『IF』異世界からの侵略者

平川班長

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2章 市街戦

外話 異世界では

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~IFの世界~

コツコツと靴音が響く。
磨き抜かれた回廊を歩く男がいた。

金髪のオールバックにサングラス。
上下共に黒の服を着た男
カトラナ=バージェスは、この日報告の為に、この場所を訪れていた。

(相変わらず、派手な場所だな)

天井は吹き抜けており、周りの柱も一際高い。地球で言えば、ルネッサンス時代に建築された神殿のような場所だ。

歩いていくと、1つの荘厳な扉がある。その扉がひとりでに開いた。
バージェスは中に入る。すると

「ナンバーズスリー、カトラナ=バージェス殿の到着です!」

扉の内側にいた警備兵が大声で言うと、部屋の明かりがつく。
そこには

「警備兵は下がりなさい。これより会議を始める」

円卓に座った12人の真ん中に座する男が言う。その声には人を圧する魔力が込められている。

「…ッ!!はっ!かしこまりました」

警備兵が一瞬気圧されるが流石は最高機関を守る者。動揺を最小限に収めて、部屋を出ていった。

この国を治める最高機関『オリュンポス』

12人で構成され、一人一人が恐るべき魔術の使い手達だ。この国を実質支配する、この国のあらゆる決定権はこの12人の裁定で決まる。
無論『ナンバーズ』は彼らが使役する戦力。
法や裁判は彼ら『オリュンポス』
戦争や戦闘などの対外国との戦いは『ナンバーズ』が引き持つ。

「ナンバーズのスリー、カトラナ=バージェス。帰還いたしました。報告が遅れて申し訳ございません」

バージェスは片膝をつき、頭を下げる。

「よい、ご苦労だったなスリー。怪我を治しておったのだろう?ならば仕方ない」

先程の中央の男が言う。そして

「ただ我々が聞きたいのは、お主の任務が達成したのか否かと、お主をそれほどまでに痛めつけた相手の強さだ」

「はっ。私が受けた任務のうち、『進行中の策』の下拵えは滞りなく進みました。しかし、相手の守護者の暗殺は失敗いたしました」

「ふむ、貴様は強い。それは誰もが認めるところだろう。貴様ならば失敗をしないと思っていたが……相手が強かったのか?たかだか一時的に発現した能力使いに?貴様が遅れをとるとは思えん……どうだ?」

ビリビリと空気が揺れる。男の発する魔力で部屋が軋んでいる。
男は怒っていた。
自身が使役する『ナンバーズ』そのトップスリーに入る男を派遣したのに成果が挙げられなかったことに……

「はっ、作戦行動中に1人の守護者を見つけ、始末しかけていたのですが……途中で援軍がきました」

ドン!と男が机を叩く。

「援軍がなんだ!!貴様の力ならば問題あるまい!!なぜまとめて始末出来なかった!!」

男は一気にヒートアップしている。
仕方ない、とバージェスはとっておきの情報を出す。

「『無垢なる戦姫』……」

ザワ!
と12人の『オリュンポス』メンバーの気配が変わる。

「援軍に来た者がかの『無垢なる戦姫』でございました」

ドン!ドン!とまたもや男が机を叩く。

「馬鹿な……!!『無垢なる戦姫』だと!?奴は先の『大戦』で死んでいるだろうが……!!出鱈目を吐くな!……スリー!!」

「いえ、虚偽ではございませぬ。あの圧倒的な力……そして風貌も情報と一致します。さもなければ、私が遅れをとるなどあり得ないでしょう」

「奴が生きているだと……?」

「マズイぞ、あちらにそれほどの戦力があるとは……」

「奴は、「ナンバーズ4人がかり」の戦場をたった1人で耐え忍んだ怪物……並みの戦力では打ち破れんぞ……!」

オリュンポスの面々がザワつく。無理もない。自分達が勝利したとはいえ、大戦は多くの犠牲を伴った。
特に最終局面では、どちらかというと、あちらの国の方が優勢だったのだ。
圧倒的な戦力差にも関わらず、それを覆した強大な敵が2人いたのだ。
『無垢なる戦姫』はその1人。

大戦ではそのあまりの戦果の多さに、もはや実在した人物なのかどうかさえわからなくなっているような伝説的な人物なのである。そして………

「『無垢なる戦姫』が生きているとなると……まさか、『あやつ』も……!?」

ザワザワと騒ぎが大きくなる。

そう、もう1人いるのだ。しかもその男は『無垢なる戦姫』と同様、数多くのこちらのナンバーズを葬った男であり、敵の国の『総司令官』だった…

「……『零の剣聖(ぜろのけんせい)』」

1人がその言葉を発した瞬間。

シーーーーーンと場は静まり返る。

「どうなんだスリー……」

先程の男が聞いてくる。

「…「スキルホルダー」と呼ばれる向こうの世界の能力者達は近年なぜか結託し、組織を作るまでになりました。あまりにも「こちらの情報を知りすぎている」そして『無垢なる戦姫』が生きていた以上、可能性は高いだろうと思われます」

シン、と静まり返る。

「…………わかった。対策はこちらで考えておく。貴様は次の任務まで待機せよ」

「……承知いたしました」

バージェスは部屋を出る。

(やれやれ、現場を知らん奴らでどこまで対抗策を練れるのやら……)

バージェスが家に向かい歩き始めた時だった。

「お疲れ様です、バージェス。傷はもういいのですか?」

バッと後ろを振り返る。
いつからいたのだろうか?彼の後ろにはブロンドヘアの女性が立っていた。
背は女にしては高い。目は透き通るようなブルー。スーツを着ているが凹凸はしっかりしていて、スタイルもいい。どこからどう見ても絶世の美女なのだが……その歩き方、姿勢から彼女がただ者ではないことはわかる。

現にバージェスが声をかけられるまで気づかなかったくらいなのだ。 

「ソフィーか。『ナンバーズの1』が何の用かね?」

動揺を悟られないように話す……いや、この女なら見抜いているか?

「貴方が負傷したと聞いたので見舞いですよ。一応、ナンバーズをまとめる者としての責務です」

彼女は表情を変えずに、見舞いのフルーツを突き出してくる。

「これはどうも、で?何の用かね?」

「貴方は可愛げがないですね……いいです、本題に入りましょう。『無垢なる戦姫』……生きていたんですね?」

彼女にしては珍しい、殺気を放ちながら問い詰めてくる。

(鋭い殺気……また腕を上げたか……)

歴戦の猛者であるバージェスをもってしても、これには誤魔化しがきかないと悟る。それほどまでに彼女は強い。
ナンバーズのトップを張るのだから当然といえば当然。

「うむ、あれは間違いなくそうだろう。俺は戦闘で消耗していたのもあるが、あれとは1対1では敵う気がせん」

「そうでしょうね、彼女は当時のナンバーズの2、3、5、6を相手して全員を倒しているような魔女ですから」

ピリッと殺気が増す。

「?何か個人的な恨みでも?」

指摘されたソフィーはハッとした様子で、

「そう言うわけではないのですが………いえ、すいません。彼女には色々と思うところはあります。未熟です。このような事で感情を乱すとは……」

彼女は殺気を収めて、フルーツを渡してきた

「ということは、おそらく『彼』も生きているでしょう。私は近く、ナンバーズを召集します。「進行中の策」を成功させるためにも、1度作戦会議は必要でしょう。貴方も参加してくださいねスリー」

「承知した」

すると、目線を外していないはずなのに、ソフィーがいつの間にか姿を消していた。

(相変わらす恐ろしい女だ)

バージェスは歩みを再開する。

(『無垢なる戦姫』に『零の剣聖』か。なるほど………少しは楽しくなりそうだ)

次に会った時にどう対処する?

バージェスは家にたどり着くまで頭の中でシュミレーションを繰り返していた。



日が沈む。
今は穏やかなこの景色
しかし、自分が見ることになるのは熾烈な戦場になるだろう
そう予感するバージェスだった。







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