『IF』異世界からの侵略者

平川班長

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2章 市街戦

9話 怪物

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本気を出す………か。

いつからだっけ…
私が戦いに飽きたのは…………

色々な経験をしてきた。それこそ、何百年もの間、戦いに明け暮れた日々だった。
そのことにどうこう言う気はない。

でも、本当にそれはつまらない日々で……


『俺と一緒に来ないか?』


いつものように戦った相手の1人がそんなことを言ってきた。
最初はコイツ何言ってるんだろうと思った。
三日三晩戦いあった相手に言う言葉ではない。

男は強かった。今までの相手とは違い、私が本気を出しても壊れなかったし
それこそ、久しぶりに生きている実感を感じさせてくれるくらいには、


『アナタは私を殺さないの?』


なぜ?という気持ちが私に言葉を発せさせた。
男は『うーん……』と考えたあと


『だってお前、つまんなそーじゃん』


つまらない?私が?


『俺もちょうど今の生活に飽き飽きしててな……お前見てたらその気持ちに改めて気付かされたよ。だから……俺と一緒に楽しいこと探しにいこーぜ』


私は伸ばされた手を結局掴んだ。
それからは本当に慌ただしい日々。
でも、その日々は、本当に楽しくて………





「正体不明(アンノウン)って言ったっけ?嬉しいよ、久々に本気を出せそうだわ」

次の瞬間

ズッ!
と広がった殺気に、結界を張るネロは、これが分身体で良かったとつくづく思った。
下手をしたら殺気だけで殺されてしまう……

(なんという「澄んだ殺気」!これは、うちの隊長よりも………)

怪物!!
まさにその言葉が似合う。
この女の元の経歴は調べた。その生い立ちからも彼女が別種の生き物と言っても過言ではないことはわかっていた。だがこれは想像以上に……

『災厄の魔女』
女はとある田舎の土地の、神域の巫女だった。
だが、その内容は決して神の代弁をするなんていう、まともなものではなかった。

田舎の神官たちは考えた。
この土地のあらゆる病気や災厄は、神からの試練。だがそれを村の皆に行われては困る。
それなら「神からの試練は一人の人間が犠牲となり、その全てを受け持ってもらえばいい」
そんな歪んだ考えを本気でやってしまった。

あらゆる呪い、病気、極めつけは敵対する村の魔術攻撃さえ、彼女は一身に受け続け、堪え、耐えて、その村の守り神となった。
村には平和が訪れた。他国からも攻められない。病気や災いも起こらない完璧な村。


しかしそんな平和は永遠と続かなかった
彼女がその自身に蓄え続けた災厄を何を思ったのか、守るべき村人に向けたのだ。 
村は壊滅。人から外れた彼女は近隣の村をも飲み込み、魔王のように君臨した。

当時のオリュンポスや、周りの大国にもこの話は広がり、ナンバーズや連合軍での討伐隊が幾度も組まれ派遣されたが……
誰も帰ってこなかった。

ついた二つ名が「災厄の魔女」
あらゆる災厄、あらゆる呪いを受けてきた彼女が自身を守る為に独自に編み出した『拒絶』の魔法。
これを誰も突破出来ずにいた。さらに戦えば戦うほど彼女の実戦感覚は養われ、元々の才能もあってか、ついには誰も手がつけられない怪物と化していた。


(私が知るのはここまで……このあとカミシロ=ジュンと知り合い彼女は野に下る……)


そしてその後の大国間の戦争において数々の武勲を挙げる。
特にオリュンポスとの最終決戦「大戦」では伝説的な戦いを何度も繰り広げ
新たについた二つ名が「無垢なる戦姫」
世を知らなかった彼女はその持てる力で戦場を駆ける戦の姫となった。



「アナタが私を殺すのが先か、私がアナタの正体不明を拒絶するのが先か……勝負しましょう」

私は自分の顔が笑っていることに気づく。
そう、死から遠ざかった私が、唯一生きている実感が湧く場所。
生半可な相手ではダメだ。
私を追い詰める実力がないと……
その点、この正体不明はもってこいの相手。
私が一方的に攻められるなんて、なかなかないし、
強さも想像以上!こんな「楽しい殺し合い」は久しぶりだ。


(…さて、無垢なる戦姫の実力はいかに……)

分身を通して、実力を計るネロは一瞬も見逃さまい!と心に決めていたのだが……

アンノウンの背中から葵の掌底が繰り出されたのに全く反応出来なかった!

(速い!!!)


しかし、やはり攻撃は当たらず、背中をすり抜けただけ。ただしその掌底から繰り出された技の威力だけで結界がビリビリと振動する。

「□□□□□ーー!!」

アンノウンも、この速度には驚いたのか、一旦距離を取り、触手で攻撃……しようとしたときには葵の姿はない


『アンノウン殿!上ですぞ!!』

ネロの言葉に空を見上げるアンノウン。
そこには右手に巨大な魔力を練った葵!

『来たれ精霊…我、悪を滅す光なり……』

詠唱と共に、魔力が光輝く!

『Pilier de lumiere(光の柱)』

葵の手から放たれた魔力は天から地に恐るべき速度で降り注いだ!

ドォオオオオオオン!!!


「○□✕ーーーーー!!!!」

ここで初めてアンノウンが悲鳴のような声を発した。


「ふふ、そっか。君、光の攻撃に弱いんだね。ソフィーが倒したと聞いていたから、もしやとは思っていたけど……」


(そうか、先程から色々な属性の攻撃をしている思っていましたが、アンノウン殿に効く属性を探してのことだったのですね…)

しかし、驚くべきはその攻撃の種類。
通常魔術師は、自身の身体にあった属性の魔術しか使えない。多く使う者でも3種類程が限度なのだ。

だが、葵の場合。
今のところ、火、水、氷、光を使い、転移の魔術や、魔弾さえも使って見せる。
それも高レベル!ナンバーズも当たればタダでは済まない威力を誇っている! 


「だんだん、君の正体がわかってきたよ。早く私を殺さないと……」

死ぬよ?

「□□□□□□ーー!!」

アンノウンは雄叫びを上げ、身体を分裂した!
数十体に増えた身体で葵を囲む!

「星よ(アステル)」

葵は自身の魔弾に光の属性を付加して撃ち込むが……

先程とは違い当たりこそするものの分裂が進み、もはや外の景色が見えなくなるくらいに囲まれる。

「○□✕、○□✕ー!!」

勝ち誇ったかのような声に


「いいね!これはマズイかも!」

笑いで返す葵。

その瞬間

ドォオオオン!!

全てのアンノウンが大爆発を起こす。

「○□✕ーー!!」
20メートル離れた場所に再出現するアンノウンが  
勝鬨のような雄叫びを挙げる。


(先程とは違い全方位からの爆発!しかも至近距離!これは流石の無垢なる戦姫でも……)

ネロも仕留めたと思った……
だが…………

『なっ………!?』
「〇〇〇…!?」

煙が晴れると、平然と立っている葵の姿。

しかし、無傷ではない。
身体には無数の傷がある。あるのだが……

(あれだけ手傷を負えば毒でまともに動けないはずですぞ?一体…………!!)

よく見ると葵の傷が塞がっていく。
そしてグルグルと腕を回す葵。

「うん、上手く解毒……いや、解呪出来たかな」

(もう、解毒したのですか!?……ということは)


「あーあ、残念。私の解析のほうが早かったみたい。君の負けだよ」


「□□□□ーーー!!!」

アンノウンがさらに触手を伸ばすが…

「○□□ー!?」

(当たっていない。アンノウン殿の正体を見破ったというのですか!?)


「最後に言っとくね。君の正体は「悪意」だ。人や物、あらゆる万物の悪意が集まった集合体、それが君だ。攻撃が当たらないわけだよ、ただの思念の塊だからね。ただし、君の攻撃も当たるはずがない、実体がないのだから……」

葵は、どこか寂しそうな顔をしながら

「でも、実際に私の腕は毒のような効果で麻痺してたし、攻撃で出血もしていた……それは、君のあまりにも強い悪意の念で、私の身体が勝手に傷ついていたんだね……毒のような効果も勝手に体調が悪くなってただけ……」

真っ直ぐにアンノウン……いや、悪意を見つめる。

「わかってしまえば何てことはない。哀しいけど……次で終わらせるね…………君でもなかった……」


「□□□□□ーーーー!!」


アンノウンが結界全体を揺らすほどの雄叫びを挙げて突進する。 
葵に攻撃が当たらない今、全身でもう一度包み込み、葵の魔力切れを待つ戦法だ。

しかし、

「『主よ。悪しき魂に慈悲の光を』!」

威力向上のために詠唱を紡ぐ葵。
その身体が青白い光に覆われ……

「『万物に救いあれ……Lumiere de dieu(神の光)』!!」


その光が放射されて

「✕✕✕✕✕✕✕ーーーー!!!!!!」

言葉にならない断末魔を挙げながら、アンノウン……いや、悪意は消え去った……


「やっぱり私を殺せるのは、ジュンしかいないか…………」

そう呟いた葵は、ネロに向き直る。

「君は私と殺らないの?君ならいい勝負になりそうだけど……」

『これはこれは、かの無垢なる戦姫から、そのような評価……とても喜ばしいことですが…やめておきましょう、アナタには分身体では勝てそうもありませんし……』

お暇します。と言うネロが結界を解除しようとした時だった。

ズッ!!と葵の手刀がネロの胸を貫通した。

『がっ!!………なに、を』

「君さ、何か「よからぬ事を」しようとしてるでしょ?………まあ、ただの直感だけど。私、こういう感覚で外したことないんだよね」


『ふふ、ふ………流石は無垢なる戦姫、ですか…』

そう言うとネロの分身体は砂のように崩れ去った。


「結界が解けた。傑達を助けに……」

歩こうとしたとき、ガクっと膝が折れ座り込む。


「血……流しすぎたか……」

そうして葵は

「スー、スー」

寝た。とりあえず仮眠を取ることにした。


葵VS正体不明

勝者 葵











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