告白されたことを知った青の様子が、その日からおかしくなって――?
※本編完結済み。後日談連載中。
君に二度、恋をした。
春夜夢
BL
十年前、初恋の幼なじみ・堂本遥は、何も告げずに春翔の前から突然姿を消した。
あれ以来、恋をすることもなく、淡々と生きてきた春翔。
――もう二度と会うこともないと思っていたのに。
大手広告代理店で働く春翔の前に、遥は今度は“役員”として現れる。
変わらぬ笑顔。けれど、彼の瞳は、かつてよりずっと強く、熱を帯びていた。
「逃がさないよ、春翔。今度こそ、お前の全部を手に入れるまで」
初恋、すれ違い、再会、そして執着。
“好き”だけでは乗り越えられなかった過去を乗り越えて、ふたりは本当の恋に辿り着けるのか――
すれ違い×再会×俺様攻め
十年越しに交錯する、切なくも甘い溺愛ラブストーリー、開幕。
【8話完結】強制力に負けて死に戻ったら、幼馴染の様子がおかしいのですが、バグですか?
キノア9g
BL
目が覚めたら、大好きだったRPGの世界に転生していた。
知識チートでなんとか死亡フラグを回避した……はずだったのに、あっさり死んで、気づけば一年前に逆戻り。
今度こそ生き残ってみせる。そう思っていたんだけど——
「お前、ちょっと俺に執着しすぎじゃない……?」
幼馴染が、なんかおかしい。妙に優しいし、距離が近いし、俺の行動にやたら詳しい。
しかも、その笑顔の奥に見える“何か”が、最近ちょっと怖い。
これは、運命を変えようと足掻く俺と、俺だけを見つめ続ける幼馴染の、ちょっと(だいぶ?)危険な異世界BL。
全8話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる