『IF』異世界からの侵略者

平川班長

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1章 『IF』

第2話 世界を喰う結界

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「っ!待ってください!」

走り出した彼女を追いかける。彼女は100m程走って、少しペースを落とし俺が追いつくのを待っている。

「えっと………」

「判断が早いのはいいことよ。君の名前は?」

「瀧本傑です」

「そう、瀧本君ね。私は水無月ミユよ」

よろしく。と素っ気なく挨拶された。いやいや、それよりも、

「あの、出血は」

「さっきも言ったでしょ、大丈夫よ。それよりもヤバい問題があるの」

死にそうな出血よりもヤバい問題なんてあるのだろうか?しかし、彼女……水無月さんの言葉には嘘はないようだ。出血量の割りに顔色はいいし、足取りもしっかりしている。

「問題って……?」

「私、追われてるのよ。この傷もその時やられたの」

変質者?殺人鬼?どちらにしろこんな美人さんを傷つけるなんて!

「警察にいきましょう」

真面目な顔で水無月さんの顔を見て言った。水無月さんはポカンとした顔をして、表情を崩した。

「フフ…警察ね。残念だけど行っても無駄よ。『いない』と思うし」

いたとしても殺されるのがオチよ。と彼女は言う。一体何に追われているのだろう?

怪訝な顔をする俺を見て水無月さんは

「ごめん。意地悪する気はないの……………………瀧本君、瀧本傑君。今から私が言うことを真剣に聞いてくれる?」

俺を思いやるような言葉を発した後、急に真剣な顔つきに変わった。
そもそも、その気がなければついてきてはいない。ここにいる時点で巻き込まれることは承知の上だ。

「はい。なんとなく今の状況が普通ではないことは察していますし……」

その言葉に、水無月さんは、少し驚いたような顔をしている。
まあ、自分で言うことではないが、物心ついたときから色々と『視える』から察しもいいのだ。

水無月さんはその事には触れず

「わかった。状況が状況だから手短に話すね。詳しくはお互いに生き延びたら改めて話すことにしましょう」

「私は、私達は戦っている。何故?何と?と言われたら全て説明すると長くなるから割愛、戦ってることと相手がいることだけわかって」

「今日………もう昨日ね。私はとある任務で単独で行動をしてたんだけど相手と戦ってる時に『奴』が現れた」

「『奴』の名はカトラナ=バージェス。相手の勢力の中でもトップ3に入る強者よ。どれくらい強いかというと、ご覧の有り様」

水無月さんは自分の腹部を抑える。今も血は垂れ続けている。

「油断と言えばそれまでだけど、任務で少し疲弊してた私では相手にならないくらい奴は強い」 

腹立たしいけどね。と素っ気なく彼女は語る

「その後は逃げの一手よ。負傷して勝てる相手じゃないしね。何度か交戦したけど隙を突いて逃げてきたの。そこで貴方と出会った」

そこで彼女は顔を曇らせる。

「今、この街は特殊な結界の中にある。『遮絶』っていうんだけど見た目はいつもの風景に見えるでしょ?でもね、そこの家もそこの家も無人よ」

その説明で改めて思ったが、

「そういえば、通行人にも……夜中とはいえ『車を1台も見かけてない』です」

「そういうこと。『遮絶』の結界は現実の風景を切り取って貼り付けたような結界なの。実際にはそこにいるんだけど、別位相のような空間にいて現実には干渉できないようになってる」

だから、貴方がおかしいのよ。と彼女は語る。

「この結界の中に一般人である君がいることがおかしい。感覚的には『隣』にあるような世界だから、普通の人は入れないのよ」

「この結界を解除するために私は来たの。遮絶は一定時間がたつと『現実と入れ替わる』。例えば今この街を覆っている遮絶が現実と入れ替わるとこの街は消えるわ」

「消えるって…………」

「そのままの意味。この街で暮らす人間全員が新しい世界に塗りつぶされて消える」

家族も、友人も、恋人も全て消える。

「実際にはこの街はあるけど、一般人には入れなくなる。世界から切り離されるから、地図からもいつの間にか消える。『世界は最初からそうだった』と書き換えられる」

いったい誰がそんなことを?
そう聞こうかと思ったより早く

「っ……!!来たわね、バージェスよ。瀧本君、ハッタリでいいから、あたかも私を助けに来た援軍のフリをして」

「そんな…!」

「しないと死ぬわよ?どっちにしろ私はもうまともに戦える状態じゃないから、2人…しかも援軍が来たとなると流石に簡単には手を出せない。貴方のことを奴は知らないから」

時間が欲しい、と彼女は言う
どうやら、何か秘策があるようだ。仕方ない、やれるだけやるしかないか。

そう思った時だった。

カツっという足音に振り返る。
そこにカトラナ=バージェスがいた。

身長は高い。俺も180cmはあるけど、それよりも頭1つ抜けて高い。金髪のオールバックにサングラス(夜なのに見えるのだろうか?)をしている。

「ほう、私から逃げた後、援軍と合流したか。1人というのは些か侮られているようで癪ではあるが……」

落ち着きのある声。
しかし、俺はその言葉よりも奴に目が離せない。

(なん、だ!?この人……!!)

勝てない。これは勝てない。だってこんなの『視たことない』

『視る』だけでここまで足がすくむなんて、今まで経験したことない!

「少年、君の名を聞こうか」

「……………………」

ダメだ、言葉が出ない。少しでも一瞬でも動いたら、しゃべったら殺される!

「ふむ、相手に情報を与えないのは感心だが……」

フッとバージェスの姿が消える。

「年長者の言葉は聞くものだ」

『真横から声』が聞こえた!

「『壁(ウォール)』!!」

瞬間、自分とバージェスの間に紅い壁が出た。

直後にガン!!という音と、自分のほうに壁が凹んでくる!

水無月さんが、咄嗟に庇ってくれたらしい。

「瀧本君!走って!」

声につられ、慌てて走り出す。
後ろでは壁が瞬時に壊されていた。

「援軍どころか足手まといか。武運も尽きたか水無月ミユ」

終わりだ、と拳を構えるバージェス。水無月さんは、動けない。さっきの防御で力を使い果たしたらしい。

奴の構えは右ストレート!
『色の違い』でわかる!右拳に恐るべき力が溜まっていく!

「うぉおおおおお!!」

雄叫びを上げながら、奴に向かって走る。
バージェスは構えはそのままに向きをこちらに変える。俺を迎撃するために!

(大丈夫!『色は視える』躱せる!)

確かに俺は視えていた。奴の右拳に溜まる力は人間を簡単に貫く威力があることはわかっていたが、挙動を見極めれば躱せると。
だが、速度までは視えなかった。

(あっ、死んだ)

と思ったのも無理はない。自分の視界が急に暗くなり、身体も浮いてるのがわかる。痛みはないけど、首根っこを掴まれてる?

「瀧本君!大丈夫!!」

掴んでいるのは水無月さんだった。しかも俺を片手で持って空中を跳んでいた。

「ありがとう。貴方の一瞬の間のお陰で、切り札を発動出来たわ」

よく見ると、水無月さんの髪が綺麗な紅色に染まっている。
『視える色』も先程より数段力強い!

「ほう、まだそんな技を隠していたか」

「!!?」

バージェスが空中に追いかけてきた?くそっ!なんて脚力だ!!

『彗星(メテオ)!!』

水無月さんの号令と共に彼女より更に上空から紅い玉が降ってくる。玉といってもその大きさは俺たちより遥かにデカイ!

「む……!!」

あの殺人級の右拳が放たれるが、流石に質量が違い過ぎるのか。バージェスは彗星の勢いを殺せず、下に墜ちていく。

その間に俺と水無月さんも地面に降り立つ。

「掴まってて!」

言うやいなや。水無月さんは俺を抱えたまま飛ぶような勢いでその場を離れる。男子としてはカッコ悪いがお姫様抱っこである。

どれくらい離れたのか、水無月さんが俺を降ろす。そして頭を押さえている。

「ありがとうございます。でも、水無月さんその髪………」

「ああ、これは『血脈励起』(けつみゃくれいき)っていう私の切り札の1つなの。自身の血の速度を上げることで超人的な力を使えるようになる。血の生成も促すから失った血液も取り戻せて一石二鳥なんだけど、さっきも言ったように発動にどうしても時間がかかることと、血圧が異常に上がるから、脳にダメージがくる。最悪血管が破裂するリスクがあるの。」

まあ、そうならないように抑えてはいるけどね。
と水無月さんは言う。あれ以上の戦いも最悪出来るということか。

「水無月さん、俺たちってどこまで逃げればいいんですか?バージェスって奴を振り切るには」

「遮絶は1度入ると条件を満たさないと出られないの」

そしてその条件は2つある。

「1つはさっきも言ったように遮絶が定着し、現実を飲み込んでしまった場合。もう1つは遮絶を支えてる結界の基礎を壊すこと。でも敵もそこには人を配置してるし、バージェスも警戒してるから難しいわね」

「だから、正直逃げても無意味なんだよ。1つ目のパターンが成立しちゃうと、この街全員が死ぬ。それは選べない。かといって貴方を連れた状態で結界の基礎を壊すことは容易ではない。残された可能性は私の仲間達が基地(キャンプ)にいるから、私の帰還の遅れに気づいて援軍を送ってくれるしかないわね」

お手上げのポーズをする水無月さん。
ちなみに、

「この遮絶?ですか、結界が定着するまであとどれくらいですか?」

水無月さんは俺を見て

「あと5時間」


残りの猶予はあとわずか。
果たして2人はあの化物相手に、この結界を攻略することが出来るのか?

時刻は午前3時、降っていた雨がいつの間にか止んでいた。








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