Lost Fiction

湯月@重陽

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女王殺し

百合花は笑う

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 艷事で汗をかいた後に、シーツの海で恋人と共寝る時間は只、甘い。
 長い髪を纏める娘は、視線に気づいて振り向いた。
 気怠く伏す顔の輪郭を撫でられる。

「何?」
「…次の逢瀬はいつになる?」

 見惚れていたとは素直に云えずに、次の約束を強請った。
 眼を見開いて、次いでフフッと娘はからかうように笑う。

「お前の方が、忙しいでしょう」
 次はいつ、渡って来れるの?

 私達の間には、砂の海が横たわる。忍び逢い。
 次に逢えるのは、当分先。

「貴女に指輪を贈りたいな」
「"母の娘"である私に?__"父の娘"である、お前が?」

 まるで煽っているような。だが其の語調に険はない。尤も、純粋な疑問は時に故意の悪意よりも強く刺す。
 "母の娘"を絶対的に自己に架す眼の前の娘には、"父の娘"は理解できぬ。私が"母の娘"を些か理解し切れぬように。
_それでも。

「叶うならば」

 愛してる。どう仕様もないほどに。
 云えない言葉は重石のように、錨のように胸内むねうちに沈む。

 伏せた眼は無意識で、

 ふうん? 鼻で笑った娘は私のおとがいを指先で支えると、

 私達は既に選ばれているのに。
 何故選ばれようとする必要がある?

 蜜の声で囁いた。


 身が震える程に心が動く。ああ! 噛み付きたい。平伏ひれふしたい。
 華のように、月のように、微笑むお前は美しい。
 唐突に、思い至る。大罪と云われる其の中で、傲慢だけは他者が決めた。

 此の渇きを、お前がと。

 ほんの少しの甘え。愛の戯れ。甘やかな詰り合い。其の言葉を、端から聴いた誰かがに受けた。
 愛咬を、本気の殺意と一緒にした。

 …可哀相に。何て可哀相なのだろう。
 何て不幸で_平穏な事だろう。
 こんなものを知ってしまったら、もしも此の娘を失ってしまえば、私はずっと絶望よるの底だ。

「余計なことを考えている?
 私達はお前の国元のように、指輪で互いを縛ることはしない」
 与えられるのは、約束だけ。


「心臓は我が片割れに」
 トンと胸を突く指先が、次いで五指となって身を示す。
「此の身は国に」
 
だから
「お前には、  此の首を」
 
 背に残照を背負って、笑う貴女は美しい。
 両の掌を首元に。横に真っ直ぐ添えて、暗示された首皿を。少しも希まなかったとは云えない程に。
 

 蜜蝋漬けの首級くびを抱きしめる。
 笑みは自然と口端に上る。
 

「貴女の首を抱いて墓に入ろう。きっと、絶対、そうしよう」
 

 貴女の首は、私のものなのだから。



 其れまでは部屋の入口に。

  帰ってくる私を出迎えて?


「ああ、厭な客を除けるのに丁度良いだろう?」

 一歩踏み入れば部屋の入口に出迎える女の首は、当然ながら恰好の噂の的。悪趣味と誹る人間達の耳に入るようにと嘯いた。悪辣に。
 …ホントを教える気など、小指の先ほどもなかったのだ。もっと欲しいと願うのに、増えることなき貴女との思い出。
 
 約束は 破れない。

 死者との約定は重い。破れば釈明も出来ず、赦しも乞えない。
 違えれば、一瞬で地獄行き。
 出来るのは、ひたすらに従順に、一語一句を神経質に守り通す事だけ。
 アイを証しするには、其れしか出来ない。アイを示すには、もう其れしか出来ない。

 では 専有は?

 私だけが知る真実を、増やせば其れは独り占めだろう?


『ああ、厭な客を除けるのに丁度良いだろう?』


 誰にも欠片もやりはしない。
 此の娘は私のもの。

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