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1章 『IF』
第12話 決着
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遡ること30分前。
~シュミレーター室への道~
「でも、能力を使わないといっても、葵さんって向こうの………IFの出身なんですよね?魔術とか使えるんじゃないですか?」
「そうだね。最低限使えると思う。しかも厄介なのは魔術に関しては私達のような「スキルホルダー」と違ってあらゆる用途や種類があるから、どれくらい使えるかは葵さんの実力次第だけど………」
うん、水無月さんが考えてることは俺もそうだと思う。
あの人が魔術が下手なんて「絶対にない」
そうでなければ、『拒絶』の力をとられただけで弱いなんて、そんなの『最高戦力』なんて呼ばれないんじゃないかな?
「うーん、せめて使える魔術が視れれば話は違うんですけど……」
「あっ!!」
急に水無月さんが何か思いついたような声をあげた。
「そうか………てことは………」
立ち止まり何かを考え始める。
なんだろう?何故かこちらをすごく見てますが……
「水無月さん?」
「瀧本君、貴方は『戦術』組むのが得意よね?今となっては、それは貴方の眼の能力とも関係してると思うけど……もし、葵さんの魔術を何通りか視ることが出来たら『勝てる道筋』を組むことは可能?」
~シュミレーターの中~
「……仕留める…ねぇ」
ゴウ!!と葵さんのオーラが膨れ上がる。
嘘だろ!?まだこんな力が……
「面白いじゃん。見せてもらおうかな!」
瞬時に葵さんの姿が消える。速い!
どこだ!?辿れ!オーラの軌跡を!
葵さんは………俺の背後!
ビッ!
俺の背中の服が切れる!間一髪、死神の鎌のような蹴りを躱す。
「『星よ(エトワール)』」
葵さんの広げた手の平の指に強烈な力が溜まる!
「水無月さん!」
水無月さんが俺の意図を読み、葵さんの背後に回る。そこから短剣による斬り込み!
「無駄だよ。『空よ(シエル)』」
背後の水無月さんに俺に向けているのとは反対の手の平をかざす。
水無月さんのいる地面に紋様が浮かぶ。
(瀧本君の話だと…………)
先程、早口ではあったが、葵さんの魔術については大まかに聞いてる。
「まず『転移』の魔術。紋様に入った対象を瞬時にもう1つの紋様の場所に転移させます。効果を考えると防御的な使い方に片寄ると思います。対象は人でも物でも…おそらく葵さんが指定したものですね。これに関しては俺はお手上げです。視えていても躱せないですから……でも、水無月さんなら……」
ブンとミユが転移する。
(よし、後は瀧本傑を…………むっ!)
この感触!転移させたものはミユじゃない!?
10メートル程に離れた場所に転移したのは……
(っ!分身!)
血で出来た分身だ!
(…本体は……いや、それよりも先に瀧本傑を………ッ!!)
瀧本傑が予想よりも早く間合いを詰めてきていた!
(さっきの時間軸をずらした眼の能力か…!)
瀧本はすでに間合いの中!
(さっき水無月さんに使った転移の魔術、あれを使った瞬間俺へ向いていた光弾の魔術の力が弱まった!おそらく光弾の魔術は他の2つに比べてタメが長いんだ!そして………)
瀧本が短剣を振るう!
(同時に光弾と転移の魔術は使えない!)
葵はやむなく魔術をキャンセル!
瀧本を迎撃するべく魔力を脚に込める!
「『矢(アロー)』!!」
葵の左右、背後から血の矢が押し寄せる
(跳躍して脱出……ミユ!!)
頭上からミユが血の壁を盾に落ちてくる!
「『拘束』の魔術。対象を水の檻に閉じ込めます。でもそんな便利な技があるならもっと乱発してもいい。おそらく1度使うと発動条件を満たさないと使えない。対象に自分の魔力で触れていること。そして……」
(対象を視認していること!)
どうする?
近接戦闘で瀧本をすぐに仕留めるのは不可能。
『眼』の能力を使い始めた彼に攻撃を当てるのは至難。
空中のミユを転移?
それも無理だ。
あれが本体とは限らないし、そちらに魔術を使うと、瀧本と血の矢を防げない。
水の檻も同様。一度瀧本に使っているから、もう一度使うには触れるしかない。ミユには使えるが、血の壁をデコイとして使用されてはミユを拘束出来ない。
選択肢がなくなる葵
(………やるじゃん。しょうがない、とっておきでいこうか!)
~モニタールーム~
ジュンが驚愕する。それは仁も同じ。
圧倒的に勝っていると思っていた葵が、予想外のミユと傑のコンビネーションによって追い詰められていく。
「面白い事がわかったよ」
ジュンが壁に寄りかかる仁に言う。
「というと?」
「瀧本傑。この名前でインターネット調べてみたけど、野球界では相当な有名人だったんだね。色々と検索ワードに引っ掛かったよ。特に面白いのが中学の時の大会の記録」
「個人成績がずば抜けているのか?」
「それもあるけど、彼の中学のクラブチームは全国優勝してるし、世代の代表選手として世界大会にも出場し優勝してる」
「すごい選手ならそれくらいはあり得るのでは?」
「そうだね。でもね面白いのは全国大会からのチームの勝ち方なんだけど………全試合「後半での逆転勝ちかサヨナラ勝ち」だ」
「!?」
「世界大会も例外なくね。彼が出場した試合の勝率は100%。ポジションは「キャッチャー」………ククク、おあつらえ向きだね。おそらく、『眼』で集めた情報を整理して勝つための方法や道筋を立ててたんじゃないかな?癖とか弱点とかね。まあ、本人は無意識だろうけど」
「ということは………」
「葵の魔術の癖や発動条件を見破ったんじゃないかな?でないと、ミユの攻撃の意味がわからないからね」
残りの日本酒を飲み干しジュンは語る。
「2人は事前にこの『戦術』のことを前提に戦いを進めることを決めていたんだろう。ミユが囮になり、なるべく不自然ではないように情報を集める……そして後半勝ち筋を見つけた傑の戦術によって一気に畳み掛ける…………ん!!」
「どうした?」
「葵が本気になった。仁、よく見ておくといい。これが『最高戦力』の力だ」
~シュミレーター~
(よし、理想の形!これならいける!)
俺は短剣にありったけの力を込めて振るう。
この形なら葵さんは魔術を使えない。
ただし、こちらも後がない。
(時間軸ずらしの動きを使った以上、俺はしばらくまともには動けない。水無月さんも分身・矢・壁の連発で血の残量も少ない……)
だから決める!
勝機はここしかない!
しかし、
(!?葵さんが魔力を解除した!?)
それどころかオーラも消えている!?
スローモーションに視える世界で葵さんは全ての迎撃体勢を解除。
諦めたのか!?マズイ!もう攻撃は止まらない!
当たれば重傷、下手したら命を落とす可能性も……
そんな俺の心配は杞憂に終わる。
なぜなら……
「『Polaire 0(極致ゼロ)』」
葵さんが呪文を唱えた瞬間…………
世界が止まった……………
(なん…だ、これ。動けない?)
俺の動きが完全に止まっている。
水無月さんも落下が止まっている。
矢も空中で動かない。
そんな世界が終わったような場所で
「瀧本傑、君は特殊な眼だから今の現状が視えているかな?でも反応出来ないでしょ?」
葵さんは普通に俺のほうに歩いてきて喋る。どうなってる!?
「この技はね。とある男の能力を参考に私が作った『全てを無効にする1秒間』全ての万物は0に帰る。あらゆる正の数字が0になる。速度も、力も、重量もここでは等しく0になる」
そんな馬鹿な!?こんな技があるなら……
「大丈夫、安心して。この技を使うと、私は一時魔力を生成出来なくなる。ある意味これを使わせた時点で君達の勝ちだよ。奥の手だし」
だから、みんなには秘密にしてね?
葵さんが少し笑ってウインクする。
可愛い!破壊力が……!破壊力がすごい!!
「…なんか邪な事を考えてる?」
葵さんが無表情に戻って言う。
たからなんでそこだけ勘が鋭いんですか!?
でもそうか、『拒絶』の能力も魔力を少なからず使うとしたら、これを使うと葵さんは本当に無防備になるんだ。
「これで訓練終了。楽しかったよ。君ならいつでも相手してあげるから、いつでもおいで」
葵さんがこれでもかと顔を近づけて言う。
もしかして悔しがってる?
「悔しがってません」
だからなんで!?
世界が廻る。
動き出す。
「えっ?」
「…………」
水無月さんが地面に立っている。
俺の横で、何が起きたのかわからない顔をしている。
「あー疲れた。今日はおしまい。お疲れ様ー」
葵さんが何事もなかったように解散宣言をする。
いやいやいや、
「こら!お前が勝手に決めるんじゃない!」
ゴチン!と葵さんがジュンさんの拳骨を受けていた
「いたーー!何するのよ!」
「こっちのセリフだ!傑はまだしも、ミユなんて何が起きたかわかっていないだろうが!」
まったく、とジュンさんは俺達を見て
「お疲れ様2人とも。よく頑張ったね。データはしっかり取れたよ。傑の能力についてはこっちで調べておくから2人とも休憩しなさい。傑の部屋はミユに教えてもらってくれ」
「ちょっと待ってください!ジュンさん!!何が起きたんですか!?私達、決死の攻撃を仕掛けていたはずなんですが……」
戸惑いを隠せない水無月さんがジュンさんに詰め寄るが
「ミユ、結果は君達の勝ちだよ。葵の魔力切れだ。ただし、決死の攻撃は防がれたってところだ」
ジュンさんがこちらに目配せする。
どうやら、先程の技については秘密にしたいらしい。
同感だ。こんなこと説明しても水無月さんは信じないだろうし……
「……わかりました。ジュンさんがそう言うなら……」
水無月さんも渋々了承した。
「じゃあ私も部屋で寝るから。昨日から寝てないから眠いし、おやすみー」
葵さんがこの場を去ろうとするが、
ガッ!
とその肩をジュンさんが掴む。
「葵?さっきの技についてちょっとお話ししたいなぁー?」
ビクッと肩が跳ねる。
あー、やっぱりあの技って人に見せちゃいけないやつなのね?
「でも……危なかったし……」
「『拒絶』で弾けばいいだろー?何でわざわざあの技を?」
ジュンさんの額に青筋。あー怒ってるな。
しかもこの人お酒も飲んでたな。酒臭いし……
「それは……負けなのはわかったから、せめて格好つけよう…か…と?」
「あーおーいー?」
結局、葵さんは首根っこ掴まれて連行されていった。どうやら彼女が睡眠を貪れるのはもう少し後の事になりそうだ…………南無。
「なんかスッキリしないけど……!てゆーか瀧本君の能力なら何があったか視えてたんじゃない!?」
げっ!
水無月さんがそこに気づいた。
「何があったの!?」
こちらも服を掴まれ尋問タイム!
嫌だよ!ジュンさんが怒ると恐いことがわかったのに!
「すいません、水無月さん。俺からは何も……」
「その言い方は…やっぱり知ってるわね!話しなさい瀧本君!!」
俺は即座にダッシュで逃げる!
「こら!待ちなさーい!!」
水無月さんが追いかけてくる。
やれやれ、どうやら俺がベッドに入れるのもまだまだ先になりそうだ。
~1章完~
~シュミレーター室への道~
「でも、能力を使わないといっても、葵さんって向こうの………IFの出身なんですよね?魔術とか使えるんじゃないですか?」
「そうだね。最低限使えると思う。しかも厄介なのは魔術に関しては私達のような「スキルホルダー」と違ってあらゆる用途や種類があるから、どれくらい使えるかは葵さんの実力次第だけど………」
うん、水無月さんが考えてることは俺もそうだと思う。
あの人が魔術が下手なんて「絶対にない」
そうでなければ、『拒絶』の力をとられただけで弱いなんて、そんなの『最高戦力』なんて呼ばれないんじゃないかな?
「うーん、せめて使える魔術が視れれば話は違うんですけど……」
「あっ!!」
急に水無月さんが何か思いついたような声をあげた。
「そうか………てことは………」
立ち止まり何かを考え始める。
なんだろう?何故かこちらをすごく見てますが……
「水無月さん?」
「瀧本君、貴方は『戦術』組むのが得意よね?今となっては、それは貴方の眼の能力とも関係してると思うけど……もし、葵さんの魔術を何通りか視ることが出来たら『勝てる道筋』を組むことは可能?」
~シュミレーターの中~
「……仕留める…ねぇ」
ゴウ!!と葵さんのオーラが膨れ上がる。
嘘だろ!?まだこんな力が……
「面白いじゃん。見せてもらおうかな!」
瞬時に葵さんの姿が消える。速い!
どこだ!?辿れ!オーラの軌跡を!
葵さんは………俺の背後!
ビッ!
俺の背中の服が切れる!間一髪、死神の鎌のような蹴りを躱す。
「『星よ(エトワール)』」
葵さんの広げた手の平の指に強烈な力が溜まる!
「水無月さん!」
水無月さんが俺の意図を読み、葵さんの背後に回る。そこから短剣による斬り込み!
「無駄だよ。『空よ(シエル)』」
背後の水無月さんに俺に向けているのとは反対の手の平をかざす。
水無月さんのいる地面に紋様が浮かぶ。
(瀧本君の話だと…………)
先程、早口ではあったが、葵さんの魔術については大まかに聞いてる。
「まず『転移』の魔術。紋様に入った対象を瞬時にもう1つの紋様の場所に転移させます。効果を考えると防御的な使い方に片寄ると思います。対象は人でも物でも…おそらく葵さんが指定したものですね。これに関しては俺はお手上げです。視えていても躱せないですから……でも、水無月さんなら……」
ブンとミユが転移する。
(よし、後は瀧本傑を…………むっ!)
この感触!転移させたものはミユじゃない!?
10メートル程に離れた場所に転移したのは……
(っ!分身!)
血で出来た分身だ!
(…本体は……いや、それよりも先に瀧本傑を………ッ!!)
瀧本傑が予想よりも早く間合いを詰めてきていた!
(さっきの時間軸をずらした眼の能力か…!)
瀧本はすでに間合いの中!
(さっき水無月さんに使った転移の魔術、あれを使った瞬間俺へ向いていた光弾の魔術の力が弱まった!おそらく光弾の魔術は他の2つに比べてタメが長いんだ!そして………)
瀧本が短剣を振るう!
(同時に光弾と転移の魔術は使えない!)
葵はやむなく魔術をキャンセル!
瀧本を迎撃するべく魔力を脚に込める!
「『矢(アロー)』!!」
葵の左右、背後から血の矢が押し寄せる
(跳躍して脱出……ミユ!!)
頭上からミユが血の壁を盾に落ちてくる!
「『拘束』の魔術。対象を水の檻に閉じ込めます。でもそんな便利な技があるならもっと乱発してもいい。おそらく1度使うと発動条件を満たさないと使えない。対象に自分の魔力で触れていること。そして……」
(対象を視認していること!)
どうする?
近接戦闘で瀧本をすぐに仕留めるのは不可能。
『眼』の能力を使い始めた彼に攻撃を当てるのは至難。
空中のミユを転移?
それも無理だ。
あれが本体とは限らないし、そちらに魔術を使うと、瀧本と血の矢を防げない。
水の檻も同様。一度瀧本に使っているから、もう一度使うには触れるしかない。ミユには使えるが、血の壁をデコイとして使用されてはミユを拘束出来ない。
選択肢がなくなる葵
(………やるじゃん。しょうがない、とっておきでいこうか!)
~モニタールーム~
ジュンが驚愕する。それは仁も同じ。
圧倒的に勝っていると思っていた葵が、予想外のミユと傑のコンビネーションによって追い詰められていく。
「面白い事がわかったよ」
ジュンが壁に寄りかかる仁に言う。
「というと?」
「瀧本傑。この名前でインターネット調べてみたけど、野球界では相当な有名人だったんだね。色々と検索ワードに引っ掛かったよ。特に面白いのが中学の時の大会の記録」
「個人成績がずば抜けているのか?」
「それもあるけど、彼の中学のクラブチームは全国優勝してるし、世代の代表選手として世界大会にも出場し優勝してる」
「すごい選手ならそれくらいはあり得るのでは?」
「そうだね。でもね面白いのは全国大会からのチームの勝ち方なんだけど………全試合「後半での逆転勝ちかサヨナラ勝ち」だ」
「!?」
「世界大会も例外なくね。彼が出場した試合の勝率は100%。ポジションは「キャッチャー」………ククク、おあつらえ向きだね。おそらく、『眼』で集めた情報を整理して勝つための方法や道筋を立ててたんじゃないかな?癖とか弱点とかね。まあ、本人は無意識だろうけど」
「ということは………」
「葵の魔術の癖や発動条件を見破ったんじゃないかな?でないと、ミユの攻撃の意味がわからないからね」
残りの日本酒を飲み干しジュンは語る。
「2人は事前にこの『戦術』のことを前提に戦いを進めることを決めていたんだろう。ミユが囮になり、なるべく不自然ではないように情報を集める……そして後半勝ち筋を見つけた傑の戦術によって一気に畳み掛ける…………ん!!」
「どうした?」
「葵が本気になった。仁、よく見ておくといい。これが『最高戦力』の力だ」
~シュミレーター~
(よし、理想の形!これならいける!)
俺は短剣にありったけの力を込めて振るう。
この形なら葵さんは魔術を使えない。
ただし、こちらも後がない。
(時間軸ずらしの動きを使った以上、俺はしばらくまともには動けない。水無月さんも分身・矢・壁の連発で血の残量も少ない……)
だから決める!
勝機はここしかない!
しかし、
(!?葵さんが魔力を解除した!?)
それどころかオーラも消えている!?
スローモーションに視える世界で葵さんは全ての迎撃体勢を解除。
諦めたのか!?マズイ!もう攻撃は止まらない!
当たれば重傷、下手したら命を落とす可能性も……
そんな俺の心配は杞憂に終わる。
なぜなら……
「『Polaire 0(極致ゼロ)』」
葵さんが呪文を唱えた瞬間…………
世界が止まった……………
(なん…だ、これ。動けない?)
俺の動きが完全に止まっている。
水無月さんも落下が止まっている。
矢も空中で動かない。
そんな世界が終わったような場所で
「瀧本傑、君は特殊な眼だから今の現状が視えているかな?でも反応出来ないでしょ?」
葵さんは普通に俺のほうに歩いてきて喋る。どうなってる!?
「この技はね。とある男の能力を参考に私が作った『全てを無効にする1秒間』全ての万物は0に帰る。あらゆる正の数字が0になる。速度も、力も、重量もここでは等しく0になる」
そんな馬鹿な!?こんな技があるなら……
「大丈夫、安心して。この技を使うと、私は一時魔力を生成出来なくなる。ある意味これを使わせた時点で君達の勝ちだよ。奥の手だし」
だから、みんなには秘密にしてね?
葵さんが少し笑ってウインクする。
可愛い!破壊力が……!破壊力がすごい!!
「…なんか邪な事を考えてる?」
葵さんが無表情に戻って言う。
たからなんでそこだけ勘が鋭いんですか!?
でもそうか、『拒絶』の能力も魔力を少なからず使うとしたら、これを使うと葵さんは本当に無防備になるんだ。
「これで訓練終了。楽しかったよ。君ならいつでも相手してあげるから、いつでもおいで」
葵さんがこれでもかと顔を近づけて言う。
もしかして悔しがってる?
「悔しがってません」
だからなんで!?
世界が廻る。
動き出す。
「えっ?」
「…………」
水無月さんが地面に立っている。
俺の横で、何が起きたのかわからない顔をしている。
「あー疲れた。今日はおしまい。お疲れ様ー」
葵さんが何事もなかったように解散宣言をする。
いやいやいや、
「こら!お前が勝手に決めるんじゃない!」
ゴチン!と葵さんがジュンさんの拳骨を受けていた
「いたーー!何するのよ!」
「こっちのセリフだ!傑はまだしも、ミユなんて何が起きたかわかっていないだろうが!」
まったく、とジュンさんは俺達を見て
「お疲れ様2人とも。よく頑張ったね。データはしっかり取れたよ。傑の能力についてはこっちで調べておくから2人とも休憩しなさい。傑の部屋はミユに教えてもらってくれ」
「ちょっと待ってください!ジュンさん!!何が起きたんですか!?私達、決死の攻撃を仕掛けていたはずなんですが……」
戸惑いを隠せない水無月さんがジュンさんに詰め寄るが
「ミユ、結果は君達の勝ちだよ。葵の魔力切れだ。ただし、決死の攻撃は防がれたってところだ」
ジュンさんがこちらに目配せする。
どうやら、先程の技については秘密にしたいらしい。
同感だ。こんなこと説明しても水無月さんは信じないだろうし……
「……わかりました。ジュンさんがそう言うなら……」
水無月さんも渋々了承した。
「じゃあ私も部屋で寝るから。昨日から寝てないから眠いし、おやすみー」
葵さんがこの場を去ろうとするが、
ガッ!
とその肩をジュンさんが掴む。
「葵?さっきの技についてちょっとお話ししたいなぁー?」
ビクッと肩が跳ねる。
あー、やっぱりあの技って人に見せちゃいけないやつなのね?
「でも……危なかったし……」
「『拒絶』で弾けばいいだろー?何でわざわざあの技を?」
ジュンさんの額に青筋。あー怒ってるな。
しかもこの人お酒も飲んでたな。酒臭いし……
「それは……負けなのはわかったから、せめて格好つけよう…か…と?」
「あーおーいー?」
結局、葵さんは首根っこ掴まれて連行されていった。どうやら彼女が睡眠を貪れるのはもう少し後の事になりそうだ…………南無。
「なんかスッキリしないけど……!てゆーか瀧本君の能力なら何があったか視えてたんじゃない!?」
げっ!
水無月さんがそこに気づいた。
「何があったの!?」
こちらも服を掴まれ尋問タイム!
嫌だよ!ジュンさんが怒ると恐いことがわかったのに!
「すいません、水無月さん。俺からは何も……」
「その言い方は…やっぱり知ってるわね!話しなさい瀧本君!!」
俺は即座にダッシュで逃げる!
「こら!待ちなさーい!!」
水無月さんが追いかけてくる。
やれやれ、どうやら俺がベッドに入れるのもまだまだ先になりそうだ。
~1章完~
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