619 / 644
7章 赤い珠が映す空想未来
空想未来に向かって 5
しおりを挟む
柘榴が竹籠に置かれた。
居眠りを続ける店主はひとつの果実が盗まれたこともそれが戻ってきたことも知らない。
正しく元の位置に戻れた喜びと数少ない達成感に紅玉の笑みは更に深くなった。
「立派に育って嬉しいよ」
唯一、紅玉の秘密の達成を知っている影弥が呆れた表情したまま小声で言った。
「そうでしょう。私立派でしょう」
それが当然であり、その当たり前を胸を張って自慢すると影弥は肩を竦めた。
「彼が、盗人だと知っていただろ」
紅玉の未来視で、赤眼の男の職業はわかっていた。
なのにわざわざ怒って、盗み返したその行動が影弥
は理解できなかった。わかっているなら怒る必要もないのだ。
誇らしく紅柘榴を見つめながら紅玉は頷いた。
「私は許せないの。許せないから私は私が許せる行動するの」
「逞しい」
「そうでしょう」
影弥は頼もしくなく、弱気なので紅玉が頼もしく逞しくなったのだと胸の内に仕舞い、誇らしく胸を張った。
「次に会うのはあの日時?」
赤眼の男に伝えた日時は誰にも目につかず、日時と場所は内緒事を話すには良い機会になる。紅玉もその日時について行くつもりであったが影弥は静かに告げる。
「こうは置いて行くよ」
そういうと紅玉は不平不満をありありと示した表情で睨む。
目の形が変わっているのでそうなのだと影弥は理解し、読み取ったが文句を言ってこないと言うことは影弥と赤眼の男とのやりとりに思うところがあったのだろう。
「こうがいたら話が進まない」
隙のない世論に言い返せない。
赤眼の男を目の前にすれば何か理由をつけて怒る。死の恐怖を抱いていた分、強く当たるのだろう。冷静でもすぐに忘れる。
今はまだ冷静な紅玉はそれがよくわかっていた。本当に不本意で腸が煮えくりながら嫌々と納得した。
宿に戻ると紅玉は未来視の続きをした。
未来に起きる様々な事象の濁流に翻弄され、枝分かれする糸を一本一本確かめる。何回か繰り返しているうちに濁流の泳ぎ方を覚えた。
だが、未来視は万能ではない。濁流は泳げるが、わかるのは結果だけ。その過程は見えない。
意識を波に任せながら紅玉は求めている未来へと向かった。
荒屋があった。海が近い。月は明るい。
その一夜のうちに持てるだけの荷物を背負った四人家族が荒屋から出た。数日の後、暴力を得意とする者たちが出入りしたものの家族が夜逃げしたのだと知ると荒屋を訪れる人はいなくなった。
その事実をそのまま影弥に伝えた。
あの荒屋には貧乏な家族がいて夜逃げする。それから数日は悪い奴らがやってくるが、すぐに誰も来なくなる。身を潜めるには最適だろう。
それから紅玉は一人分しかない布団を占拠して未来視に耽った。待ち合わせの日時になるまで最善を探す。
赤眼の男に全てを話しても信じてもらえない。
全てを話さなくても妹が助かる場合もある。
しかし、うまく伝えられたとしても分岐点のどこかで蝶男が割って入ってくる。
伝えられなくても未来を進む。でもそうすると妹と赤眼の男、どちらも命を落とす。
松の木の下で赤子と二人が笑い合っている未来。これが紅玉が目指す正解だ。
最善と最悪は裏表が紙のようにぴったりとくっついていて、ひと息吹けば裏が表に表が裏になる。どちらが表になるか紅玉にもわからない。
影弥に順調かと聞かれればいいとも悪いとも答えられなかった。松の木で待ち合わせをする時が来ても、時を重ねるほど未来視は複雑になって不安が強くなる。
目覚めたばかりの能力だからと影弥は未来視を使う頻度を下げるようにと忠告したが、影弥が松の木へ向かう時も未来視を続けた。
激しく流れる清流を長く長く泳ぎ、その先で瑠璃色の瞳を持った少女がからくり歯車の塔を背にして立っていた。少女は危機が来ると知らせていた。
居眠りを続ける店主はひとつの果実が盗まれたこともそれが戻ってきたことも知らない。
正しく元の位置に戻れた喜びと数少ない達成感に紅玉の笑みは更に深くなった。
「立派に育って嬉しいよ」
唯一、紅玉の秘密の達成を知っている影弥が呆れた表情したまま小声で言った。
「そうでしょう。私立派でしょう」
それが当然であり、その当たり前を胸を張って自慢すると影弥は肩を竦めた。
「彼が、盗人だと知っていただろ」
紅玉の未来視で、赤眼の男の職業はわかっていた。
なのにわざわざ怒って、盗み返したその行動が影弥
は理解できなかった。わかっているなら怒る必要もないのだ。
誇らしく紅柘榴を見つめながら紅玉は頷いた。
「私は許せないの。許せないから私は私が許せる行動するの」
「逞しい」
「そうでしょう」
影弥は頼もしくなく、弱気なので紅玉が頼もしく逞しくなったのだと胸の内に仕舞い、誇らしく胸を張った。
「次に会うのはあの日時?」
赤眼の男に伝えた日時は誰にも目につかず、日時と場所は内緒事を話すには良い機会になる。紅玉もその日時について行くつもりであったが影弥は静かに告げる。
「こうは置いて行くよ」
そういうと紅玉は不平不満をありありと示した表情で睨む。
目の形が変わっているのでそうなのだと影弥は理解し、読み取ったが文句を言ってこないと言うことは影弥と赤眼の男とのやりとりに思うところがあったのだろう。
「こうがいたら話が進まない」
隙のない世論に言い返せない。
赤眼の男を目の前にすれば何か理由をつけて怒る。死の恐怖を抱いていた分、強く当たるのだろう。冷静でもすぐに忘れる。
今はまだ冷静な紅玉はそれがよくわかっていた。本当に不本意で腸が煮えくりながら嫌々と納得した。
宿に戻ると紅玉は未来視の続きをした。
未来に起きる様々な事象の濁流に翻弄され、枝分かれする糸を一本一本確かめる。何回か繰り返しているうちに濁流の泳ぎ方を覚えた。
だが、未来視は万能ではない。濁流は泳げるが、わかるのは結果だけ。その過程は見えない。
意識を波に任せながら紅玉は求めている未来へと向かった。
荒屋があった。海が近い。月は明るい。
その一夜のうちに持てるだけの荷物を背負った四人家族が荒屋から出た。数日の後、暴力を得意とする者たちが出入りしたものの家族が夜逃げしたのだと知ると荒屋を訪れる人はいなくなった。
その事実をそのまま影弥に伝えた。
あの荒屋には貧乏な家族がいて夜逃げする。それから数日は悪い奴らがやってくるが、すぐに誰も来なくなる。身を潜めるには最適だろう。
それから紅玉は一人分しかない布団を占拠して未来視に耽った。待ち合わせの日時になるまで最善を探す。
赤眼の男に全てを話しても信じてもらえない。
全てを話さなくても妹が助かる場合もある。
しかし、うまく伝えられたとしても分岐点のどこかで蝶男が割って入ってくる。
伝えられなくても未来を進む。でもそうすると妹と赤眼の男、どちらも命を落とす。
松の木の下で赤子と二人が笑い合っている未来。これが紅玉が目指す正解だ。
最善と最悪は裏表が紙のようにぴったりとくっついていて、ひと息吹けば裏が表に表が裏になる。どちらが表になるか紅玉にもわからない。
影弥に順調かと聞かれればいいとも悪いとも答えられなかった。松の木で待ち合わせをする時が来ても、時を重ねるほど未来視は複雑になって不安が強くなる。
目覚めたばかりの能力だからと影弥は未来視を使う頻度を下げるようにと忠告したが、影弥が松の木へ向かう時も未来視を続けた。
激しく流れる清流を長く長く泳ぎ、その先で瑠璃色の瞳を持った少女がからくり歯車の塔を背にして立っていた。少女は危機が来ると知らせていた。
0
あなたにおすすめの小説
熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)
MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。
捨てられた者同士でくっ付いたら最高のパートナーになりました。捨てた奴らは今更よりを戻そうなんて言ってきますが絶対にごめんです。
亜綺羅もも
恋愛
アニエル・コールドマン様にはニコライド・ドルトムルという婚約者がいた。
だがある日のこと、ニコライドはレイチェル・ヴァーマイズという女性を連れて、アニエルに婚約破棄を言いわたす。
婚約破棄をされたアニエル。
だが婚約破棄をされたのはアニエルだけではなかった。
ニコライドが連れて来たレイチェルもまた、婚約破棄をしていたのだ。
その相手とはレオニードヴァイオルード。
好青年で素敵な男性だ。
婚約破棄された同士のアニエルとレオニードは仲を深めていき、そしてお互いが最高のパートナーだということに気づいていく。
一方、ニコライドとレイチェルはお互いに気が強く、衝突ばかりする毎日。
元の婚約者の方が自分たちに合っていると思い、よりを戻そうと考えるが……
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。
すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。
だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。
イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。
変わり果てた現実を前に、
夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。
深い後悔と悲しみに苛まれながら、
失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。
しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。
贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。
そして、母の心を知っていく子供たち。
イネスが求める愛とは、
そして、幸せとは――。
甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ
朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】
戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。
永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。
信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。
この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。
*ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる