暗殺者Aの世界

平川班長

文字の大きさ
上 下
5 / 5

6月の暗殺After

しおりを挟む
「死ぬがいい!!」

男、カールは迷いもなくナイフを振り降ろしてくる。
やれやれ、こんなフェイントに引っ掛かるようなアホなのか。

私は何の気負いもなくナイフを一閃した。
カールのナイフを持つ右腕が肘からアッサリと切断され宙に舞う。

「なっ…!?ぐあぁぁぁ!!」

驚きに絶叫するカール。腕を押さえながらこちらを睨んでくる。
へぇ、元陸軍なだけあって、根性はあるみたいね。

「ゆ、許さんぞ!貴様ーーーー!!」

カールは右腕を無理矢理筋肉で止血し、左手で予備のナイフを抜く。
そして、私を敵と認識したのか、先程よりも数段速い動作で斬り込んでくる。

まあ、私にはこの「眼」があるから、結局は止まって視えるんだけどね。
私は四方八方から繰り出されるナイフをことごとく弾く。一連の攻撃が止んだ後、当然私は無傷。
対するカールは汗だくで肩で息をしている。

「き……きさ…貴様!!」

カールは、これでも元軍人である。自身との実力差に気づいて様子を窺っている……いや、これは逃亡を考えているな。

ふぅ、と溜め息をつき私は彼に最期のレクチャーをする。
逃がす気など毛頭ない。

「貴方に、暗殺者とは何かを教えてあげる」

バッ!!とカールは懐から手榴弾を投げつけてきた。そして、一目散に逃げ出す。

私は手榴弾を起爆しないように一瞬でナイフで解体し、カールの目の前に降り立つ。

「ひっ…!!た、助け…」

「1つ、暗殺者は語らない」

ボッ!!とカールの左腕が吹き飛ぶ。降り立つ瞬間に切断したのだ。

「ぐ…あ…!!」

「2つ、暗殺者は私情を挟んではならない」

ボッ!ボッ!と今度は両足が無くなる。

彼はあまりの激痛と恐怖に失禁しているようだ。

「3つ、暗殺者はその力を誇らない」

両手両足が無くなった彼の胴体を踏みながら、私は最期の言葉をかける。

「私の名を語ったのだから、これくらいは覚悟のうちでしょ?良かったわね」

本人に殺されて……
それを聞いた瞬間、カールは目を見開き

「おま…!!お前が…!!暗殺者え…………」

ドス!!と彼の言葉が終わる前に額にナイフを打ち付ける。

こうして元軍人、今は殺人鬼のカール=マッカーJrはその生涯を最悪の結果で終えた。



後ろを振り向くと、
アリタ=コウイチは尻もちをついて私を見上げていた。

あんな悲惨な殺人シーンを見せたら怯えているだろうと思ったのだが、次の瞬間、彼は立ち上がり

「ありがとう!何とお礼を言っていいのか……君は私の命の恩人だ」

と、私の手を両手で握り握手してきた。
ちょっと面食らって驚いてしまった。普通こんな殺人鬼の手を軽々しく握るだろうか?

「貴方の為ではないわ。私は私の偽物を狩りに来ただけだし」

少し照れ隠しにそう言って

「……その…離してもらえる?…」

「ああ!これは失礼!!つい感動して……君にどんな理由があれ、助けられたのは事実だ。本当にありがとう」

と手を離したかと思ったら、今度は綺麗なお辞儀をしてきた。
不思議な人。おそらく打算なんてなく、素直な気持ちで言っている。こんな性格で政界なんて生きていけるのだろうか?私は少し心配になった。

「何かお礼が出来ればいいが……」

「結構よ。報酬は頂いているし、貴方に何か求めることは……」

と、私はその場でストンと座り込む。

「!?…どうしたんだい!?やはり何か怪我を……」

グゥ~と私のお腹が鳴る。

「…えっ?」

「ごめんなさい。何か食べる物を頂けないかしら?」

あと立てないわ。と私が言うと
彼はキョトンとしていた。
これは反動。「眼」の力を使うと体内のエネルギーを使いすぎるのだ。

「ハハハ、了解!」

と彼は深く追求せずその背に私をおぶってくれた。



「君があの暗殺者Aなのかい?」

喫茶店の席で俺は彼女に聞いてみた。一応小声である。

「ええ、貴方にはバレているから、今更隠す気はないわ。ただし……」

彼女は真剣な顔で俺を見つめてくる。

「わかってるよ…誰にも言わない。君に命を狙われるのはゴメンだ」

それは本当に素直な気持ちだ。あの戦いを見たら誰でもわかる。彼女の実力は人の域を超えている。まさに超人だった。

そんな彼女だが、喫茶店につくなり全メニューを食べ尽くすんじゃないかという勢いで注文し、マナーは完璧だが、凄い速さで完食して今はコーヒーを飲んでいる。 

「よく食べるね」

「ええ、私は戦闘で使うエネルギー量がすごいから、栄養補給しないとすぐに倒れてしまうのよ。普段ならこんなに消費しないんだけど……未熟ね、思った以上に気持ちが入ってしまったみたい」

そう語る彼女を見る。歳は……何歳なのだろうか?雰囲気が大人びているので正確にはわからない。ただ、すごく美人である。それこそモデル顔負けだろう。自分の人生でこれほど整った顔立ちを見たことがない。

「貴方を助けたのは、とある人の依頼でね。勝手ながら護衛してたのよ」

「そのおかげで助かったんだな。その依頼主にも感謝しないと」

むっと彼女が少し顔をしかめる。どうしたのだろう。

「何か?」

「貴方は素直過ぎるわ。もっと聞きたいこともあるでしょうし…それを押しのけて、ありがとうだの感謝だの…政治家には向かないと思うけど?」

「ハハハ、良く言われるよ。俺は人が良すぎるってね…………あのさ……なんて呼べば?」

「「アイ」でいいわ」

「そうか、アイさん。君に1つお尋ねしたい」

「なに?」

不思議だ。初対面…しかも暗殺者である彼女と向かい合っているのに恐怖はなかった。むしろこの悩みを打ち明けられるのは今しかないとも……

「君に依頼したい仕事がある」

「えっ?私に?」

「そうさ、君に会えたのも何かの縁………どうしても殺してほしい人間がいる」

俺は彼女にありのままを話した。







しおりを挟む

この作品の感想を投稿する


処理中です...