『IF』異世界からの侵略者

平川班長

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2章 市街戦

6話 総力戦

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「分析結果出ました。ジュンさん」

「ん、ご苦労様……」

守護者の基地のとある部屋。
ここはモニタールーム。
色々な機器が常備してあり、あらゆる分析や演算を可能とする。さらにはジュン達の世界の魔術的要素も複合することで、世界一の究極のスパコンと言えるほどスペックが上がっているものまである(ジュンが日本で自由に行動できているのはこういった技術を日本政府に売っているからである)

「結果はどんな感じ?」

暇そうに椅子に座り、プラプラ足を振っている葵が演算結果が書かれた紙を覗き込む。

「やっぱりただの遮絶じゃねーな。色々といじってるみたいだ。特に気になるのが……」

ジュンが1つの数値を指す。それは遮絶結界内部の硬度の数値だ。
遮絶から脱出するには基本的に基礎を破壊するわけだが、「遮絶を壊す必要のない脱出」に関しては、本人の実力さえあれば出てこれるのだ。それは結界を張った者よりも「強ければ」いい。

「だが今回の遮絶は硬度の高さも異常だ。まるで「外には出てほしくないように」」

「それは普通にそうじゃない?変に援軍呼ばれても嫌だしさ」

葵の言葉をジュンは首を振って否定する。

「いや、よく考えてみろ。遮絶の基本的な構造は時間か経てば経つほど「浸食出来る可能性が上がる」だ。敵が留まるよりも出て行ってくれた方が都合がいい」

時間も稼げるしな。とジュンは言う。
葵は一度情報を頭で整理して、

「ていうことは、今回の相手の目的は「異世界の侵略じゃない」ってこと?」

その言葉を聞いたジュンはハッとした顔になり、再び演算結果の紙を見る。そして……

「そうか……ということは……マズイぞ!!モニター班!!急いで遮絶内の全員のバイタルチェックをしろ!!」

「しかし……それをすると基地内の魔力を大幅に使用することになりますが……」

「構わん!俺が許可する!急げ!!」

「は、はい!!」

通常、遮絶には外部からの電波はもちろん、魔術的な交信さえ出来ないようになっているのだが……ジュンや葵達の上層部と、魔術に特化した数名の努力で遮絶の結界に一時的に穴を空けて、通信を可能とする手段が確立されている。ただし、それには基地全体の魔力量の8割程度を消耗するのだが……

「マズイの?」

「ああ、俺の予想通りならな」

2人が会話している間に準備が整い

「穿孔開始します!……成功!時間、およそ5分が限界と推定!」

「全員のバイタルチェック開始」

「了解……バイタルチェック開始します。傑、大樹、共にグリーン。水無月、カナ、両名はイエロー……戦闘中と思われます。仁……これは?何か魔術による拘束を受けている模様。本人は無事です。翼……………生命反応ありません。レッドです」

「「!!」」

ジュンと葵の表情が曇る

「翼がやられた?あの子は特に危機に敏感な筈。相手がナンバーズでも死ぬようなヘマは……」

「翼の予想するより遥かに強大な敵が来たんだ」

葵の言葉を遮り、ジュンが確信めいた話をする。

「どういうこと?」

「奴らの狙いは世界の乗っ取りじゃない。俺達「守護者」なんだ。おそらくこの遮絶は閉ざされた闘技場だ。ナンバーズの上位…1か2、あるいは両方が来ている………」

「……私が行こうか?」

葵にも事の深刻さが伝わったのか、提案をするが……

「いや、この作戦の奴らの狙いは『無垢なる戦姫』の討伐だ。前回のお前の働きがあっちに伝わっていて、優先的に排除しにきているんだ。もしくは……俺の生存の確認かな……」

少し苦笑めいた表情を浮かべるジュン。

「でも、このままじゃ…」

「わかってる。俺も想定はしていたから、仁を送り込んだんだが……仁の捕縛と、この遮絶のメカニズムの解明まではアッチの想定内だ。いわゆる「このまま出てこないなら仲間を皆殺しにするぞ」という脅しだな」

さてどうするか……
時は一刻を争う。

「葵、行ってくれるか?」

「もちろん」

即答である。
感情の起伏が少ない少女ではあるが、誰よりも仲間思いだということをジュンは知っている。
たとえ、自分を排除されるかもしれない罠に飛び入ることになると分かっていてもだ。

「この遮絶は普通の遮絶じゃない。解除にはこれを作った魔術師を排除しなければならないだろう。結界の基礎なんて無いだろうからな」

ジュンは手短にかつ、的確にポイントを葵に伝える。

「魔術師の排除は後回しだ。まずは全員を助けること。それから……」

「それから?」

「……俺とお前の存在があちらにバレたのは間違いないだろうしな。遠慮はいらん、やってやれ」

「りょーかい」

フッと葵の姿が消える。

さて……

「魔術師はこちらで何とかするしかないか……」

ジュンは永らく使っていない武器を取りにモニタールームを出る。

『零の剣聖』

この男がついに動く。




遮絶内


「へぇ、意外とやるな姉ちゃん」

「ハァ……ハァ…」

翼とソフィーの場所から4km離れた倉庫街の一角で、ゲオルと呼ばれる男とミユの戦いは続いていた。

(……強い!)

1度戦ったバージェスほどのプレッシャーは感じないが、長い槍を使った縦横無尽の攻撃に苦戦している。

(血は……まだ全然余力はあるけど、このまま短刀を破壊され続けたらジリ貧……)

同じ槍を作る?
いや、相手はその道のスペシャリスト。打ち合って勝てるわけがない。

「まー、やるっちゃやるが、こんなもんかね。そろそろ面倒にもなってきたし、終わりにするか?」

ズン!
とゲオルの殺気が膨れ上がる。
そして槍を持った手を半身の体勢でこれでもかと振りかぶる。
槍には恐るべき魔力!
バチバチと電気を帯びて視認出きるほどの魔力が穂先に集中する!


(ッ!!……投擲……!?)

「あばよ……『ボルテック・ストライク(必滅の雷槍)』!!」

放たれる雷槍!

数瞬前に勘づいたミユは、自身が持てる最速最強の防御技を展開!

「『城壁(キャッスルウォール)』!!」

通常の戦闘中に使う『壁(ウォール)』とは違い、その3倍以上の体積を誇るこの技の硬度はミユの手持ちの中でも最高ランクに位置する防御技と言える。

前回、ほとんど防げなかったバージェスの技でも、これなら一撃では壊せない……のだが

バチバチバチバチバチバチ!!

帯電した槍が壁に触れた瞬間、触れた箇所が融解していく!

(…ッ!!…あの電気!私の血の成分を分解してる!…ダメだ!この雷、私と相性が悪い!!)

みるみるうちに溶けていく血の壁。
槍の速度は若干落ちてはいるが、あと数秒もすれば貫通して、ミユは串刺しになる!

「『盾(シールド)』!!」

ミユの右手に血で出来た盾が出現!
しかし、この盾は近接戦闘用の盾。

ガーーーーーーン!!

城壁を貫通した槍がミユの盾と激突!
剣や銃弾なら難なく防ぐ盾も、これほどの威力の槍、いや、もはやミサイルに等しい威力では意味を成さない。

(……ッ!!!!ダメ!!……貫かれる!!)

串刺しになる覚悟を決めた時だった!

「うぉおおおおお!!」

ガキィイイイイン!!

槍の横から現れた傑が、両手で握った剣で槍を思いっきり叩きつける!
その剣が………

(!?槍の魔力が!?)

吸っている。あれほど荒ぶれていた雷も今や消えている。

「うぉおおおおお!!」

ガーーーーーーン!!

もう一度気合いを入れた傑の剣が槍を吹き飛ばした。 

「大丈夫ですか!?ミユさん!」

傑は相手から眼を離さずに問いかける。

「ええ、ありがとう、傑」

とにかく援軍が来た。これで状況も好転するかもしれない。だが

「傑、大樹さんと仁さんは?」

「大樹さんは、カナさんの援護。仁さんは……相手の罠にかかって結界に閉じ込められてます」

「!?……結界に!?」

「詳しくは後で!今はあいつに集中しましょう」

傑は相手の力量を眼で測る。

(鍛えぬかれたオーラ……色は赤。バージェスほとではないが相当の使い手!)

「ああ?援軍が来たのか?ちっ…面倒だぜ」

槍を瞬時に手元に戻しながらゲオルが言う。
援軍に来たのは男。見た感じ、剣での戦闘。近接戦が持ち味のようだ

(近接戦の男と、中距離戦の嬢ちゃんか……少し厄介だな……)

どちらから倒すか?と思案しているゲオルの眼が傑の持つ剣を捉える。

「…!?あん?……テメー、その剣……どこで手に入れた!?」

急にゲオルが動揺する。
その事に傑は驚いていた。

(この剣は……)


それは出発30分前に遡る。

「傑、お前は葵との訓練でだいぶ動けるようになったし、刃物の扱いも慣れてきたから、この剣渡しとくね」

と、急にジュンから渡されていたのだ。

「この剣は?」

「うーん、名はね「北斗七星」。名刀だよ……いや、魔剣かな」

「魔剣…ですか?」

「そ。こいつは間違いなく名刀だが、ただひとつ、相手の魔力を吸い取るっていう悪癖があってね。言うこと聞かないのよ」

「そんな人間みたいな……」

「いやいや、君が知らないだけさ。剣にはね、意志が宿るんだよ?それぞれ個性があって、使い手はそれを上手く使いこなせるかがポイントなんだが…場合によっちゃ持ち主が『剣に乗っ取られる』からね」

「乗っ取られる…ですか?」

「うん、剣がこいつは相応しくないと思ったら人格から乗っ取っちゃうわけ。よく殺人鬼とか通り魔とか聞くでしょ?あれはその典型。本人の意思とは関係なく凶器の方が持ち主を操ってるのさ」

さらりと述べるジュンだが、つまり?

「うん、傑が持ち主に相応しくないと判断されたらヤバいね。しかも名刀になるほどそれはより顕著に出る」

だから気をつけてね?と半ば強引に渡されたものだ。
でも……



(すごい、本当に相手の魔力を吸ってた!これがこの剣の力……)

その剣を見るゲオルの顔が険しいものになる。

「その剣はな。こっちの世界じゃもはや伝説になってる魔剣なんだよ。それがあるってことは………テメーらのボスに『零の剣聖』がいるな?」

(零の剣聖…?)

ジュンのことだろうか?しかし、傑はジュンの二つ名は知らない。

「ますますお前らはここで仕留める必要が出てきたな。その魔剣も回収させてもらうぜ」

ゲオルが構えを取る。
その殺気は先程の攻防よりも確実に上がっている。

「傑……!」

ミユは心配になり、声をかける。

「ミユさん、『血脈励起』の準備を。その間こいつの相手は俺がします」

傑は、間を置かず答える。

(頼もしくなっちゃって……)

ミユは感心しながら血脈励起の準備に入る。

しかし、

フッとゲオルがミユの背後に立つ。

「させねーよ!」

ブン!!と槍が振るわれるが

ガキィイイイイン!!

と傑が北斗七星で受ける!

「あんたの相手は俺だ!」

「……上等だ!!受けてみろや!!」

繰り出される刺突の連撃!
まさに瞬時。通常の人間なら何が起こったかわからず穴だらけになっているだろう。


しかし、相手は傑。傑はその特殊な眼を使い、
ある攻撃は避け
ある攻撃は北斗七星で受けて
完全に躱していく!

(反応が速い……いや、眼がいいのか?)

ゲオルも傑がただの剣士ではないことに瞬時に気づく。


「なるほど……なかなか楽しめそうだな!!」

「楽しむつもりはないけど、あんたにはここで倒れてもらう!」


援軍が来てのゲオルとの勝負、はたして、傑はこの相手を攻略出来るのか?





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