糸と蜘蛛

犬若丸

文字の大きさ
259 / 644
3章 死神が誘う遊園地

夏と夢と信仰と補習 8

しおりを挟む
   カンダタは参って、声を上げた。
   1日中、瑠璃の父親の周辺を探っていたわけだが、大した収穫は得られなかった。ただ、中年の社会人をつきまとうだけの1日となってしまった。
   17時を過ぎた夕暮れにカンダタがたどり着いたのは大きな古家であった。表札に「笹塚」とある。これが彼の家らしい。
   収穫はないと諦めて瑠璃の元へと戻ろうかと考えていた。
   だが、古家に行く前の昌次郎は目的地から離れたところで運転手を止めさせ、黒い車から降りた。20分歩いて古家に着いた。
   彼が裕福層の人間であり、専用の運転手がいることもこの1日で知った。それ故に、わざわざ遠回りをし、挙動不審になりながらも歩く彼が不自然であった。
   着いた古家には家人がなかった。会社にはあれほどの部下がいるのだからこの家にも誰かを雇っているものだと思っていた。
   カンダタは静寂が支配する広い家の中に入る。
   伝統を重んじる古家の庭にも立派な蔵があった。あれほど立派な蔵ならば、中に仕舞われているものも値打ちがありそうだ。
   盗人の邪心が囁くも聞かぬふりでやり過ごし、昌次郎と共に庭を横切る。
   廊下を歩いているとその突き当たりから人の気配があった。誰もいないと踏んでいたので少し意外であった。
   気配と言うのは人と人が話し合う声であり、廊下の突き当たりにある部屋は大広間になっているようだった。
   昌次郎はその部屋には入らず、手前の障子に手をかけるとその中に入る。そこは客間になっており、背の低い卓があった。 
   そこで何をするわけでもなく、畳の上であぐらをかいて誰かを待っている様子だ。
   待つだけではカンダタに得られるものはなさそうだ。
   そう判断すると客間を出た。一応この古家も見て回るべきだろう。何より、大広間からする人の気配が気になった。 
   2、3人の気配じゃない。 10人以上人が集まっている。
   障子をすり抜け、廊下の突き当たりにある大広間へと足を進める。すると、大広間の一色から20人ほどの大衆が現れた。老若男女の人々は同じ笑顔を浮かべている。
   あの集団の後を尾けてみようか。揃えられた笑顔がどうも気になる。
   そういうふうに考えていると大広間から少し遅れて出てくる者がいた。白髪頭で丸みのある笑顔。カンダタはその男と目があった。
   白髪頭の男は廊下に立つ亡霊に向け、目を細める。確実にカンダタに向けられた笑みだ。
   咄嗟に背後の壁と後退った。あの男の視界が入らない場所へと移動する。壁をすり抜けると外に出てしまう。
   古家の裏側にあたる場所で動悸を鎮めようとする。
   あの男にはカンダタは見えていた。しかも、カンダタに対して笑っていた。カンダタという存在を認識でき、慣れてもいる。おそらく、あちら側に関わっている者だ。
   だとすれば、あの男と昌次郎との関係はなんだろうか?
   昼間での昌次郎の言動、ここに来るまでの挙動不審。この古家が公に知られたくないものなら、この場所は夢楽土会の活動拠点なのだろう。
   場所を提供し、別の部屋で待機してということは昌次郎は他の信者とは立場が違うようだ。
    カンダタは古家の間取りを思い出すと昌次郎が待機する部屋へと戻る。もう一度、彼について探る必要がある。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

合成師

盾乃あに
ファンタジー
里見瑠夏32歳は仕事をクビになって、やけ酒を飲んでいた。ビールが切れるとコンビニに買いに行く、帰り道でゴブリンを倒して覚醒に気付くとギルドで登録し、夢の探索者になる。自分の合成師というレアジョブは生産職だろうと初心者ダンジョンに向かう。 そのうち合成師の本領発揮し、うまいこと立ち回ったり、パーティーメンバーなどとともに成長していく物語だ。

熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)

MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

診察室の午後<菜の花の丘編>その1

スピカナ
恋愛
神的イケメン医師・北原春樹と、病弱で天才的なアーティストである妻・莉子。 そして二人を愛してしまったイケメン御曹司・浅田夏輝。 「菜の花クリニック」と「サテライトセンター」を舞台に、三人の愛と日常が描かれます。 時に泣けて、時に笑える――溺愛とBL要素を含む、ほのぼの愛の物語。 多くのスタッフの人生がここで楽しく花開いていきます。 この小説は「医師の兄が溺愛する病弱な義妹を毎日診察する甘~い愛の物語」の1000話以降の続編です。 ※医学描写はすべて架空です。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

処理中です...