『IF』異世界からの侵略者

平川班長

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1章 『IF』

第4話 『眼』の覚醒

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4つ目の基礎にたどり着いた俺と水無月さんの2人だったが、そこには……

「ちっ、人形の軍勢がいるわね」

舌打ちする水無月さん。
目線の先には、

「な、なんですかあれ?」

マネキン?のような白くてツルツルした肌を持つ人形が、百?いやそれ以上の数でいる。

「『ナンバーズの6ネロ=マーテル』の仕業ね。ああいう人形を使うことに長けた悪趣味な奴がいるのよ。しかも人形を動かすのが自分が殺した奴の魂を使うっていう外道なんだけどね」

そう言うと水無月さんは血の能力で作った剣を俺に渡してきた。

「瀧本君、何かスポーツは?」

「一応、野球を……」

「OK、だったら長いもの使うのは大丈夫でしょ?雑魚といっても、普通の武器は効かないから私の剣を使って!」

「『血脈励起』の効果を使って一気に片をつけるわ。時間をかけたくないしね。でも、何体かは君の方にも行くと思う。奴らの弱点は永久機関を備えてる胸の辺りよ、そこを斬れば機能停止するから頑張って!」

待ってください、と言う前に水無月さんは加速する。いつの間にか血で作った馬に乗っている。

人形達がこちらに気づき迎撃体勢を取ろうとするが、それよりも速く水無月さんは軍勢に突っ込む。

「『流れ星(スター)』!!」

血で作られた無数の光弾が、人形達に浴びせられる。まるで機関銃で撃たれたように一番近くにいた人形達がバラバラになっていく。

しかし、全部とはいかない!後方から人形達が水無月さん目掛けて飛びかかる!

「『槍(ランス)』!!」

水無月さんの手に身の丈を上回る槍!
それを一気に振り回す!

ガシャャャャャ!!!!

と離れた位置にいる俺にも破壊音が聴こえる。

(すごい!本当にさっきまでとは違う。でも……)

やはり、オーラに時折ノイズが走る。しかもその頻度が時間がたつにつれ多くなっている気がする。

(やっぱり、限界は近いのか……っ!!)

考え事をしていると、五体程の人形がこちらに走ってくる。

(人の心配してる場合じゃない……!!俺も戦おう!)

一番近くにいた人形に斬りかかる!

「うおぉぉぉお!!」

ザクッと斬れる感触。
よし!いけるぞ。

バットをこれでもかと振ってきた俺だ。スイングのスピードなら自信はある。
それと、水無月さんから戦う前にアドバイスももらってる。

「いい?瀧本君。貴方のその眼は特殊な能力よ。でも日常生活では使うことがそこまでなかったかもしれない。無意識に抑えてた部分もあると思う。でも、今からの戦いは文字通り命懸け。大事なのは貴方がそれをしっかり理解すること、そしてその眼を使うことを意識して!」

そうすれば自ずと力は解放される。

そう言っていた。もともと、戦略を立てるのは得意だ。残りの人形は4体。

まずは第一に囲まれないこと。
いくら、俺が運動が得意でも戦いをしていたわけではない、素人もいいところだ。そんな俺が囲まれての戦いなんて出来るわけがない。だから徐々に下がりながら奴らの動きを追う方に意識させる。そうすれば相手は縦長に追いかけてくるから囲まれる心配はない。

第ニに相手をよく視ること。
これは水無月さんに言われた通り、相手のオーラを意識して視る。人形達は全部同じ色。薄い紫色だ。オーラの片寄りは腕に集中している。蹴りの攻撃はないと見る。おそらく、手の甲についている短剣が奴らの武器!

斬りかかってくる人形の攻撃を躱して、剣で後ろから斬る!

ザシュ!
斬れ味がすごい!俺みたいな素人でもしっかり切断出来る!

あと3体。しかし、3体は真っ直ぐに来ず後ろの1体が回り込むように迂回、残りの2体のうち1体が空中に跳び、上下から来る!

マズイ!前の2体も面倒だけど、回り込まれたら勝機はなくなる。いや………今だ!!

俺は上下の下の人形にタックル気味に自分からぶつかりに行く!
上の人形の攻撃を躱し、下の人形と鍔迫り合いになる。その勢いのまま反転し、奴らの背後に回る。

「はぁあああ!!」

下の人形を斬る。残り2体。回り込んだ奴が合流する前に、着地した上の人形に斬りかかる。奴の攻撃のほうが速いが…………

(右!上から斬ってくる!!)

眼で視るオーラの情報を元に予測を立て、奴のさらに右側に潜り込む。空振った後の背後から斬る。

ガシャャヤヤ!!

これで残り1体!いけるぞ!

と思った時だった。 残りの1体の胸の辺りのオーラが急速に高まっていく!?

(自爆か!!)

あのオーラが爆発したら、俺の肉体なんて軽く消し飛ぶ!

速攻で……ダメだ!間に合わない!

「お疲れ様!」

そんな呑気な言葉が聞こえたかと思うと、

ガシャャヤヤ!!

人形がバラバラになりながら、横に吹っ飛んでいく。

「5体も相手してたの?やるじゃない、瀧本君」

水無月さんだった。もう片付けて戻ってきたらしい。

「助かりました、最後の危なかったので……」

「まあね、でも遠くから見ながら来たけど、戦略はちょっと素人とは思えないくらいのレベルだったよ。ちゃんと眼も使えてたみたいだしね」

さて4つ目の基礎を……と水無月さんの言葉が止まる。
っ!!俺も気づく。
4つ目の基礎があるのは街の中心にある大きな運動公園だ。その奥から奴が歩いてくる。

「先程はやってくれたな水無月。しかもこちら側に現れるとは驚いた」

カトラナ=バージェス!!

「貴様には興味を持ったが、生かしておけばその戦闘力は後にこちらにとって災いになるだろう。確実にここで貴様を消す」

カツっと歩みを止めるバージェス。お互いの距離は30m。だが………

(相変わらず、すごいオーラだ…!)

遠くからでも感じるプレッシャーの強さ。しかも水無月さんを殺すことを決めたからか、それは更に巨大化しているように視える。

ダメだ。水無月さんの今の状態でも奴には及ばないだろう。しかも、時間制限がある。圧倒的に不利だ!

(どうする!?……どうすればいい!?)

しかしそんなことを考える暇は与えられない。なぜなら、1度も技らしい技を使わなかったバージェスがその名を口にしたからだ、

「『絶生歩方(ぜっしょうほほう』……」

なんだ?バージェスのオーラがボヤける。距離感が掴めない!集中しろ!奴は一撃で水無月さんを殺す気だ!

「『瞬(しゅん)』」

その瞬間。
集中したことによってなのか、時間感覚が引き延ばされる。
まるでスロービデオを視ているようだ。辺りの景色も暗くなる。

バージェスの身体のオーラが分裂する。
なんだ?その分裂したオーラが水無月さんの背後に回る。いや…これは!

動けるか?間に合うか?この引き延ばされた時間で俺は手を伸ばす。

よし!俺のほうが速い!
ドンっと水無月さんの身体を押す。
その瞬間背後に回ったオーラが実像となって現れる。バージェスだ!
バージェスは水無月さんに向かって抜き手を背後から心臓目掛けて打ち込む。しかし、俺が水無月さんの身体を押したことで空振りに終わる。

ここで時間軸が戻る!

「きゃ!?」

「っ!!?」

水無月さんの短い悲鳴。そしてバージェスの驚愕が重なる。

おそらく先程の技
『絶生歩方・瞬』
は、踏み込む足の音を置き去りにする超絶スピードで相手の背後を取り一撃で相手を殺す秘技。相手には目の前の相手の残像しか見えず、気づいた時には殺られている。そんな技なのだろう。
その証拠に先程までバージェスがいた場所から、パァン!!!という踏み込みの音が聴こえる。


バージェスは驚愕していた。

(見破られた!?こんな年端もいかぬ少年に!?)

この技を使って相手が生きていたことは今までない。何回かの戦闘で刷り込んだ自身の戦闘スタイルを裏切るような速さがあり、戦闘に長けた者ほどこの緩急に引っかかるからだ。
しかし、見破られた。

(足手まといと思っていたが……もしこれがこの少年の能力なら、生かしておくと厄介だ)

死神の標的が代わる!



「……っ!!」
俺はすぐに身体の異変を察した。
全身に強烈な筋肉痛のような痛みが発生している。

(さっきの……時間が引き延ばされた時のやつか……!)

あのスローモーションのような世界で自分だけ普通に動いていたのだ。現実ではすごいスピードが出ていたに違いない。そのツケが今激痛となって身体を蝕む。

バージェスが驚愕の表情から一転。こちらを向き拳を構える。
マズイ!奴は俺に標的を変えている !

(左拳のストレートがくる!……ダメだ身体が………)

水無月さんも俺に不意に突き飛ばされて倒れ込み動けない。

(殺られる……!!)

パン!!
しかし、またもやバージェスの拳は俺には届かなかった。
それも、虚空を切ったわけではない。
殺人級の拳は、同じ手によって止められていた。
なんと片手である。握手をするかのように、手の平で受け止めているのは、小さな銀髪の少女だった。

「何者だ……!?」

バージェスは手を振り払い距離をとる。

銀髪の少女はバージェスではなく、水無月さんを見て

「本当に苦戦してるんだ。大丈夫ミユ?」

と、綺麗ではあるが感情があまり込められていない声で言った。

「葵(あおい)さん!」

さん?どう見たって、俺や水無月さんより年下、下手したら小学生かもと思うくらいの外見なのだが、銀髪の少女、葵は次にこちらを見る。

吸い込まれるような深緑の瞳だった。見た目とは裏腹に大人びた印象もある不思議な少女だった。

「ふーん、思ったより厄介な状況みたい」

少女
が言った時だった。
フッ、とバージェスが葵の背後に立つ。

「危な……!!」

いと言う前に攻撃が繰り出される。少女は振り返り、

バチ!!
と、またもやバージェスの攻撃を手の平で止める。衝突したその衝撃波だけで、俺は立てないくらいなのに………

「ミユ、結界の基礎はまだ残ってるよね?先にそっちをどうにかして」

まるでバージェスなど眼中にないように、少女、葵は水無月さんに言う。

「……わかりました!お願いします!瀧本君行くよ!!」

言うや否や、水無月さんは俺の手を引っ張っていく!

「えっ……ちょっ!水無月さん。あの人、大丈夫なんですか!?相手はあのバージェスですよ!?」

すると、水無月さんはニヤリと笑う。
また、悪そうな顔してるー

「大丈夫、あの人は葵さん。私達、守護者の中の『最高戦力の1人』なんだよ。その二つ名は……」

「『無垢なる戦姫』!」
     
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