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約束
気遣い屋のご主人様
しおりを挟む「このあと、僕たちカラオケで試験の打ち上げするんだけど、昴陽と一緒に渡辺君も来ない? 夏休みのことで相談したいこともあるからさ」
蛍光灯の光を映した朝倉の大きな瞳が、キラキラと光って寝不足の目に眩しい。
その屈託のない笑顔は俺とは真逆のオーラを放っていて、今更ながらに、川嶋が朝倉を好きになるのも当然だという敗北感混じりの納得が胸をよぎる。
そんな思いを隠し、所在なげに朝倉と川嶋の顔を交互に見比べる。
目配せをするみたいに川嶋がパチパチと瞬きをした。気を使わなくていいとか、そういうサインだろうか。かといって、せっかく好きな相手に誘われたのに、俺のせいで断らせるのも心苦しい。「俺はいいから川嶋だけ行きなよ」と言えば、朝倉が川嶋を横取りしたみたいになって、朝倉も気が咎めるだろう。
「あ、えっと……。俺、バイトがあるから途中で抜けることになるけど、それでもいいなら……」
「やった! 最近、昴陽が付き合い悪かったから、みんな喜ぶよ!」
朝倉は喜んでくれたが、川嶋にはぷいと視線を逸らされた。もしかしたら、選択を間違ったのだろうか……。
川嶋も、俺と一緒でおそらく騒がしいのは苦手だ。
好きな相手と一緒でも、カラオケには行きたくなかったのかもしれない。
「川嶋もそれでいい?」と慌てて訊こうとしたが、その前に女子の声が割り込んできた。
「朝倉君たち、カラオケで打ち上げするの? えー。私たちも行きたい!」
「いいよ。パーティールーム予約してるから、グループの他の女子も誘ってあげて」
「川嶋君がカラオケに来るの珍しいよね。誰が好きなの?」
「昴陽、めちゃくちゃ歌も上手いよ。最近のだけじゃなくて、昭和歌謡とかアニソンも一緒に歌ってくれる」
川嶋を巻き込んで朝倉と女子たちの間で会話が始まる。俺との会話は終了した雰囲気を察して、そっとその場を離れた。
最後に一瞬目が合った川嶋は、どこか物言いたげな顔をしていた。
――勝手に参加することにしちゃってごめん。
自分の席に戻って急いで川嶋にメッセージを送ると、すぐに返事が来た。
――下僕ですから。ご主人様に従いますよ。
コメントのあとに、川嶋がよく使っている執事風のイラストのスタンプで、『仰せのままに』という文字が入ったものが送られてくる。冗談が言えるということは、機嫌を損ねてはいなさそうだ。
ホッと胸をなでおろし、俺もいつもよく使っている殿様風のスタンプで、『苦しゅうない』という文字が入ったものを返した。
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