『IF』異世界からの侵略者

平川班長

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1章 『IF』

第3話 瀧本傑の体質

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~とある基地の司令部~

「遅いな」
「遅いね」

男女2人の言葉が重なる。
この守護者(ガーディアン)達の基地の代表者である2人は今日…もう昨日の夜からここにいる。

昨日の夜8時に遮絶が確認され、これの解除に向かわせた隊員が戻ってこない。
時刻は午前2時半を回ろうとしている。

「この程度の規模の遮絶なら、ミユなら3時間とかからないはず」

女の方が言う。女と言うより少女の体型。歳はよくて13~15歳くらい。身長は150cmちょいとかなり小柄で、見ようによっては小学生にも見えなくもないが、彼女の肩までの銀髪のショートカットと意志の強さを感じる深緑色の瞳は大人びていて、アンバランスな印象を周りに与えている。

「まあ、そだね。ミユにしてはかかりすぎ。なんかあったかな?」

男が言う。少女と違って、かなり身長は高い。身体は細身で赤みがかった髪をしている。瞳は黒、シャンとしていれば色男なのだが、少し猫背なのもあって、なよなよした印象がある男だった。

男は口に咥えた煙草に火を点けて

「葵(あおい)お前、ちょっと見てきてくれない?」

煙を吐きながら言った。

葵と呼ばれた少女は少し眉を寄せる。

「私まで出る必要があると?」

「うん、まあ勘なんだけどね。しかも良くないほうの」

葵は少し考える。この男は普段はだらしないが、ここぞという時の勘を外したことはない。
ということは、ミユには何かトラブルが発生している可能性が高い。

ふぅー、とタメ息をついた葵は

「わかった。行ってくる」

腰を上げて、司令部から出ていこうとする。その背中に男は声をかける。

「葵。わかってると思うけど、あまりやり過ぎるなよ?遮絶の解除を最優先。その後は撤退」

葵は振り返り

「ナンバーズがいるってこと?」

「おそらくな。ミユが遅れをとるほどの相手だ。下手したら上位の可能性もある。あまり手の内を見せたくないし……まあ、なんだ。もしもの場合もある」

その言葉に

「わかってるでしょ?下位だろうと上位だろうと、私を倒せるのはこの世で1人だけよ」

クスッと微笑で返した。


~街中~

「とにかく、このままやられっぱなしは癪だし、遮絶の基礎を潰していこうか」

水無月さんは言う。なる程、どちらにしろバージェスに追われる状況なら、遮絶を解除するための動きをするということか。しかし、

「遮絶の基礎ってどんな物なんですか?」

素朴な疑問だった。そもそも

「遮絶の広さってどれくらいあるんですか?」

水無月さんは、うん、と頷いて

「遮絶の基礎はその土地に縁のある物や建物、場合によっては人という可能性もあるの。今回の遮絶の広さは直径10kmの円形ね。基礎自体は5ヵ所あって、昨日の夜に私が潰したのが3つ、4つ目に向かう時にバージェスと遭遇したから、あと2つね」

「それなら、意外といけそうですけど……」

「そうでもないんだよ。4つ目の基礎の場所はわかってるけど、当然そこに向かえばバージェスと遭遇する可能性が高いでしょ?だから先に5つ目を行こうとは思ってる。でも結局最後の1つでバージェスとは会うことになるし」

そうか、意外といけそうだけど、相手もそれはわかってることだから、要所を攻めれば相手側がいる可能性が高いのか。
でも……

「水無月さん、先に4つ目から行きましょう」

俺の提案に、水無月さんは少し顔をしかめる。

「だから、さっきも言ったけど……」

「水無月さんの言うことはわかります。でも、一回しか見てないけど、あのバージェスという男、強いだけじゃなくて頭もいいですよね?だったら水無月さんが考えていることが読まれている可能性はあります」

水無月さんは、ハッとした顔をする。

「先程の戦闘でも、バージェスは水無月さんに、もう戦う力が無いようなことを言っていましたよね?だったら自分に向かってくるより、もう1つの勝利条件である遮絶の解除を目指すことは想像がつきます。そして、あいつは4つ目で自分と水無月さんが遭遇していることもわかってるから、わざわざ逃げている俺達が4つ目のほうに来るとは思わないんじゃないですか?」

だから、むしろ5つ目に向かうほうが遭遇する可能性は高くなる。

そこまで喋って、ハッとした。

「すいません、俺みたいな素人が口を挟んで……」

怒られると思ったが、むしろ水無月さんは感心したような顔つきで

「ううん、ありがとう瀧本君。貴方の言う通りと私も思う。すごいね。あんな一瞬の戦闘の間のことでそこまで推理出来るのって」
 
と言ってくれた。
そして、

「そういう戦略的な事が得意なの?そういえば、私に初めて会った時も『色』がどうとか言ってたけど」

ああ、あの時のやつか。うーん、面と向かって言うのは恥ずかしいんだけど、水無月さんが普通の人ではないことはわかってるし、俺のこの『視える』体質についても何かわかるかもしれない。

「えっと、説明するのが難しいんですが、俺って小さい頃から他人を視た時に、『色』というかオーラみたいなものが視えるんです」

その言葉に水無月さんはビックリした表情をしている。当然だ。こんな変な話、信じるほうがどうかしてる。
しかし、水無月さんはすぐに表情を戻して

「続けて」

と言った。

「あっ……はい」

俺が面食らった。だいたいこの話をした人はここまで話すと笑い飛ばすんだが真顔で聞き返されたのは初めてだったから、

「えっと、普通の人は陽炎のように微かに視えるだけなんですが、水無月さんは………あとさっきのバージェスって人はハッキリ視えて」

そう、だから、普通の状況じゃないことにもすぐ感づいたのだけど、

「水無月さんは、ハッキリとした真紅の色。バージェスは黄色というか黄金に近いオーラで、水無月さんよりも大きく強いです」

「…………………」

「最初に会った時の水無月さんのオーラにはビックリしたんですけどどこか弱々しくて……そしたらケガしてるのに気づいたから成る程と思ったんですが…」

「…………………」

「あの…水無月さん?」

水無月さんは口に手を当て、無言で考えている。どうしたんだろう。

「……瀧本君、質問なんだけど、私の今の状態は初めて会った時に比べてどうなの?」

そんなことを聞いてきた。

「はい、初めて会った時より色は強くなってるし、大きさも大きいです。でも……」

「でも何?」

即座に聞き返された。うーん、やっぱり怒ってる?

「でも、バージェスには及ばないです。あの男が出してるオーラは今の水無月さんより強いです。あと水無月さんのその状態って時間制限とかあります?」

「なぜそう思うの?」

「オーラに時折ノイズみたいなものが走るんです。自分の経験上そういうオーラの人は最後の力を振り絞ってる人が多いので」

「……………」

「…えっと、変ですよね?やっぱり………多分、的外れなんで気にしないでください」

なんか、気まずくなったので、とりあえず誤魔化してみたけど……水無月さんは真剣な表情のまま

「的外れなんかじゃないよ。むしろ全部当たってる。貴方のその……オーラ?それを視る力は本物よ」

と力強く言ってくれた。

「成る程ね。もしかして、さっきバージェスに向かって行ったのも?」

「はい。そのオーラがあいつの右拳に集まるのが視えたので、攻撃が予測出来たからです。でも、速度が速過ぎて水無月さんが庇ってくれなかったら死んでたと思います」

「攻撃の予測も出来るのか……それはすごいことよ。未来視……じゃないわね。どちらかというと『千里眼』に近い」

「千里眼?」

「うん、未来や遠隔の出来事を見通す力。透視ともいうけど、私たちの世界ではあらゆる事象を見通す神の眼……厳密には違うでしょうけど、貴方が言った能力はそれに近い」

水無月さんは真剣に語っている。嘘はないようだ。

「君の元々の体質なのか。私たちのような『能力』なのかは調べないとわからないけど、貴方が今夜この結界内に侵入出来たのもその眼があるなら少しは納得出来る」

そうか、遮絶の結界自体ある意味現実とは、かけ離れた位置に属するけど、俺の眼が千里眼に近い能力なら

「そう、『離れたものを捕捉』してもおかしくない。だから貴方は結界内に入れたのよ」

うーむ、自分の事ながら厄介な能力を得たものだ。

「そうでもないよ。これで活路も見えたし」

ニヤリと笑う水無月さん。
コワッ!子供のイタズラ顔にそっくり!

「えっと、どういうことでしょ?」

「わかるでしょ。貴方がいれば、バージェスの攻撃は予測がつきやすくなる。そうなれば今の私でも勝機はある!」

つまり、あの化物退治に俺も参加しろと?

「無理ですよ!攻撃は予測出来ても、全然目で追えないんですから!」

「大丈夫、全ての攻撃とは言わない。私がフォロー出来そうにない攻撃だけ知らせてくれれば!」

無茶苦茶だ。
そう言おうとした時

ポタ

っと水無月さんの口から血が落ちる。血が彼女の能力なのはわかってるけど、今の吐血は……

「そういうことよ。私のこの状態の限界時間は近い。どちらにせよ、あの化物とはもう一度やらないといけないしね」

ここからは時間との勝負。
奴を、バージェスを倒さなければここからは出られない。
(自分の出来ることをしよう)
決意を新たに、2人は4つ目のポイントに向かった。


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