糸と蜘蛛

犬若丸

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4章 闇底で交わす小指

夏と秋の狭間で 3

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 「そんなことない。カンダタさんはすごいのよ。いざって時には助けてくれるし、それに」
 惚れた相手を馬鹿にされた清音はむきなって反論するも評価は変わらない。
 それに同棲なんてふざけたことを言っているけれど、亡霊がマンションに取り憑いていているだけ。
 それできるのなら除霊をお願いしたい。
 清音の話を聞き流しながら、ステーキの切れ端をフォークで刺し、ハクに向ける。
 ハクはシャリアピンステーキに興味を示さない。寧ろ、鼻筋から眉間まで皺を寄せ、硬く口を閉ざすと拗ねたようにそっぽを向く。
 チキンがなくて拗ねたくもなるだろうけれど、ないものはない。
 「あの赤い瞳とか素敵よね。不気味だなって思ってたんだけど、いつの間にか見ていたくなったというか」
 清音の反論は惚気話に変わっていた。
 「惚れてるのはわかったから。喋りすぎよ」
 熱弁していたと自覚した清音は赤らめた顔のまま、しおらしくなる。
 この流れだと恋愛相談されそう。
 恋愛というだけでも鳥肌がたちそうなのに「会わせて」とか「何が好みなの?」とか、そんなとこまで訊かれたら吐き気がする。
 せっかくのスイーツブッフェが台無しになる前に話題を変える。
 「カンダタよりもケイの調子はどうなの?」
 あたしが認識した限りで、夢園でのケイは腕一本だけになっていた。そんな状態でよくバグに挑んだとカンダタよりも労えばいいのに。
 「大分、回復したよ。でも、まだ本調子ではないみたい。人の姿になるには2週間ぐらい必要だって」
 大事な飼い猫の話になると惚ける場合ではなくなる。
 「腕一本なくなっても生えてくるんでしょ。生死を持たない存在なんだからそんな心配しなくてもいいじゃない」
 「そういう問題じゃないってわかってるでしょ」
 もちろんわかっている。これでも倫理観は備えてある。けれど、あたしという性格は誰かを不快にさせたくて仕様がない。
 「なんで、ケイの話を?」
 清音の素朴な疑問にあたしは紅茶を飲んでひと息つく。
 「十手のことはさっき言ったわね」
 「ちょっとだけね。特別な物なんだよね」
 「塊人にとっては核爆弾と同等らしいわよ。あたしには理解できないけれど」
 鞄から核爆弾を取り出してテーブルの上に置く。コロコロと転がったのは白いシャープペンシルだった。
 「これがあの十手?」
 清音が驚くのも無理はない。鉄棒の形をしていた十手は現世に戻った途端、ペンに変形した。
 所有者が必要とした物に形が変わるらしい。だとしたら、あたしはペンを必要としたことになるけれど、ペンは充分にある。
 白いペンを手の上で回し、これからのことを話す。
 「この元十手を交渉の切り札にする」
 交渉の相手はハザマの管理者 わたり。十手を使ってあたしたちが欲しい情報を引き出すのが狙い。
 「敵地に乗り込んで交渉しに行くから護衛にケイがいるのよ」
 戦闘慣れしているのはケイしかいない。
 白糸という能力があっても可能なのは物を動かしたり、くっつけたり。最近では他人の位置がわかるようになった。それを踏まえても戦闘には向いていない。
 白鋏があればマシだったのに。あれは夢園のキャストが砕いてしまった。白糸・白鋏は物ではなく、魂の一部だからいつでも顕現できるらしい。今のところ、その気配はない。
 それにどんなすごい能力を持っていてもあたしはただの高校生。場慣れしている相手には敵わない。
 「危ないことになる?」
 「また怪我を負わせるかもね」
 「カンダタさんも行くの?」
 「そりゃあ、そうでしょうね」
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