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3章 死神が誘う遊園地
瑠璃、幼少期 18
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母の力強く、それでいて乱暴な手に引かれて連れてこられたのは押し入れだった。投げるような仕草であたしを閉じ込める。
「ママ!ママ!」
突然訪れた暗闇から逃げようと襖を叩き、母を呼ぶ。それは痛みを伴った悲鳴だった。
「黙りなさい!」
娘の悲鳴を母は叱責した。これが初めて聞く母の叱責だった。暗闇の中で響き、耳の中で谺する。
「言うことを聞くって約束だったじゃない!なんでいい子にできないの!」
それは、母と一緒にいたかったからだ。あたしには母しかいない。
「ママァ」
「喋るな!あんたさえいなければ!」
私の心中を伝える間もなかった。荒らげた口調整えて、母は静かに命じる。
「いいと言うまで中になさい。絶対にてないで」
私は困惑し、大声すら出すのを忘れていた。止まらなかったのは涙だけで暗い静寂に雫が音もなく流れた。
私が母についてきたのは母の隣にいたかったからだ。家を出発する際、今生の別れだと悟った。それだけは避けたかった。だから、母についていくと決めた。母の言う通りに従って、息苦しくなった生活にも泣き言は言わなかった。
あたしが泣き出したのは母が殴られたからだ。
恐怖で思考が止まった母の顔の赤く腫れた頬が痛々しく、痛みがあたしにまで伝わった。この涙は母の為の涙だった。
なのに、なのに、母はあたしを責めた。
“あんたさえいなければ”
静寂の中で母の叱責が谺する。
途方に暮れて、泣き疲れて、気が付けば深い眠りについていた。閉じ込められた押し入れの中で一晩過ごした。
目蓋を閉じても開けても暗闇は変わらずに押入れの気温は朝晩と変わりなく寒いまま。
暗闇に再び響いたのは母と彰の怒声だった。
「だから言ったんだ!」
「全部私のせいって言いたいの?違うでしょ!あなたが!」
「原因はお前だよ!こんな計画に持ちかけて来なければ!」
「その計画に乗ったのがあなたじゃない!」
交互に交わされる2人の怒声。私は固唾を呑んで口論の結末を見守る。
「待て!どこ行く!」
ボロい床を足で踏みつけるたびにその振動がこちらにまで伝わってくる。怒りに任せた歩調が母のものであると押入れれにいたあたしは気付けなかった。
「もうおしまい!あなたとの関係も!計画も!」
「お金は置いていけ!」
「これは私の計画よ!私が持つ権利がある!」
「ふざけんな!」
「放して!」
途端、母の口調が急に萎えた。
「待って、やめてよ。私が悪かったわ」
「猫被るんじゃねぇ。捨てようとしたくせに」
彰も張り詰めた声色に震えがあった。
「頭に血が上っていたのよ。本当にごめんなさい。愛してるわ」
「今更そんなもん信じるか!」
大きな、とても強い地震が起きた。それは自然現象ではなく、2人の地団駄に似た震動だった。
いや、やめて、と抵抗する母と息を荒らげる彰。押し入れの中で読み取れる情報はそれだけだった。
争い、抵抗している。壁にぶつかり、物を蹴る。そして、ドン、と1番大きい震動が伝わって止まった。足踏みとかではなく、全身の体重が畳の上に落ちる重いものだった。
暗闇の静寂に雨音が戻ってきた。沈黙が続いていたから2人の争いは終わったのだろう。
あたしは悩んだ結果、押入れから出ることにした。ひと晩いたせいで外の光は眩しく思えた。
なるべく足音を立てないように、静かに気配を消すように、隣の部屋へと歩く。
部屋を区切る襖は開けられていた。そこに近づいていくとその部屋に起きた現状があたしの目に飛び込む。
「ママ!ママ!」
突然訪れた暗闇から逃げようと襖を叩き、母を呼ぶ。それは痛みを伴った悲鳴だった。
「黙りなさい!」
娘の悲鳴を母は叱責した。これが初めて聞く母の叱責だった。暗闇の中で響き、耳の中で谺する。
「言うことを聞くって約束だったじゃない!なんでいい子にできないの!」
それは、母と一緒にいたかったからだ。あたしには母しかいない。
「ママァ」
「喋るな!あんたさえいなければ!」
私の心中を伝える間もなかった。荒らげた口調整えて、母は静かに命じる。
「いいと言うまで中になさい。絶対にてないで」
私は困惑し、大声すら出すのを忘れていた。止まらなかったのは涙だけで暗い静寂に雫が音もなく流れた。
私が母についてきたのは母の隣にいたかったからだ。家を出発する際、今生の別れだと悟った。それだけは避けたかった。だから、母についていくと決めた。母の言う通りに従って、息苦しくなった生活にも泣き言は言わなかった。
あたしが泣き出したのは母が殴られたからだ。
恐怖で思考が止まった母の顔の赤く腫れた頬が痛々しく、痛みがあたしにまで伝わった。この涙は母の為の涙だった。
なのに、なのに、母はあたしを責めた。
“あんたさえいなければ”
静寂の中で母の叱責が谺する。
途方に暮れて、泣き疲れて、気が付けば深い眠りについていた。閉じ込められた押し入れの中で一晩過ごした。
目蓋を閉じても開けても暗闇は変わらずに押入れの気温は朝晩と変わりなく寒いまま。
暗闇に再び響いたのは母と彰の怒声だった。
「だから言ったんだ!」
「全部私のせいって言いたいの?違うでしょ!あなたが!」
「原因はお前だよ!こんな計画に持ちかけて来なければ!」
「その計画に乗ったのがあなたじゃない!」
交互に交わされる2人の怒声。私は固唾を呑んで口論の結末を見守る。
「待て!どこ行く!」
ボロい床を足で踏みつけるたびにその振動がこちらにまで伝わってくる。怒りに任せた歩調が母のものであると押入れれにいたあたしは気付けなかった。
「もうおしまい!あなたとの関係も!計画も!」
「お金は置いていけ!」
「これは私の計画よ!私が持つ権利がある!」
「ふざけんな!」
「放して!」
途端、母の口調が急に萎えた。
「待って、やめてよ。私が悪かったわ」
「猫被るんじゃねぇ。捨てようとしたくせに」
彰も張り詰めた声色に震えがあった。
「頭に血が上っていたのよ。本当にごめんなさい。愛してるわ」
「今更そんなもん信じるか!」
大きな、とても強い地震が起きた。それは自然現象ではなく、2人の地団駄に似た震動だった。
いや、やめて、と抵抗する母と息を荒らげる彰。押し入れの中で読み取れる情報はそれだけだった。
争い、抵抗している。壁にぶつかり、物を蹴る。そして、ドン、と1番大きい震動が伝わって止まった。足踏みとかではなく、全身の体重が畳の上に落ちる重いものだった。
暗闇の静寂に雨音が戻ってきた。沈黙が続いていたから2人の争いは終わったのだろう。
あたしは悩んだ結果、押入れから出ることにした。ひと晩いたせいで外の光は眩しく思えた。
なるべく足音を立てないように、静かに気配を消すように、隣の部屋へと歩く。
部屋を区切る襖は開けられていた。そこに近づいていくとその部屋に起きた現状があたしの目に飛び込む。
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