糸と蜘蛛

犬若丸

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3章 死神が誘う遊園地

夏と夢と信仰と補習 6

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   赤の他人の失敗・成功の話や離婚・結婚したとか会社での愚痴とかつまらない話を聞かされ続ける。あたしからしてみれば、退屈すぎて苦痛になる。
   仕事を辞めたい。勝手にやめなさいよ。
   夫に愛人がいた。はいはい、そうですか。
   長期休暇に目標を作る、頑張る。だから、何?
   20人の会員はそんなことにも抱かず、価値を言い出せない他人事に対して、慰めたり、応援したり、中には泣いている人までいる。
   得にもならない無駄話を聞かなければならないの?あたしは何しに来たのかしら?
   「次はあなたの番ですよ」
   目的を見失いそうになった時、あたしに向けられた言葉があった。見渡してみれば20人が好奇の目であたしを見ている。その目が「話をし ろ」と命令する。
   「なんでもいいんですよ」
   気味の悪い静寂の中、発言を許せるのは桐と彼が指定した人物だけ。 
   「ないわ」
   あたしは桐を見据えて意思を伝える。
   「なんでもいいのよ。今日の出来事とか、目標とか」
   勧誘女が苦笑いを浮かべる。苦笑いに隠されていたのは「皆と一緒にして」。これを強引に押し付ける。
   「あたしには聞いて欲しい話もないし、応援されたいわけじゃない」
   赤の他人にプライベートを語りたくない。あたしは話をしに来たわけではなく、サプリを貰いに来たのよ。
   すると、会員たちの態度が一変した。
   それまで向けられていたのは新しい仲間への歓迎と好奇だったのに、彼らは異質だと判断して敵視する。沈黙する会員があたしを排除しようと目論む。
   「構いませんよ」
   桐は揺るがない感情と穏やかな表情で話す。
   「初めてですからね。 緊張するのも無理はありません」 
   呆けたことを言う。あたしの手先は強張っていないし、声も震えていない。あたしは背を伸ばして毅然として20人の信者と中心に座る桐と対峙している。
   「皆さん、手を繋げましょう」
   何を言い出すのかと思えば、桐は両の手を左右に伸ばし、隣人に差し伸べる。
   「先程の空気は良くない。慈愛を忘れてはなりません。私たちは純粋な良心を持つものです。悪意に晒されようとも穢れてはいけません。悪意は地獄に落とされ、あなたたちの魂は苦痛から解放されるでしょう」
   会員たちは両隣の人と手を繋ぐ。勧誘女も半ば無理矢理あたしと手を繋ぎ、清音も周囲に倣う。
   「魂は現世と常世を行き交う流水です。現世を巡る度に我々は悪意に傷つきましたが、安心なさい。私が常世で楽園を築き、現世に苦悩のない永遠の幸福を叶えましょう」
   オカルトの類にしか聞こえないその語りに会員は真剣になる。
   あたしは桐の高説を整理していた。
   常世はハザマだと解釈できる。現世と常世を行き交う流水は多分、死霊の魂を示している。地獄はハザマが管理している施設だし、苦痛の解放は魂のプログラムで行える。
   あちら側のことを言い換えている。桐は塊人だわ。
   だとしたら、「楽園を築き」というのは?ハザマのこと?それだと「築いた」と言うのが自然。先程の言い方だと「これから作る」と言っているみたい。
   「目を閉じて。黙祷しましょう。私と魂を1つに、夢を願いましょう」
   全員、顔を伏せて目を閉じる。関係のないハクまでも周りに合わせている。この子は阿呆だから、素直に従う。
   逆にあたしは捻くれ者で、黙祷のふりをした後すぐに頭を上げ、目を開ける。
   誰もが目を瞑っていて、あたしの小さな反抗にも気付いていない。
   20人が囲む会を見渡していると彼らの中心にいる桐と目が合った。会員たちが疑いもせず、従っているのに指示した本人がそれをしていなかった。
   そいつはあたしが黙祷をしないのだと知っていたかのようにじっと見つめている。
   見透かした穏やかな目があたしの思考・感情までも読み取られているような気味の悪さを感じてすぐに頭を伏せた。
   視界にはもう桐はいなかったけれど、未だに視線を感じて冷や汗が湧いた。
   気のせいだと聞かせてもその不安は拭えなかった。
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