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6章 盤上の外で蜘蛛喰い蝶は笑う
孤独な家の中 7
しおりを挟む玄関に立つ。溜息を吐く。
死んでもやり直せるとは言え、3度も死ぬと心身ともに疲労する。
しかも、同じような罠に嵌ってしまう。次はないと意気込んでも偽物の紅柘榴を前にすると簡単に流される。
家の中の探索を始めてからそれほど経っていない。まだ入っていない部屋もある。
この先のことに憂鬱になりながらも探索は続いた。
浴室の向かいの扉に手をかけるも鍵がかかっているのか開かなかった。木目板の扉を壊せば入るのも可能だろうが、それは最終手段として取っておくことにした。
開かずの扉を放っておき、一階を歩き回る。物が置いていない物置に花柄に囲まれた便所と変わったものはなかった。あと残ったのは玄関に一番近い扉だけだ。庭の植木で窓が隠れていた部屋だろう。
ドアノブが回った。鍵が開いている。
室内はすべての光を吸収した黒一色の暗闇しか存在しなかった。目を凝らしても見えるのはそればかりだ。
カンダタは深淵に手を伸ばし、何かないかと誘ってみるが、何も掴めず宙を彷徨うだけであった。
手だけではなく、片脚を深淵に踏み入れ、ゆっくりと慎重に迷いながらも反対の脚を侵入させる。
両手を前につき出し、障害物はないかと警戒する。足はまっすぐに進んでいるつもりだが、暗闇しかないので方向感覚がない。恐れて迷う両足は一歩踏むのも遅い。
暗闇を彷徨う手が何か捕らえた。目で見ようとしても何も見えないままだ。
部屋を飾る物置だろうか。ゴム製のものだ。両手でそれを掴み、ふにふにと触れて探る。
棒状のものだろうか。植物のようなものか。いや、これは人の腕だ。この感触は人形だろう。
腕を辿れば肩に着き、肩から首、そして顔へと到着する。
目には見えない。顔の輪郭だけでは人の表情はわからない。これは紅柘榴だ。それは確信していた。人形の紅柘榴がこの部屋にいる。
真っ当な人形のようだ。動く気配がない。
カンダタは等身大の紅柘榴を避けようと右に寄る。そこで同じような人形にぶつかってしまう。どうやら部屋中にあるようだ。
手をつき出してみれば、ゴム製の肌に当たる。いくつも立っている人形の合間を縫いながら奥に何があるのかもわからずに進んでいく。
不意に袖が人形の指に引っかかり、進行が止まった。これだけ人形があるのだ。こういうこともあるだろう。
引っかかりを解こうと人形の手に触れた。そこでおかしいと気付く。人形の手が袖を握っている。袖に引っ掛かっただけでこうはならない。
指一本一本を丁寧に解き、人形の手から離れる。
いくつもの人形に囲まれているせいか何も見えないのに視線だけは感じる。
多くの紅柘榴から逃げたい衝動が湧く。カンダタはそれらから逸らすように離れようとした。しかし、3歩進んだ先で別の人形がカンダタの手を握ってきた。
乱雑に振り解こうとしたが、強い手は離れようとしなかった。
カンダタが手こずっているうちに背後から首を締められた。それらに押し倒され、柔らかい絨毯が背に当たる。
静かに殺されている。
手足を拘束され、鼻口を塞がれ、ゆっくりと絞殺される。
抵抗もしなくなっていた。ここまでくると意味がないと体験したからだ。
目を閉じる。閉められた首が強く脈打つ。この鼓動が生きる実感を与えるのだろう。死んでいる間方は漠然とそんなことを考えた。
ゆっくりと息苦しさを感じながら死の淵に身を任せる。
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