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7章 赤い珠が映す空想未来
白い鬼、幼い記憶 9
しおりを挟む火鉢を挟んで兄は餅を焼いてくれた。
「今夜は俺と一緒に寝ようか」
焼ける餅を待ちながら兄が言ってきた。
「いいの」
歓喜で声が跳ねたが、すぐに冷静になった。
「でも乳母さんに怒られるよ」
兄は頭を振って私の心配事を否定する。
「あの人も蝶男もこの今夜は別のとこで寝るよ」
顔は笑っているのになんだか悲しんでいるように見えた。
笑いながら悲しんでいる兄の顔を見ていると辛くなってきた。不意に立ち上がると兄の頭をくしゃくしゃと撫でる。背が高くていつもは届かない頭は座っているお陰で容易に届く。
一回りも小さい娘に撫でられた兄は居た堪れない気持ちになるものの、乳母さんの時のように振り払う事はしなかった。
寧ろ、もう少しだけ二人の時間が続けばいいと願っていた。
その夜、兄が言っていた通り乳母さんは私たちの前には出てこなかった。なので、夕餉は餅となって兄は「いつもより多く食べれるな」と悪戯っぽく笑って、私も嬉しくなった。
囲炉裏の傍で二人分の布団を持ってきて、内緒話をしているうちに眠りについた。
独りの夜が続いていたから、兄の視界に入っているとわかると心底安心できた。
眠りも深くなっていた。なのに目が覚めたのは兄の怒声があったからだ。
「何しに来たんだよ」
私は目が覚めて傍にいたはずの兄がいなくなってることに気づいて不安になった。でも兄の声で起きたのだから近くにいるはずだ。
私は布団から出た。
縁側の方から聞こえてきた。兄が声を上げたのは一度きりで後は聞き取れない小さな話し声で誰かと話している。
なんとなく、私が起きていると気づかれたくなくてきしむ床に気をつけながら四つん這いで縁側へと向かった。
夜なのに縁側の戸は開いていて、冷たく澄んだ空気が冬の月をより美しく夜空を飾っていた。その満月を眺めていたのは蝶男で、縁側に腰掛け月見を楽しむように微笑む。
呑気な蝶男に対して兄は真逆で、今にも襲ってしまいそうな剣幕をしていた。
「君は自由にしていいよ。塀の外に出ても構わない。ここでの生活を外部に話しても良い。ただ戻って来てはいけないよ」
「紅柘榴も連れて行く」
「それはいけない」
兄の決意よりも硬い物言いだった。
「あの子は私のものだ。遠くの昔から決まっていたんだよ」
私は月明かりの下に出ないよう影の中に隠れて耳を済ませる。
兄の唇が震え、それから大きく開いた。
そこから声が発する前に蝶男が兄の口を塞いだ。月に照らされた微笑はぞっとするほど怖くて、目が離せないほど美しかった。
「静かにしないと、ほら起きただろう」
蝶男と目が合って影の中に隠れていた私は驚いて一歩下がる。更に影の中に隠れようとしても既に私は見つかってしまった。
「ごめんな。起こしたな」
兄は私に近寄ってきて四つん這いで小さくなっている私を立ち上がらせた。
「なんの話をしてたの」
「明日になったら教えるよ。独りにしてごめんな布団に入ろう」
言いようのない不安があったけど、兄が手を繋いでいてくれたからそれでいいと思った。
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