『IF』異世界からの侵略者

平川班長

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1章 『IF』

第11話 圧差

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「イチャイチャしてないでさっさとかかっておいで」

葵さんが相変わらずの無表情で言う。

「イチャイチャなんてしてません!!そもそも、葵さんがこっちに飛ばしたんでしょ!」

いつも冷静な水無月さんが大慌てだ。
そんなに嫌でしたか?落ち込みますよ?

たださっきの一連の動きで身体にダメージがかなりきてる。スローモーションの世界で俺だけ速く動くとやはりこうなるようだ。

(瀧本君、私が時間を稼ぐから、その間に少しでも回復しておいて…!)

水無月さんが俺にだけ聴こえるような小声で喋る。

たしかに、これが戦闘訓練なら自分がここからもう一度戦線に復帰出来るかは、かなり重要だ。 そもそも、自分でもどれくらい長い時間動けるかは未知数だし………ただこの力は絶対に今後必須である。

「うーん?良からぬ気配を感じますねー」

葵さんが勘の良さを発揮する。
それには目もくれず、水無月さんの力が身体全体に満ちていくのが視える。

(オーラを視る力は意識しなくても長く使えるようになってきたな)

そして、水無月さんが動く。

水無月さんの能力の源である血を、身体に薄く纏うような形をとる。

(血脈励起?………いや、違う。あれよりは力は抑え気味だ。それでも力が増幅していくのがわかる!)

「『血脈隆々』!」

おそらく血脈励起の弱点である、時間制限を克服する技だろう。血脈励起程の出力は出ないが、それよりも長く戦闘が出来るような感じではないだろうか。

「私と近接戦闘をする気?時間稼ぎならもう少しまともな方法があると思うけど?」

葵さんがそう言うが

(いや、水無月さんの判断は正しい!葵さんは『拒絶』の力を封印してるから積極的に魔術を使ってきてる。どれくらい手数があるかわからない魔術と中距離でやりあうのはリスクが高い!それよりもよりシンプルな近接戦闘のほうが勝算はある!)

水無月さんが一瞬にして間合いを詰める!
両手にはまたもや血で作った短剣。

「さっきも通用しなかったはずだけど?」

葵さんがお構い無しに蹴りを放つ。恐ろしい力が込められているのがオーラでわかる。
短剣どころか水無月さんの両腕を粉砕するような蹴りだ!

しかし、水無月さんはさらに加速!
わざとスピードを緩めていたらしい。その緩急を使い、葵さんの蹴りよりも低い姿勢で潜り込む!

「シッ!!」

左の軸足を狙い斬り込む!

「っと!!」

葵さんも歴戦の猛者。
裏をかかれたはずだが、瞬時に状況を把握し攻撃をキャンセル、その場でジャンプし短剣を躱す!

「『彗星(メテオ)』!!」

ジャンプした葵さんのさらに上空から

「!!」

大質量の塊が墜ちてくる!

(空中なら躱せないはず!)

水無月さんのの渾身のコンビネーション攻撃だが……

「『空よ(シエル)』」

呪文と同時に墜ちてくる塊に紋様が……

「水無月さん!危ない!!」

ハッとした水無月さんの頭上に瞬時に隕石が出現し墜ちる!

ズーン!!!!

地面が揺れる程の衝撃。

「…くっ!」

紙一重で躱した水無月さんの背後に……

「その程度?ミユ」

葵さんがすでに攻撃体勢……

「…あっ」

バキ!と蹴りを受けた水無月さんが10メートル以上吹き飛ぶ!

「水無月さん!」

身体は……大丈夫だ!なんとか動ける。
短剣を握り駆けつける!

「ああ、瀧本傑は引っ込んどいて………『水よ(オー)』」

呪文と同時に

ゴポッ

な!?水の玉の中に閉じ込められた!
息が!?落ち着け!息を止めろ!

「瀧本君!!」

「人の心配してる場合?」

葵さんの攻撃は止まらない。縦横無尽に駆け回り、あらゆる方向からの蹴りを放つ。

短剣での迎撃、血の壁でのブロック、血の魔弾を使った攻撃を使い、受け続けるミユだが……

(ダメだ!このままじゃ押しきられる!)

『血脈隆々』の身体強化のおかげで何とか付いていくが、移動と攻撃に魔力を込めてくる葵の戦闘技術の完成度が高すぎて、少しずつだが遅れをとる。

「『流れ…………!」

「遅い」

ガッと口を手で塞がれそのまま投げ飛ばされる。
そして突き出た岩壁に背中から強打する。

「…ガハッ!」

空気が漏れる。痛みで呼吸が出来ない。

「さてと、2人とも戦闘不能にしてそろそろ終わろうか」

悠然と歩いてくる葵。

傑は水中に閉じ込められたまま、このままでは酸素不足で気を失うだろう。
ミユは気絶こそしていないものの、作成した短剣も折れ、満身創痍。血脈隆々も強制的に解除されてしまった。

((強い……!!))

これで普段の戦闘力よりも下がっているというんだから、葵の実力の底知れなさに2人は改めて最高戦力の力を知った。



~モニタールーム~

「流石は葵さんというところか。この状況と限定された力でここまで圧倒するとは……」

「仁。君なら勝てるかい?」

葵の実力に感嘆する仁にジュンは日本酒を煽りながら問う。
「ふむ……」と考えた仁は

「普段の葵さんでは無理だ。そもそもあの人は多人数との戦闘は最も得意とするところだろう。『無垢なる戦姫』の二つ名は伊達ではない」

ただし……
と、仁は続けて

「俺なら、限定された葵さんなら勝算はある」
と豪語した。



~シュミレーター~

ザッ ザッ
と近づいて止まった葵は無表情で、岩壁に寄りかかったミユを見下ろす。

「思っていた以上に弱いねミユ。君の戦闘力を過大評価してたみたい」

終わらせるね。と葵が手を向けた時

「フフッ、フフフ」

とミユが突然笑い出す。

「何が可笑しいの?」

「いえ、すいません。私も自分の弱さにビックリしてます。まさか『時間稼ぎ』もギリギリとは………」

「?」

「でも、何とかなりそうです。むしろ葵さん相手にここまで粘れたら上出来でしょ?」

瞬間
ドロッとミユの身体が紅く融ける。

「!?血で作った分身……!?」

ハッと後ろを振り向くと、水の玉の檻から脱出した傑と『水の玉の檻を破壊した』ミユが横にいた。

「……いつから?」

葵は少し苛立たしげにミユに問う。

「『血脈隆々』を使った時です。身体を血の霧で覆った時に瞬時に分身と入れ替わりました。結構力を使っちゃいますが、これくらいのリスクは負わないと貴女は騙せないでしょうし」

「なるほどね、気づかなかった。で?その時間稼ぎをしたから何なの?瀧本傑の回復を待った?でもその子が私に及ばないのはミユもわかってるよね?」

怪訝な顔で聞く葵。それにミユも頷く。

「はい、彼では貴女には及びません。私が時間を稼いだのは『貴女の魔術を彼に見せる』為です」

「?」

ますます訳がわからない。見たからなんだと言うのか?

しかし、葵は……いや、モニタールームで観ているジュン達も知らない。
瀧本傑の『もう1つの武器』

「ごめんね、瀧本君。もう少し情報をあげたかったけど……どう?いけそう?」

「はい、自分でも身体を使って経験したので……現状のあの人の魔術に対する『戦略』は組めました」

そう、瀧本傑の眼「千里眼(仮)」は、あらゆるものを見通す神の眼。
相手の強さや攻撃予測も可能だが、
それらの情報を精査し、計算し、組み立てることで『勝利への道筋』を視ることもまた可能なのだ!

「OK!じゃあここから反撃開始よ!瀧本君!」

「はい!ここからは短期決戦で仕留めましょう!」

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