仮面王子は下僕志願

灰鷹

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約束

お前は?

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「俺、前にも言ったよな? 朝倉とつきあう気はないって」

「諦めなくても、いいかもしれないだろ」

 朝倉と小松原がつきあうことを秘かに期待していたくせに。咄嗟に川嶋の背中を押すような言葉が口を衝いて出てくる。自分でも、自分の気持ちがよくわからなかった。
 でも、吐き出してみると、胸に渦巻いていたものが少しだけ軽くなった気がした。その、はっきりとした形を持たず、どろどろに混ざり合った感情の中から、いま一番必要なものへと手を伸ばす。

「小松原はどう見ても朝倉のこと好きだろ。女子の中では一番仲がよくて、顔もふつーに可愛いのに、フリーの朝倉が彼女とつきあわないってことは、朝倉ももしかしたら女子に興味がないのかもしれない」

 人の性指向を陰であれこれ言うことは、下世話な想像だとわかっている。でも、他の言い方がみつからなかった。

「好きな人に好きになってもらうって、すげーことだと思う。努力だけじゃどうにもならない。お前はまだ、失恋が決まったわけじゃないんだから……。両思いになれる可能性がゼロじゃないだろ? 川嶋、すげーいい奴だから。いい人には報われてほしいと俺は思う」

 感情が先走りしないよう抑揚を抑えて、ひと息に言い切る。
 強がりは否めないけれど。嘘は一つもなかった。
 自分の中から必死にかき集め、引っ張り出した、心からの言葉だ。

 それで本当に川嶋と朝倉がつきあうことになったら、すごい泣くだろうけど。
 川嶋が世話を焼くせいで、前よりずっと彼のことを好きになっているから。
 学校にもバイトにも行けなくなって、しばらくはあのぼろアパートで一人、布団に生えたカビ菌みたいにじめじめ泣く気がする。
 でも、涙が止まって目の腫れが引いたら、学校に行って、朝倉に言いたいことがあった。さっきの、堀みたいに。

『川嶋、ちょっと口が悪くて何考えてるかよくわかんないところあるけど、すげーいい奴だから。嫌がらせをした貧乏人の俺にも、優しくしてくれて勉強を教えてくれた。大好きで、大切な友達だから。だから、川嶋のこと、これからずっとずっとよろしく』

 そんな日を想像できることに、「そのときが来ても、俺は大丈夫だ」と思えた。


 川嶋について歩いているうちに、いつのまにか住宅街に入っていた。外灯の淡い光の落ちる歩道で、カラカラと自転車の車輪が回る音だけが沈黙を埋める。
 言葉を探すようにしばらく黙り込んでいた川嶋が、やがてぽつりと言葉を洩らした。

「『お前は』ってことは……。お前は、失恋したのか?」


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