6 / 644
1章 神様が作った実験場
彼女の日常について 6
しおりを挟む
電車は事故もなくいつも通り発進した。車内の背もたれに身体を預けて車輪の回る音と流れる雨音を聞く。
時折、車内はゆりかごになる。黄昏ているだけなのに瞼が重い。車輪の子守唄を聞いているうちに眠りに落ちていた。
暗闇に身体が一つ。手首から伸びる一本の白い糸。いつもの夢ね。
周囲の赤い糸を無視して、手首の白い糸を辿る。
いつもいつも、あたしはこの糸を辿る。なぜか辿る。誰かがあたしの身体を操っているみたいに。あたしの意志は弱くなっていて代わりに誰かがあたしを動かす。そして、着くのはいつも同じ場所。
荒廃した世界であたしは進まない電車の中にいた。
割れた車窓から強風が吹いていて、舞い上がった埃や砂が車内に入り込み、視界を悪くさせていた。風が作る砂の壁の向こうに一人の男が立っている。
人が食べられる夢をたくさん見てきたけれど、あんな古風の人は初めて。
黒い浴衣、かしら?長着の裾をたくし上げて、帯に織り込んでいる。祭りで見かける恰好に似ている。でも身なりが汚い。不摂生な髪もボロ切れ当然の浴衣も好意は持てない。それよりも不気味に思ったのは瞳だ。不吉な赤い色をしていた。
赤い眼であたしをじっと見つめ返してくるものだから、こちらが見えているんじゃないのかと、不安になってしまう。今までこんなことはなかった。
困惑の最中、疾風が吹いて流れる砂の量が増える。感覚がないとわかっていても急に吹いた砂嵐に目を閉じてしまう。
目を閉じたのはほんの一瞬で、その内に風は止んで地獄の風景は消えていた。
瞼をあげてみると別の世界が広がる。
ここは蓮と水平線の世界?また?
なんだろう、この感覚。おかしなことが続いている。
背後に気配を感じて振り返る。目の前には鬼がいた。でも、奇妙な鬼だった。角の先から足のつま先までシミ一つない純白の色をしていた。
色が違っても剥き出された牙と鋭い鉤爪、2mの巨躯。これらの恐怖は拭えない。
しかも、あたしが見えているようで黒い瞳の目線はあたしに合せて揺らいでいる。
逃避という2文字が浮かぶ。牙が喉に届く前に走れと本能が叫ぶ。
「こんにちは鬼さん。前の夢であたしを呼んだのはあなた?」
敢えて、本能に逆らった。冷静に沈着に対応しよう。大丈夫、牙も鉤爪も敵意のある動きをしていない。
白い鬼が腰を下ろして目線を下げる。あたしとの対話を望んでいるような、そんな姿勢だった。
「この夢を見せているのはあなた?」
なんでもいいから聞いてみる。相手が対話を望むなら異形なその鬼にも話をみてみよう。どうせ夢の中だから、何をしても許される。
「何で白いの?」
白いそいつはどの質問にも首を傾げるだけで返答がない。犬と会話をしているみたい。
「つまんない夢。早く覚めてほしいわ」
それを聞くと鬼は何か慌てるように首を横に振ると、鋭い爪を一本立てて、とある方向を差す。
なんとなく、示された方向を向いてみると何もない。蓮と水平線があるだけ。その方向に行けって言うの?
白い鬼の顔色を窺ってみても、鬼の表情なんてわかる筈がない。
従ってみよう。
あたしは気まぐれに歩き始める。
時折、車内はゆりかごになる。黄昏ているだけなのに瞼が重い。車輪の子守唄を聞いているうちに眠りに落ちていた。
暗闇に身体が一つ。手首から伸びる一本の白い糸。いつもの夢ね。
周囲の赤い糸を無視して、手首の白い糸を辿る。
いつもいつも、あたしはこの糸を辿る。なぜか辿る。誰かがあたしの身体を操っているみたいに。あたしの意志は弱くなっていて代わりに誰かがあたしを動かす。そして、着くのはいつも同じ場所。
荒廃した世界であたしは進まない電車の中にいた。
割れた車窓から強風が吹いていて、舞い上がった埃や砂が車内に入り込み、視界を悪くさせていた。風が作る砂の壁の向こうに一人の男が立っている。
人が食べられる夢をたくさん見てきたけれど、あんな古風の人は初めて。
黒い浴衣、かしら?長着の裾をたくし上げて、帯に織り込んでいる。祭りで見かける恰好に似ている。でも身なりが汚い。不摂生な髪もボロ切れ当然の浴衣も好意は持てない。それよりも不気味に思ったのは瞳だ。不吉な赤い色をしていた。
赤い眼であたしをじっと見つめ返してくるものだから、こちらが見えているんじゃないのかと、不安になってしまう。今までこんなことはなかった。
困惑の最中、疾風が吹いて流れる砂の量が増える。感覚がないとわかっていても急に吹いた砂嵐に目を閉じてしまう。
目を閉じたのはほんの一瞬で、その内に風は止んで地獄の風景は消えていた。
瞼をあげてみると別の世界が広がる。
ここは蓮と水平線の世界?また?
なんだろう、この感覚。おかしなことが続いている。
背後に気配を感じて振り返る。目の前には鬼がいた。でも、奇妙な鬼だった。角の先から足のつま先までシミ一つない純白の色をしていた。
色が違っても剥き出された牙と鋭い鉤爪、2mの巨躯。これらの恐怖は拭えない。
しかも、あたしが見えているようで黒い瞳の目線はあたしに合せて揺らいでいる。
逃避という2文字が浮かぶ。牙が喉に届く前に走れと本能が叫ぶ。
「こんにちは鬼さん。前の夢であたしを呼んだのはあなた?」
敢えて、本能に逆らった。冷静に沈着に対応しよう。大丈夫、牙も鉤爪も敵意のある動きをしていない。
白い鬼が腰を下ろして目線を下げる。あたしとの対話を望んでいるような、そんな姿勢だった。
「この夢を見せているのはあなた?」
なんでもいいから聞いてみる。相手が対話を望むなら異形なその鬼にも話をみてみよう。どうせ夢の中だから、何をしても許される。
「何で白いの?」
白いそいつはどの質問にも首を傾げるだけで返答がない。犬と会話をしているみたい。
「つまんない夢。早く覚めてほしいわ」
それを聞くと鬼は何か慌てるように首を横に振ると、鋭い爪を一本立てて、とある方向を差す。
なんとなく、示された方向を向いてみると何もない。蓮と水平線があるだけ。その方向に行けって言うの?
白い鬼の顔色を窺ってみても、鬼の表情なんてわかる筈がない。
従ってみよう。
あたしは気まぐれに歩き始める。
0
あなたにおすすめの小説
熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)
MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
捨てられた者同士でくっ付いたら最高のパートナーになりました。捨てた奴らは今更よりを戻そうなんて言ってきますが絶対にごめんです。
亜綺羅もも
恋愛
アニエル・コールドマン様にはニコライド・ドルトムルという婚約者がいた。
だがある日のこと、ニコライドはレイチェル・ヴァーマイズという女性を連れて、アニエルに婚約破棄を言いわたす。
婚約破棄をされたアニエル。
だが婚約破棄をされたのはアニエルだけではなかった。
ニコライドが連れて来たレイチェルもまた、婚約破棄をしていたのだ。
その相手とはレオニードヴァイオルード。
好青年で素敵な男性だ。
婚約破棄された同士のアニエルとレオニードは仲を深めていき、そしてお互いが最高のパートナーだということに気づいていく。
一方、ニコライドとレイチェルはお互いに気が強く、衝突ばかりする毎日。
元の婚約者の方が自分たちに合っていると思い、よりを戻そうと考えるが……
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。
すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。
だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。
イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。
変わり果てた現実を前に、
夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。
深い後悔と悲しみに苛まれながら、
失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。
しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。
贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。
そして、母の心を知っていく子供たち。
イネスが求める愛とは、
そして、幸せとは――。
甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ
朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】
戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。
永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。
信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。
この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。
*ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。
愛しているなら拘束してほしい
守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる