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祝祭
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気づけたのは日ごろの賜物で、追い付けたのは運が味方した御蔭だった。
「将軍!」
神武官たちが留めようとするのを振り切って、出した大声は何とか相手に届いた。
神官たちに先導されて歩いていた上司は、驚いたのか少し目を丸くした。
「マーシィ」
「将軍、これは、どうゆう、」
全力で駆けてきた。問い質す声は、呼吸に遮られて途切れ途切れだ。
「将軍補佐殿。お控えください。マーキス将軍は既に禊を終えられた身です。」
先導を務めていた神官が、上司とマーシィの間に割って入る。
神官の言に、視線で問いただすと上司は軽く肩をすくめた。
「まあ、これも縁ってやつだろうさ」
声を荒げようとしたマーシィより早く、飄々といつもの笑みを浮かべていた上司は、ふいに目を細めると、
「元気でやれ」
強く抱擁されて_放される。
決めてしまったのだと分かった。
衝撃に呆けるマーシィをもう振り返らずに、上司は神殿の奥へと消えていった。
呆然と見送りしたその足で、宿舎に戻って袖口に仕込まれた紙片に気付いた。
気づかれぬよう袖口に滑り込まされた走り書き。
書棚の隅に資金と通行証がある。必要だったら使え。
お役目人へ奉ぜられた場合、死亡届は出されず地位は凍結させる。
ゼオ=マーキスはまだ将軍位にある。
託されたのは、団員全てを国外へ通すことのできる通行証。示すのは将軍位にある者すら食い潰す、この国のあり方への危惧だ。
将軍さえ使い潰すなら、兵など幾ばくのものか。
正規軍が儀式の為にすべて足止めされた今が好機。
溢れ出ようとする嗚咽を噛み殺し、団員を集めるためにマーシィは駆けだした。
「将軍!」
神武官たちが留めようとするのを振り切って、出した大声は何とか相手に届いた。
神官たちに先導されて歩いていた上司は、驚いたのか少し目を丸くした。
「マーシィ」
「将軍、これは、どうゆう、」
全力で駆けてきた。問い質す声は、呼吸に遮られて途切れ途切れだ。
「将軍補佐殿。お控えください。マーキス将軍は既に禊を終えられた身です。」
先導を務めていた神官が、上司とマーシィの間に割って入る。
神官の言に、視線で問いただすと上司は軽く肩をすくめた。
「まあ、これも縁ってやつだろうさ」
声を荒げようとしたマーシィより早く、飄々といつもの笑みを浮かべていた上司は、ふいに目を細めると、
「元気でやれ」
強く抱擁されて_放される。
決めてしまったのだと分かった。
衝撃に呆けるマーシィをもう振り返らずに、上司は神殿の奥へと消えていった。
呆然と見送りしたその足で、宿舎に戻って袖口に仕込まれた紙片に気付いた。
気づかれぬよう袖口に滑り込まされた走り書き。
書棚の隅に資金と通行証がある。必要だったら使え。
お役目人へ奉ぜられた場合、死亡届は出されず地位は凍結させる。
ゼオ=マーキスはまだ将軍位にある。
託されたのは、団員全てを国外へ通すことのできる通行証。示すのは将軍位にある者すら食い潰す、この国のあり方への危惧だ。
将軍さえ使い潰すなら、兵など幾ばくのものか。
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溢れ出ようとする嗚咽を噛み殺し、団員を集めるためにマーシィは駆けだした。
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