10年に一度の異界交流で、天使と悪魔に迫られています

七居

文字の大きさ
6 / 92
第1章 悪魔との出会い

6話 とある悪魔との出会い2


 異界に到着したらまずはそこの通貨へ両替するのは基本中の基本だ。
 それを知らないということは、異界観光のルールも知らないということだ。
 出発前や到着時に希望者には細かな説明がされるのだが、恐らく断ったのだろう。

 異界交流年の5回に1回は渡航時に説明を受けなければいけない決まりになっているのだが、天使と悪魔は人間の10倍の寿命を生きるため、面倒くさがって聞かない人も多くいる。多分この人もその類なのだろう。
 しかも、地上界は約150年前に通貨の変更があり、以前の通貨は使用できなくなった。
 天使と悪魔から見たら150年など人間でいうと1年半くらいの感覚なので、告知はしていても、以前は使えた通貨が今回は使えないというクレームが交流年の度にあちこちで起こっているのだ。
 人間からしたら、もう150年も経っているのに、未だに前の通貨が使えないことを知らない異界人がいることの方が異常と感じる。
 でも彼は、そもそも魔界の通貨が地上界で使えないということすら知らない節がある。

「両替しないと地上界では使えません。あの、つかぬことをお聞きしますが、地上界へ来られるのは初めてですか?」
「そうなのか…。昔子供のころに家族で来たことはあるな。240年前くらいか?その時は両親にただついて行ってただけだから、両替のことは知らなかったんだ」

 しゅん…と項垂れている犬耳ケモ耳が見える…気がする。

「そうだったんですね。それから一度も来られなかったんですか?」
「あぁ。特に興味もなかったしな」
「ではなぜ今回来ようと思われたのですか?何かきっかけでも?」

  あ、しまった。ついいつもの癖で色々聞いてしまった。怒るかな…

「兄に言われたんだ。俺はあまりにも何にも関心を持たないから、面白いものがたくさんある地上界へでも行って、見聞を広げてこいと。特にすることもなかったし、たまにはそれもいいかと思って早速今日来たところだ」

  
 よかった。個人的な事を聞いてしまったのに、そんなに気にしてない様だ。
 それに、あまり表情は変わらないのに、何だかしょげてるのは伝わってきて、ちょっと可愛いと思ってしまった。

 それよりも今の話から察するに、お兄さんに言われたから目的も当てもなくこっちに来たってこと?
 しかも今日言われて今日来たってこと?
 何それ、そんなので観光ちゃんと楽しめるの?

 …だめだこの人。ほっといたら無知故にとんでもないこと仕出かして強制送還とかされそうな予感がプンプンしてる。

 それどころか、そんなんじゃ折角の地上界も全く楽しめないじゃない。
 記者としての性なのか、元来の性格からなのか、私が手助けできることが目の前にあると避けて通れない性分がムクムクと出てきてしまっている。
 でも仕事はまだまだ忙しいし、一人の人に付きっきりで案内なんてしてる時間ないし。

「…どうかしたか?俺は何か変なことを言ったか?」

 眉を下げ少しキツめの目元が若干緩み、心許なくこちらを伺っているように下がった気がする。本当に極僅かな変化だが、それが何だかすごく可愛く見えて、母性を擽られる感覚がする。
 こんなイケメンに見つめられて、頼られてるような伺うような目を向けられて、ほっておけるわけがない。
 ……しょうがない。今日だけだ。今日だけ付き合って、あとは有名所を網羅しているガイドブックでも渡そう。
 そうすれば、少しは観光を楽しめるだろう。

「…いいえ。あの、もしご迷惑でなければ、両替所まで案内しましょうか?それから、おすすめの観光ガイドブックがあるので、そちらを差し上げますので、明日からの計画のお役に立ててください」
「――!!…いいのか?仕事の最中なのだろう?」
「今日はこの後同僚と打ち合わせがあるだけですから。電話でも済みますし、そんなに時間はかかりません。それよりも、私はあなたの方が心配です」
「そ、そうか。いや、ありがとう。助かるよ。ではお言葉に甘えさせてもらってもいいか?」
「はい。ではまずは両替所へ行きましょうか」

 ……なんだか目元が若干赤いような気がするけど、気のせいかな?



 両替所へ向かう道中、お互い簡単な自己紹介をしたのだが、彼はリトと名乗った。
 悪魔にしては可愛らしい名前だなと思ったのだが、これまでも偽名を使っている異界人はたくさんいたので、もしかしたら彼も事情があるのかもしれないと思い直し、詳しくは聞かなかった。

 普段は家の仕事を手伝っているようで、魔界ではそこそこ有名な大きな商店の次男で283歳、人間換算で28歳らしい。20年ほど前に父親が引退して兄が後を継ぎ、特にすることもなかったため忙しい兄の補佐のようなことをしていると説明してくれた。
 今日地上界へ来たのも、表向きは見聞を広げるためらしいが、実際は何か一つでいいから興味のあることを見つけてこいと追い出されたのだとか。

 …お兄さん意外とスパルタなんだな。
 弟の事を心配して仕事を与えているのかと思いきや、急に手のひら反して放り出すとは。
 そんなことを思っていたら、 

「でも、今日ここへ来てよかったともうすでに感じているんだ。君に会えたから」

 とか、ほんのちょっと微笑んで言ってくるんだから質が悪い。

 イケメンがイケメン言葉を私に向かって言うなんて、もうね、心臓止まるかと思ったよ!
 そりゃあ照れまくって赤面もするよ!

 社交辞令で可愛いね~とか綺麗だね~だとか言われても、常に瓶底眼鏡を掛けて女にしては長身で地味でモブ顔の私にはありえない言葉だと分かっているので何とも思わないし、こちらも社交辞令で返すくらいのスキルは社会人として当然持っている。

 でも、これは、この人は、本気で心からそう思って言ってるのがちゃんと伝わってくるから、なんて返したらいいか分からなくなるのだ。
 とりあえず、「ありがとうございます?」と、何故か疑問形で返事をしてから話題を無理やり変えたのだが、自分でもかなり不自然だったと思う。
 取材が常の記者として、有るまじき返答だった。

 でも!イケメンに真正面からあんなこと言われたら!誰だって挙動不審になるよね!?

 学園を卒業するときに当時付き合っていた彼氏と別れてから、そういう出会いや良い雰囲気になることなんて微塵もなく仕事に明け暮れている私には、イケメンの微笑みは刺激が強すぎるのだ。
 そもそも、取材対象でイケメンに出会うことがあっても、目の保養とか観賞用とかしか思わない。
 なのに何故か、噂に聞く魅了魔法でも掛けられているのかと思うほどに、彼にはさっきからずっとドキドキしっぱなしだ。
 地上界には魔素が存在しないので魅了魔法は発動しないし、「困ってるところを親切にも助けてくれたいい人に会えて良かった」という意味だと頭では理解している。
 理解していても、頭と心はやはり別物で、彼がこちらを伺う素振りを見せ目が合う度に、ドギマギしてしまうのだ。
感想 0

あなたにおすすめの小説

女の子がほとんど産まれない国に転生しました。

さくらもち
恋愛
何番煎じかのお話です。 100人に3~5人しか産まれない女の子は大切にされ一妻多夫制の国に産まれたのは前世の記憶、日本で亭主関白の旦那に嫁いびりと男尊女卑な家に嫁いで挙句栄養失調と過労死と言う令和になってもまだ昭和な家庭!でありえない最後を迎えてしまった清水 理央、享年44歳 そんな彼女を不憫に思った女神が自身の世界の女性至上主義な国に転生させたお話。 当面は2日に1話更新予定!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

橘若頭と怖がり姫

真木
恋愛
八歳の希乃は、母を救うために極道・橘家の門を叩き、「大人になったら自分のすべてを差し出す」と約束する。 その言葉を受け取った橘家の若頭・司は、希乃を保護し、慈しみ、外界から遠ざけて育ててきた。 高校生になった希乃は、虚弱体質で寝込んでばかり。思いつめて、今まで養ってもらったお金を返そうと夜の街に向かうが、そこに司が現れて……。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

世間知らずな山ごもり薬師は、××な騎士団長の性癖淫愛から逃げ出せない

二位関りをん
恋愛
平民薬師・クララは国境沿いの深い山奥で暮らしながら、魔法薬の研究に没頭している。招集が下れば山を下りて麓にある病院や娼館で診察補助をしたりしているが、世間知らずなのに変わりはない。 ある日、山の中で倒れている男性を発見。彼はなんと騎士団長・レイルドで女嫌いの噂を持つ人物だった。 当然女嫌いの噂なんて知らないクララは良心に従い彼を助け、治療を施す。 だが、レイルドには隠している秘密……性癖があった。 ――君の××××、触らせてもらえないだろうか?

巨乳令嬢は男装して騎士団に入隊するけど、何故か騎士団長に目をつけられた

狭山雪菜
恋愛
ラクマ王国は昔から貴族以上の18歳から20歳までの子息に騎士団に短期入団する事を義務付けている いつしか時の流れが次第に短期入団を終わらせれば、成人とみなされる事に変わっていった そんなことで、我がサハラ男爵家も例外ではなく長男のマルキ・サハラも騎士団に入団する日が近づきみんな浮き立っていた しかし、入団前日になり置き手紙ひとつ残し姿を消した長男に男爵家当主は苦悩の末、苦肉の策を家族に伝え他言無用で使用人にも箝口令を敷いた 当日入団したのは、男装した年子の妹、ハルキ・サハラだった この作品は「小説家になろう」にも掲載しております。

【完結】転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して二年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。