10年に一度の異界交流で、天使と悪魔に迫られています

七居

文字の大きさ
10 / 92
第1章 悪魔との出会い

10話 母の記憶2


 そんな母も、私が18歳で学園を卒業する頃には、すっかり元の元気で明るい母に戻っていて、私も安心していた。
 しかし、就職先が雑誌編集部とわかると、今すぐ辞めるように言ってきた。
 態度が激変したあの頃ほどではなかったが、異界と接触する可能性のある場所では働いてほしくないと、必死に私を説得してきたのだ。
 その時にすら、理由は何度聞いても教えてくれず、私もやっと決まった就職を今更辞退するなんて出来ないと、意思を曲げなかった。
 
 連日の話し合いの末、結局母が折れて、私は今の編集部に就職したのだが、異界人に人気の雑誌であることは隠していた。
 説得の際も、月刊アースの編集部であることは隠し、異界と接触のない別の文芸雑誌の編集部だと嘘をついた。だからこそ、雑誌業界への就職を許してくれたのだ。
 それでも、交流年開催が近づくにつれて少しずつ忙しくなり、隠し通すのが難しくなってきていた時に、母の病気が発覚した。

 その後は前述の通り、母を無理矢理説得して治療を受けさせたのだが、結局、交流年の始まる半年前に亡くなった。
 死ぬ間際の母は、とても穏やかな顔をしていた。

「やっと真実を知ることが出来る。シエナ、いいえ――、あなたは強い子だから、きっと自分で見つけるでしょうね。でも、これだけは覚えておいて。真実がどんなに残酷だったとしても、それを乗り越えて、幸せになるのよ。自分自身で掴むの。それができる子だもの。私たちの太陽の子おひさまなのだから……」

 そう言って、私の頬を優しく撫でながら、眠るように息を引き取った。
 
 正直、母の最期の言葉の意味は今でも分からない。
 11年前のあの時から必死に調べていた事に関係することなのだろう事は察せれるのだが、全く見当がつかない。
 父の部屋や書斎によく籠っていたから、父に関することなのだろうかとも思い、遺品を調べてみたが、特にのだ。




 そして今現在、母との約束を破り、異界人とがっつり関りを持っている。
 母の気持ちをないがしろにするつもりはないし、約束を違えている事に後ろめたさも感じているが、取材を通して知れば知るほど異界へ興味が湧き、許されるならば今すぐにでも行きたいと思っている。
 それでも思い留まっているのは、編集長の許可云々ではなく、必死に止めていた母の記憶があるからだ。
 なぜあんなに必死に私が異界や異界人に興味を持つことを拒んだのか。
 なぜ憎むようになったのか。
 どうしてそれを、死ぬ間際でさえも私に何も教えてくれなかったのか。

 疑問は尽きないが、今となっては確かめようもない。
 知人に話したりしていなかったか、母の知り合いに片っ端から聞いてみたが、誰も知らなかった。
 ただ、母の学園時代からの親友が、葬儀の後に、「推測の域を出ないけど」と話してくれたことがある。

「異界人、特に悪魔は、人間を面白がって遊ぶ事があるの。肉体的にも精神的にも、まるで玩具みたいに。それが許せなかったんじゃないかしら」

 確かに、天使も悪魔も、人間の事を面白い種族だと言う人が多い。
 ――肉体も精神も脆弱で魔法も使えない最下層種族なのに、技術力と発想力はズバ抜けて高く、芸術性も高い。魔素のない地上界という箱庭で、たった10年で様々な物を進化させ、自分たちを楽しませてくれる。

 人間をそう評価する異界人を、この数か月の取材で多く見てきた。 
 種族としては下に見ている言い方だが、その言葉の中に尊敬の念も確かに含まれている。
 しかし、正義感の強い母はそれが許せなかったのかもしれない。母の親友はそう考えていた。
 それも理由の一つかもしれない。
 けれど、それだけではない気がするのだ。
 父の書斎によく籠っていたのは、父との想い出に浸るためだけではなかったはずだ。父の死に何か思うところがあって、それに異界が関係しているのだろうか。しかし、以前調べた時は、何もなかったのだ。

 ……もしかして隠蔽された何かがある?

 異界に行けば何か分かるかもしれない。母の苦しみを理解できるかもしれない。
 異界人に話を聞いているだけでは、想像を膨らませるのには限界がある。


 母の事を知るためにも、父の事を知るためにも、やっぱり異界へ一度は行きたい。もちろん、私自身の興味を満たすためにも。
 しかし、あの編集長が今の時期に長期休暇を許可してくれるはずがない。
 いくら考えても、結局同じところに戻ってきて、現状を打開できる妙案は浮かばないのだ。

 ……はぁ、と何度目になるかも分からない溜息を吐いて、仕方なく今日も仕事に勤しむのだった。

感想 0

あなたにおすすめの小説

女の子がほとんど産まれない国に転生しました。

さくらもち
恋愛
何番煎じかのお話です。 100人に3~5人しか産まれない女の子は大切にされ一妻多夫制の国に産まれたのは前世の記憶、日本で亭主関白の旦那に嫁いびりと男尊女卑な家に嫁いで挙句栄養失調と過労死と言う令和になってもまだ昭和な家庭!でありえない最後を迎えてしまった清水 理央、享年44歳 そんな彼女を不憫に思った女神が自身の世界の女性至上主義な国に転生させたお話。 当面は2日に1話更新予定!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

橘若頭と怖がり姫

真木
恋愛
八歳の希乃は、母を救うために極道・橘家の門を叩き、「大人になったら自分のすべてを差し出す」と約束する。 その言葉を受け取った橘家の若頭・司は、希乃を保護し、慈しみ、外界から遠ざけて育ててきた。 高校生になった希乃は、虚弱体質で寝込んでばかり。思いつめて、今まで養ってもらったお金を返そうと夜の街に向かうが、そこに司が現れて……。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

【完結】転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して二年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。

巨乳令嬢は男装して騎士団に入隊するけど、何故か騎士団長に目をつけられた

狭山雪菜
恋愛
ラクマ王国は昔から貴族以上の18歳から20歳までの子息に騎士団に短期入団する事を義務付けている いつしか時の流れが次第に短期入団を終わらせれば、成人とみなされる事に変わっていった そんなことで、我がサハラ男爵家も例外ではなく長男のマルキ・サハラも騎士団に入団する日が近づきみんな浮き立っていた しかし、入団前日になり置き手紙ひとつ残し姿を消した長男に男爵家当主は苦悩の末、苦肉の策を家族に伝え他言無用で使用人にも箝口令を敷いた 当日入団したのは、男装した年子の妹、ハルキ・サハラだった この作品は「小説家になろう」にも掲載しております。

世間知らずな山ごもり薬師は、××な騎士団長の性癖淫愛から逃げ出せない

二位関りをん
恋愛
平民薬師・クララは国境沿いの深い山奥で暮らしながら、魔法薬の研究に没頭している。招集が下れば山を下りて麓にある病院や娼館で診察補助をしたりしているが、世間知らずなのに変わりはない。 ある日、山の中で倒れている男性を発見。彼はなんと騎士団長・レイルドで女嫌いの噂を持つ人物だった。 当然女嫌いの噂なんて知らないクララは良心に従い彼を助け、治療を施す。 だが、レイルドには隠している秘密……性癖があった。 ――君の××××、触らせてもらえないだろうか?