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7章 赤い珠が映す空想未来
白い鬼、幼い記憶 7
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押し入れの外で乳母さんが兄を呼んでいる。
兄の太ももの上で寛いでいた私を下ろして人差し指を唇に当てた。さっき話していた事は内緒だと無言で約束させ、こっそりと押し入れから出る。
明かりがない押し入れで兄がいなくなるとさらに暗くなった気がする。
押し入れの外では乳母さんと兄が話し合っていて、乳母さんが押し入れにいたのかと責める口調で質問すれば「心配だった」「悪かった」と兄が素気なく答える。
乳母さんの声色は苛立っていた。二人は言い争いながら声が遠くなっていく。
押し入れの中でまた一人ぼっちになった。喧騒がなくなると押し入れの静けさでまた泣きたくなった。
乳母さんが兄に怒る時、乳母さんが私に起こる時、乳母さんの表情は違う。
兄に対しての怒りは心配からくるものだ。寒いから入りなさいとかご飯食べなさいとか、外は危ないとかそんなことばかり。
なら、私に対してはどうだろう。
横になって丸まってそんなことを考えていたらいつの間にか眠っていた。
朝になって日が高くなると私は押し入れから解放された。朝餉は私だけだった。食事は三人で食べているのに。きっと押入れから出るのが遅くなったからだろう。
その朝食を終えた後、兄を遊びに誘うとしたがどこにもいない。
探し回る私に乳母さんが行ってきた。しばらく兄とは合わせないと。だから私だけご飯を食べていた。
「ご飯の時も一人なの、いつまで一人なの」
「ずっとよ。これからもずっと」
それに私は目を大きくした。今まで皆んなとご飯を食べていたのに私だけと言う事実が胸の奥を刺してくる。
「約束してるの。蹴鞠をしようって」
「駄目よ」
乳母さんは困ったように眉を垂らして駄目と繰り返す。いつもは優しくても駄目と言う時は何を言っても駄目と言う。
なんでなんでと繰り返しても乳母さんは答えてくれなくて、私に鞠を渡すとしばらく外で遊んでなさいと戸を閉められた。
私は鞠を持たされて、外に追い出され途方にくれた。
押し入れに閉じ込められたのは一度だけじゃない。一人にさせられても乳母さんは優しくしてくれるし、兄がそばによって元気付けてくれた。なのにいきなり温かみをしなったような気がする。
離れじゃないのに離れのような静けさがして怖くなった。
鞠をついて唄でも口ずさんでみたけれど、楽しむ相手がいてくれないと楽しくない。
閉められた縁側の戸を見つめた。私を拒絶するような戸は黙っている。私を受け入れて開いてくれないかなと期待したけど、いくら待ってもその気配はない。
勝手に入ってしまおうか。でもそれで乳母さんにに怒られるのも嫌だし、嫌われるのはもっと嫌だ。
鞠をついて唄を口ずさむ。それで嫌なことを忘れられたらよかったのに迷いは迷いではなくなって、強い思いになる。
一人は嫌だ。外は寒い。言いつけを破って迷ってしまおうか。
うわの空でいたせいで地面をついていた鞠があらぬ方向に跳ねて花々の群生に入った。
私はすぐに追いかけて鞠を拾うと背後から戸が開く音を聞いた。乳母さんだと喜んで振り返ると兄が戸を開けていた。
一気に興奮して声が上がりそうになると兄はしぃ、と人差し指で静かにと合図した。
なるべく音を立てないように戸を閉めて、私に近寄ってくると小声で話しかける。
「内緒できたんだ。見つかるまでは一緒だ」
「見つかったらどうするの」
「一緒に怒られよう」
茶化して笑い、私もつられて笑った。
持っている鞠を兄から受け取ろうと私の手を握る。
「こんなに冷たくなって」
「動けば平気」
実際にそうだ。あんなに寒くて凍えそうだったのに兄が来てくれただけで暖かくなった気がする。
兄の太ももの上で寛いでいた私を下ろして人差し指を唇に当てた。さっき話していた事は内緒だと無言で約束させ、こっそりと押し入れから出る。
明かりがない押し入れで兄がいなくなるとさらに暗くなった気がする。
押し入れの外では乳母さんと兄が話し合っていて、乳母さんが押し入れにいたのかと責める口調で質問すれば「心配だった」「悪かった」と兄が素気なく答える。
乳母さんの声色は苛立っていた。二人は言い争いながら声が遠くなっていく。
押し入れの中でまた一人ぼっちになった。喧騒がなくなると押し入れの静けさでまた泣きたくなった。
乳母さんが兄に怒る時、乳母さんが私に起こる時、乳母さんの表情は違う。
兄に対しての怒りは心配からくるものだ。寒いから入りなさいとかご飯食べなさいとか、外は危ないとかそんなことばかり。
なら、私に対してはどうだろう。
横になって丸まってそんなことを考えていたらいつの間にか眠っていた。
朝になって日が高くなると私は押し入れから解放された。朝餉は私だけだった。食事は三人で食べているのに。きっと押入れから出るのが遅くなったからだろう。
その朝食を終えた後、兄を遊びに誘うとしたがどこにもいない。
探し回る私に乳母さんが行ってきた。しばらく兄とは合わせないと。だから私だけご飯を食べていた。
「ご飯の時も一人なの、いつまで一人なの」
「ずっとよ。これからもずっと」
それに私は目を大きくした。今まで皆んなとご飯を食べていたのに私だけと言う事実が胸の奥を刺してくる。
「約束してるの。蹴鞠をしようって」
「駄目よ」
乳母さんは困ったように眉を垂らして駄目と繰り返す。いつもは優しくても駄目と言う時は何を言っても駄目と言う。
なんでなんでと繰り返しても乳母さんは答えてくれなくて、私に鞠を渡すとしばらく外で遊んでなさいと戸を閉められた。
私は鞠を持たされて、外に追い出され途方にくれた。
押し入れに閉じ込められたのは一度だけじゃない。一人にさせられても乳母さんは優しくしてくれるし、兄がそばによって元気付けてくれた。なのにいきなり温かみをしなったような気がする。
離れじゃないのに離れのような静けさがして怖くなった。
鞠をついて唄でも口ずさんでみたけれど、楽しむ相手がいてくれないと楽しくない。
閉められた縁側の戸を見つめた。私を拒絶するような戸は黙っている。私を受け入れて開いてくれないかなと期待したけど、いくら待ってもその気配はない。
勝手に入ってしまおうか。でもそれで乳母さんにに怒られるのも嫌だし、嫌われるのはもっと嫌だ。
鞠をついて唄を口ずさむ。それで嫌なことを忘れられたらよかったのに迷いは迷いではなくなって、強い思いになる。
一人は嫌だ。外は寒い。言いつけを破って迷ってしまおうか。
うわの空でいたせいで地面をついていた鞠があらぬ方向に跳ねて花々の群生に入った。
私はすぐに追いかけて鞠を拾うと背後から戸が開く音を聞いた。乳母さんだと喜んで振り返ると兄が戸を開けていた。
一気に興奮して声が上がりそうになると兄はしぃ、と人差し指で静かにと合図した。
なるべく音を立てないように戸を閉めて、私に近寄ってくると小声で話しかける。
「内緒できたんだ。見つかるまでは一緒だ」
「見つかったらどうするの」
「一緒に怒られよう」
茶化して笑い、私もつられて笑った。
持っている鞠を兄から受け取ろうと私の手を握る。
「こんなに冷たくなって」
「動けば平気」
実際にそうだ。あんなに寒くて凍えそうだったのに兄が来てくれただけで暖かくなった気がする。
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