糸と蜘蛛

犬若丸

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2章 ヒーロー活劇を望む復讐者

雨に潜む 16

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   子供のカンダタが母の温もりを忘れたのはそういった経緯からであった。確かに、彼には母がいて一瞬の幸福に恵まれていただろう。しかし、絶望は必ず現れる。それを忘れようとしているうちに母の温度を忘れ、素顔も記憶から消えた。そして生まれたのが羨望と涙である。
   楽しく笑うあの親子のように、誰かと手を繋いで歩きたい。会話をしたい。なぜ自分だけこんな思いをするのか。あの親子が恨めしい。
  念持仏を握り締め、流れた涙が頬の切り傷に沁みて痛んだ。
   「なんで泣いてんのよ」
   瑠璃の一言で我に返る。
   頬に流れているものを感じて、それを指先で拭う。涙だ。記憶で流していたものが現実となって流れていた。
   思い出せるものがあるなら赤い着物の君であって欲しかった。求めていた記憶が子供の頃に抱いていた羨望とは切なくなるだけではないか。
   カンダタの中にあった空洞の片隅に羨望の色が一片だけ埋まった。



   月曜日、18時17分。お小遣いを使い果たす。謹慎になってから4日目のことだ。
   金がなければゲームセンターにはいられない。コンビニもマックもネカフェも。居場所を持つには金が必要だ。
   ゲームの賑やかな音に慣れていたせいで外の雨がやけに静かだ。
   スマホを確認すると友人からの意味のないやりとり、そして担任の坂本から着信が入っていた。
   そういえば、今日はあたしの処分が決まる日だ。
   先生たちからは退学もあり得ると言っていた。
   元々、高校に進学できたのが奇跡みたいなものでそれ以上の奇跡は起こらないとわかっていた。だからだろうか、退学となっても平常心を保って居られた。
   友人たちはこの先どうなるか。これから先に広がる暗闇に怯えているみたいだった。
   あたしは違う。その暗闇の歩き方を知っている。
   この世の中、なるようにしかならない。貧困は貧困のまま、裕福なものは資金で幸を得る。この円環に身を委ねるしかない。
   夕暮れの天空は薄暗く、並木道の街灯に明かりが点く。
   あたしはアパートの前に立ち、自分が住む部屋の明かりを見守る。これは1日でも長く生きる為に必要な習慣だ。電気が消えていれば父が夜勤であり、部屋には誰もいないことを示す。
   もし、19時を過ぎても電気がついたままなら家には帰れない。
  18時37分。時間はまだある。
   もし、退学になったら何をしようか。
  退学になったら父は金を要求してくるはずだ。バイトの時間が長くなっても低賃金では生活もままならない。他人にあげる余裕があるはずがない。
   けど、父の性格からしてその言い分は聞き入れてはくれないだろう。そうしてまた背中に傷を負う。
  非処女。元女子高生。この意味のないステータスに金持ちのオヤジどもはいくらの価値をつけてくれるだろうか。
   「山崎」
   聞き覚えのある声があたしを呼んだ。担任の坂本が街灯に照らされてあたしを見ていた。
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