此の世の地獄を渡りゆく

湯月@重陽

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一章 菖蒲(ショウブ) 

褥に侍る

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 新床以降、爾比は時折御前に召し出されるようになった。嬲られ続ける体は急速に雄の味を覚えていく。居室に戻された後も、馨しい香りが移り香となって爾比を苛んだ。
 今宵も御前の精を受け、しかし受け止めきれずに溢れさす尻穴を、御前はぬちぬちと指先で苛めた。

「よう締まる。良き肉壺ぞ」

 すすり泣き、泣きぐずる爾比は逃れようと身を捩るが、御前はつぷりと指を抜くと先と同じだけの猛々しさを保つ雄根を打ち込んで、爾比を何度も何度も悦ばせた。
精に塗れ、骨も無いようにぐにゃりとした体を後ろから抱え込むと、御前はようよう息をしている爾比に命じた。

「御覧」

 顎を指先で固定されても、涙で歪んだ視界は安定しない。
 しかし、其れが何か気付いた時、爾比は凍り付いた。一瞬で熱の冷めた体に、御前はゆったりと指先を遊ばせる。

 常に無く、隣へと続く襖が開いていた。其処から聞こえる啜り泣きは爾比のもので無く、程無く見覚えのある長い黒髪白い肌が、這うように姿を現した。しかし其の腰から下は闇に捲かれて、どうなっているのか分からない。不意に少年の上体が跳ね上がり、

「あ、あ、あ“あ”、おっおっ、んおお!」

 甲高く鳴き、身悶えては更に鳴く。長い髪に隠されて表情は見えずとも、闇の中の何某かに少年が悦を与えられている事が判った。身悶えながら、両手で畳を這いずって少年は爾比に近づく。
 少年の手が爾比の右の足首を掴み、握り潰されそうな痛みに爾比は呻いた。
 長い髪の間から見えた眼は憎悪にぎらついて、

「お前がぁ!」

 吠える少年が飛掛かろうとしたのを、爾比は反射で蹴り上げた。
 蹴り上げた足に振り払われまいとした手は爪を立てて爾比の肌を削り、しかし掴み切れずに滑る。
 限界まで見開かれた眼に噛み締められて血の滲んだ唇。獣の様に更に吠えようとした彼は、声を上げる前に凄まじい勢いで隣室へ引きずり込まれ。

 断末魔が響いた。

 闇から這い流れる血が一筋、爾比に迫り、爾比は悲鳴を上げて足先を胴へ引き寄せた。足先三寸で止まった血に貼 り付けられたように外せぬ爾比の視線。
 背後から廻された御前の手が、爾比の足を割り開く。
 尻たぶを拡げられ、固まった体の中心を雄根に貫かれて、爾比は乾いた喉に声を引き攣らせた。容赦なく突き込まれる剛直に泣き処を圧し潰され、爆発するような悦に眼に水幕が張ってみるみる溢れる。暴れる足を絡め捕られ、己を守ろうと足搔く腕を押さえ付けられた。

 血の筋の上に精の白が散った。

 虚ろな目が其れを見、直ぐに後ろ、褥に引き倒された。仰いだ天井は覆いかぶさって来た御前で見えなくなった。
 爾比は其のまま三日三晩、御前の寝所に留め置かれて過ごした。

 其の日以来、爾比は連夜御前の臥所に侍るようになった。召し出されては雄を腹に呑まされて、気をやる迄身を貪られる。度重なる荒淫に爾比は昼間、死んだ様に眠った。
 ようやっと体が慣れて昼間も動けるようになった頃には、爾比と共に御前屋敷に入った少年たちは影すら見掛ける事が無くなっていた。
 何時の間にか無くなっていた習いの時間。暇を持て余すようになった爾比は御前に願い出て、昼の間、書室に籠る許可を得た。御前の寝所と居室として与えられた部屋の往復の際に目星をつけた其処は、床は板張りで幾つもの塗箱の中に、貴重なものから装飾の美しいものから、様々な書物が納められていた。集められた其れ等は、どうやら御前への貢ぎ物らしい。
 部屋の隅には黒々とした闇が有って、其れが少し怖ろしかったが、通う内に慣れた爾比は山と積まれた本を貪り読んだ。
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