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序章 異界交流年の日常
1話 10年に一度のお祭り『異界交流年』開催中!1
「御協力ありがとうございました」
「こちらこそ、いい情報をもらったよ。さっそく今から行ってみるね」
「ふふっ、是非楽しんできて下さい。あ、そこの近くにある売店のクレープが絶品なので、宜しければ召し上がってみてください。私のイチオシですから」
「そうなの?うわぁ、それも楽しみだなぁ」
笑顔で別れの挨拶をし、相手の白い翼が見えなくなるまで手を振る。
今日はこのあと二件のアポイントを取ってあり、そのうちの一件は昼食を取りながらと言われている。私のおすすめのレストランで肉料理希望との事なので、相手の好みそうな熟成肉ステーキが有名な店を予約してある。
…昼間からステーキ。なんて贅沢。なんてヘビーなお昼ご飯。ここぞとばかりに経費を使ってやるんだから。
そんな邪なことを事を考えていたら、タイミングよく編集長から電話がかかってきた。
はぁ… 出なくてもいいかなぁ… いや、出なきゃ駄目だよねぇ… はぁ…
あまり長く呼び出しのままにしていると、それはそれで後が面倒なことになるので、意を決して電話に出る。
「はい、お待たせ致し――」
「おいシエナ!いつまで待たせんだ!電話が鳴ったら3コールまでに出ろってあれほど言っただろうが!そんなことも覚えらんねぇのか!」
あぁうるさい。耳が痛くなるほどの大声を出さなくても聞こえてるってば。3コールで出るなんて無理無理。
「申し訳ありません。今し方取材が終わったところでしたので。なにか御用でしょうか」
正確には相手と別れてから15分ほど経ってるが、まぁ許容範囲だろう。さて、今日はどんな無理難題を言ってくるのやら。
「お、取材は順調のようだな!よしよし、その調子で良い記事書けよ!
それでだな、お前再来週木曜の午後空いてるだろ?空いてなくても無理やり開けろよ?最優先事項だ!天界外務省の担当者とアポとれたから、例の件打合せしてこい。これは大チャンスだぞ!いいな!担当者の名刺あとで編集部に取りに来い!」
「え?あの編集長、待っ――」
こちらの返事も聞かずに無情にも電話は切られた。まぁいつもの事だけど、やっぱりちょっとイラっとする。
こっちの話少しは聞いてよ!私にも都合があるんだから!
うだうだ言ってても埒が明かないので、今日最後の取材が終わった後、編集部へ顔を出しに行くことにした。そのころには編集長は既に帰っているから会うこともない。
はぁ…と一つため息をついて気持ちを切り替え、次の取材相手への質問事項を確認する。とはいっても、ほとんど先ほどの相手への質問と変わらないので、軽く見返す程度だ。
―――『異界交流年』
年が明けてすぐに全世界同時に開催宣言されたそれは、十年に一度開催され、天使が住む天界、悪魔が住む魔界、人間が住む地上界を、それぞれ自由に行き来できる特別な年。
普段は不可侵条約で定められているため、どんなに地位の高い人でも、どんなに大富豪がお金を積んでも異界への行き来は禁止されているのだが、この年だけは決められた手順を踏みお金を払えば、誰でも異界へ行くことが出来る。
そのため、旅行会社では毎回多くの異界観光ツアーが組まれ、予約が取れないほどに大盛況となっている。
もちろん、天使や悪魔が異界からここ地上界へやってくることも多い。
特に悪魔は、私たち人間と姿形が異なるらしいのだが、地上界へ来るときは必ず人間に擬態することが義務付けられており、一見すると悪魔だと全くわからない。
昔読んだ文献や記事によると、黒い蝙蝠のような翼をもつ者や、大きな角が生えている者、恐ろしい怪物のような外見をしている者、人間を丸飲みにできそうな牙の生えた大きな口をもつ者、小鳥のように小さな人の姿をした者など、様々な容姿の悪魔が存在するらしい。
写真も残っているが、あまりに恐ろしい姿のため一般公開はされておらず、政府の管理下にあり、閲覧できるのは限られた者のみだ。そのため、私も一度も見たことはないのだが、絵やイラストなどは出回っており、その全てがおどろおどろしい見た目で描かれている。
一方天使は、その特徴である白い翼を種族の誇りと思っている者が多いらしく、翼以外は人間と同じ見た目のため、そのままで過ごしていることが多く、すぐに見分けがつく。また、自分の意志で翼の出し入れが出来るようで、混雑している店や電車内では、翼をしまっている天使が多い。
写真は一般公開されていて、探せばいくらでも出てくる。
絵も多く出回っているが、それには頭上に輪っかのようなものが描かれているものが多い。
実際にはそんなものは浮かんでおらず、おそらく過去に描いた人間により付け足されたキャラクター化された絵なのだろうと、天使界隈では捉えられていて、特に訂正も気にする様子もない。それよりも白い翼がいかに美しく描かれているかの方が重要なのだそうだ。
そんなわけで、今年に入って開催宣言されてから、地上界へやってくる天使と悪魔の皆さんへ取材しまくったり、異界人が来店した店や施設などを回り、どのような反応だったか、またその影響などを色んな方面から取材し、まとめて、面白おかしく記事に書き連ねるという作業を、ほぼ休みなくこなしている。
先ほど取材していたのも、観光に来ていた所をたまたま声をかけた天使の方で、今から熟成肉ステーキの昼食をご一緒するのは悪魔の方だ。
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