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4章 闇底で交わす小指
胚羊水 4
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ケイと光弥が人質になり、十手を拾って胚羊水に呑まれた清音を救出する。
それが胚羊水に潜る理由になったわけだが、瑠璃の優先は3人を助けるより十手を取り戻すことだ。
瑠璃が非情的になると窘めてきたカンダタだったが、今回は他人のことが言えない。
もちろん、とらわれた人を助けたいという気持ちはある。それもあるが、黒い濁流に呑まれた時に聞いたあの声が忘れられなかった。
瑠璃は階段の手すりに白糸を括る。胚羊水からハザマへと戻る際はこの白糸が目印になる。
「2人の白糸は?ちゃんと繋がっているか?」
光弥が訊ねてきた。何気ない口調だが、両手は拘束され、喉には刃が突き付けられている。
「切れることは無いわ」
瑠璃が断言すると踵を返してカンダタと肩を並べる。2人が対峙するのは黒い水面だ。
胚羊水の水面は何も映さない。そこには怨嗟を孕んだ声が潜んでいるが、底無しの黒に沈み、カンダタたちには届かない。
カンダタを呼ぶ声も聞こえない。
あの声をはっきりと聞いたわけではない。カンダタの名を言ったわけでもなく、男女の判別さえつかない。しかし、カンダタは呼ばれた。それだけははっきりとしている。
「いいか?胚羊水では白糸だけが頼りだ。それを見失うと魂が胚羊水に呑まれるかもしれない。戻ってこれないと考えていい」
光弥が釘を刺すように言う。
あちら側の理を熟知している光弥と弥ですら「何が起こるかわからない」と言っていた。底無しの黒の中では隣人の存在だけが頼りだ。
「瑠璃にとっての頼りは母親への恨みだ」
カンダタは自分の解釈を瑠璃に話す。
瑠璃の話では、彼女が母と呼ばれて母であることを拒んだ。それが瑠璃の母親に対する恨みからくるものならば、胚羊水が孕む黒に呑まれずに瑠璃が瑠璃として繋ぎ留めるものは「母への恨み」だ。
「忘れるなよ」
「忘れたことなんかないわよ」
恨みを吐いたその言葉が頼もしい。
「カンダタこそ、呼ばれている声に呑まれないようにね」
続けて言われた台詞が挑発的だった。カンダタの腹中は見抜かれているらしい。
誘われるままに呼ばれる声のもとに近づこうとする。その危うさは承知している。それでも声の正体を知りたいのだ。
カンダタと瑠璃が水面に足を踏み入れる。水中の段差を足裏で探りながら降りていく。
胚羊水に冷気はなかった。寧ろ、優しい温もりに安らぎを得る。全身が黒い液体に浸ったとしても息苦しさはなく、通常通りに呼吸ができる。
黒く染められた視界。一寸先も見えないというのに瑠璃は隣にいるのだと確信を持てた。2人を繋ぐ白糸がそう思わせているのかもしれない。
沈んでいく感覚が次第になくなっていき、上下左右の方角さえも見失う。
そんな闇の向こうからくぐもった声がする。何を言っているのかさえもわからない。音だけが届く。
それがカンダタを呼ぶ声だと直感していた。
その感覚は不思議なものだった。
呼び声を頼りに重心をかけ、その方向に身体を沈める。すると、瑠璃が袖を掴んできた。
瑠璃には呼ぶ声が聞こえない。彼女からしてみれば何を頼りにして向かえばいいのかわからないのだ。
足が空気に触れる。その瞬間、今までになかった重力が全身にかかる。カンダタたちは黒い液体から落とされ、硬い床の衝撃が着地した脚に響く。
それが胚羊水に潜る理由になったわけだが、瑠璃の優先は3人を助けるより十手を取り戻すことだ。
瑠璃が非情的になると窘めてきたカンダタだったが、今回は他人のことが言えない。
もちろん、とらわれた人を助けたいという気持ちはある。それもあるが、黒い濁流に呑まれた時に聞いたあの声が忘れられなかった。
瑠璃は階段の手すりに白糸を括る。胚羊水からハザマへと戻る際はこの白糸が目印になる。
「2人の白糸は?ちゃんと繋がっているか?」
光弥が訊ねてきた。何気ない口調だが、両手は拘束され、喉には刃が突き付けられている。
「切れることは無いわ」
瑠璃が断言すると踵を返してカンダタと肩を並べる。2人が対峙するのは黒い水面だ。
胚羊水の水面は何も映さない。そこには怨嗟を孕んだ声が潜んでいるが、底無しの黒に沈み、カンダタたちには届かない。
カンダタを呼ぶ声も聞こえない。
あの声をはっきりと聞いたわけではない。カンダタの名を言ったわけでもなく、男女の判別さえつかない。しかし、カンダタは呼ばれた。それだけははっきりとしている。
「いいか?胚羊水では白糸だけが頼りだ。それを見失うと魂が胚羊水に呑まれるかもしれない。戻ってこれないと考えていい」
光弥が釘を刺すように言う。
あちら側の理を熟知している光弥と弥ですら「何が起こるかわからない」と言っていた。底無しの黒の中では隣人の存在だけが頼りだ。
「瑠璃にとっての頼りは母親への恨みだ」
カンダタは自分の解釈を瑠璃に話す。
瑠璃の話では、彼女が母と呼ばれて母であることを拒んだ。それが瑠璃の母親に対する恨みからくるものならば、胚羊水が孕む黒に呑まれずに瑠璃が瑠璃として繋ぎ留めるものは「母への恨み」だ。
「忘れるなよ」
「忘れたことなんかないわよ」
恨みを吐いたその言葉が頼もしい。
「カンダタこそ、呼ばれている声に呑まれないようにね」
続けて言われた台詞が挑発的だった。カンダタの腹中は見抜かれているらしい。
誘われるままに呼ばれる声のもとに近づこうとする。その危うさは承知している。それでも声の正体を知りたいのだ。
カンダタと瑠璃が水面に足を踏み入れる。水中の段差を足裏で探りながら降りていく。
胚羊水に冷気はなかった。寧ろ、優しい温もりに安らぎを得る。全身が黒い液体に浸ったとしても息苦しさはなく、通常通りに呼吸ができる。
黒く染められた視界。一寸先も見えないというのに瑠璃は隣にいるのだと確信を持てた。2人を繋ぐ白糸がそう思わせているのかもしれない。
沈んでいく感覚が次第になくなっていき、上下左右の方角さえも見失う。
そんな闇の向こうからくぐもった声がする。何を言っているのかさえもわからない。音だけが届く。
それがカンダタを呼ぶ声だと直感していた。
その感覚は不思議なものだった。
呼び声を頼りに重心をかけ、その方向に身体を沈める。すると、瑠璃が袖を掴んできた。
瑠璃には呼ぶ声が聞こえない。彼女からしてみれば何を頼りにして向かえばいいのかわからないのだ。
足が空気に触れる。その瞬間、今までになかった重力が全身にかかる。カンダタたちは黒い液体から落とされ、硬い床の衝撃が着地した脚に響く。
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