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3章 死神が誘う遊園地
夏と夢と信仰と補習 13
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表口は人通りが多くて暇潰しに丁度良い軽食店や雑貨店があるのに対して裏口は自転車置き場ぐらいしかない。
コンビニ店員は酔ってもいないのに千鳥足で、平衡感覚が狂っているようだった。ポケットから落としたスマホも拾おうとしない。
「他に変わったところは?」
カンダタが聞く。
「徘徊しているだけだな。あと気になるとしたらこの駅の路線、飛び降り自殺が多いんだ」
路線ということはこの駅に自殺者が集中しているわけではないらしい。
コンビニ店員がフェンスに凭れる。その様子は夏の熱にやられた症状に見える。
あたしは迷った末、コンビニ店員の傍に歩み寄る。教祖を気取ったあの男はあたしを夢の世界に招き入れるつもりらしい。
なら、夢に行けるカプセル剤を服用し続けたらどうなるのか。その結末を知るべきだ。
「ねぇ、あなた」
彼が落としたスマホを拾い、呼びかけてみる。
コンビニ店員が立つこともできずに蹲っていた。あたしの呼びかけにも応答しない。
「救急車じゃね?」
光弥が提案するも、介抱するつもりで歩み寄ったわけではないので無視する。
「あなた杉本、さんよね?近くのコンビニで働いている。夢園っていうサプリある?」
さっきまで無反応だったのに「夢園」と言うワードが出た途端、コンビニ店員は顔を見上げる。
「りゅ、め?」
呂律が狂ったような発音だった。彼が発した単語が「夢」だとすぐにはわからなかった。
「ねぇ、これあなたの落し物よね?」
落としたスマホを差し出す。仰向けになった画面にはバイト先だと思われる着信メッセージがずらりと並んでいる。
それを見るなりコンビニ店員が青ざめてポケットからピルケースを取り出す。中には5錠くらいのサプリしか入っていなかった。
10錠20錠と量を増やしていったのだからそれだけだと少なく感じるでしょうね。
たった5錠のカプセル剤をコンビニ店員は噛み砕く。
「夢に、夢に戻らないと。現実は駄目、駄目、戻れ戻れ戻れ、帰るんだあの場所に遊園地に」
脈絡のない言葉を繰り返す。
「遊園地って?」
会話は期待できないとわかっていながら問う。
するとカンカンと甲高い警報があたしの質問を搔き消した。近くの踏切に遮断機が降ろされる。もうすぐこの駅に電車が来る。
「死神が誘ってる」
警報音の中で彼が呟いた。あたしはそれをうまく聞き取れなかった。はっきりと捉えたのはカンダタだけだった。
「瑠璃止めろ!」
「え?」
あたしから声が漏れる。カンダタの理解できない怒声はあたしの思考を停止させた。
唖然としたあたしの横を風切って去ったのはあのコンビニ店員だった。
彼はスイッチが切り替わったかのように身体の倦怠感を無視して、網目のフェンスを登るとあっという間に線路側に立つ。
あたしは息を呑んで走り出す店員の背中を眺めていた。
警報が鳴り止まない。電車はすぐには止まれない。駅のホームからアナウンサーが危険を知らせている。彼はそれをわかっていて線路の上に寝そべる。
電車が急ブレーキで減速しながらくる。線路と車輪が火花を散らして耳障りな金属音を鳴らす。
間に合わない。
電車と店員との距離が縮まっていく。店員の命に対する倫理観は壊れていた。線路真ん中で声を上げ、大の字になって横たわる。その顔は喜びに満ちていて。
満面の笑みになった店員の上を車輪が通った。車両が多ければ車輪の数も多くなる。数多の車輪によって店員の身体は刻まれた。
コンビニ店員は酔ってもいないのに千鳥足で、平衡感覚が狂っているようだった。ポケットから落としたスマホも拾おうとしない。
「他に変わったところは?」
カンダタが聞く。
「徘徊しているだけだな。あと気になるとしたらこの駅の路線、飛び降り自殺が多いんだ」
路線ということはこの駅に自殺者が集中しているわけではないらしい。
コンビニ店員がフェンスに凭れる。その様子は夏の熱にやられた症状に見える。
あたしは迷った末、コンビニ店員の傍に歩み寄る。教祖を気取ったあの男はあたしを夢の世界に招き入れるつもりらしい。
なら、夢に行けるカプセル剤を服用し続けたらどうなるのか。その結末を知るべきだ。
「ねぇ、あなた」
彼が落としたスマホを拾い、呼びかけてみる。
コンビニ店員が立つこともできずに蹲っていた。あたしの呼びかけにも応答しない。
「救急車じゃね?」
光弥が提案するも、介抱するつもりで歩み寄ったわけではないので無視する。
「あなた杉本、さんよね?近くのコンビニで働いている。夢園っていうサプリある?」
さっきまで無反応だったのに「夢園」と言うワードが出た途端、コンビニ店員は顔を見上げる。
「りゅ、め?」
呂律が狂ったような発音だった。彼が発した単語が「夢」だとすぐにはわからなかった。
「ねぇ、これあなたの落し物よね?」
落としたスマホを差し出す。仰向けになった画面にはバイト先だと思われる着信メッセージがずらりと並んでいる。
それを見るなりコンビニ店員が青ざめてポケットからピルケースを取り出す。中には5錠くらいのサプリしか入っていなかった。
10錠20錠と量を増やしていったのだからそれだけだと少なく感じるでしょうね。
たった5錠のカプセル剤をコンビニ店員は噛み砕く。
「夢に、夢に戻らないと。現実は駄目、駄目、戻れ戻れ戻れ、帰るんだあの場所に遊園地に」
脈絡のない言葉を繰り返す。
「遊園地って?」
会話は期待できないとわかっていながら問う。
するとカンカンと甲高い警報があたしの質問を搔き消した。近くの踏切に遮断機が降ろされる。もうすぐこの駅に電車が来る。
「死神が誘ってる」
警報音の中で彼が呟いた。あたしはそれをうまく聞き取れなかった。はっきりと捉えたのはカンダタだけだった。
「瑠璃止めろ!」
「え?」
あたしから声が漏れる。カンダタの理解できない怒声はあたしの思考を停止させた。
唖然としたあたしの横を風切って去ったのはあのコンビニ店員だった。
彼はスイッチが切り替わったかのように身体の倦怠感を無視して、網目のフェンスを登るとあっという間に線路側に立つ。
あたしは息を呑んで走り出す店員の背中を眺めていた。
警報が鳴り止まない。電車はすぐには止まれない。駅のホームからアナウンサーが危険を知らせている。彼はそれをわかっていて線路の上に寝そべる。
電車が急ブレーキで減速しながらくる。線路と車輪が火花を散らして耳障りな金属音を鳴らす。
間に合わない。
電車と店員との距離が縮まっていく。店員の命に対する倫理観は壊れていた。線路真ん中で声を上げ、大の字になって横たわる。その顔は喜びに満ちていて。
満面の笑みになった店員の上を車輪が通った。車両が多ければ車輪の数も多くなる。数多の車輪によって店員の身体は刻まれた。
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