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第1章 悪魔との出会い
10話 母の記憶2
そんな母も、私が18歳で学園を卒業する頃には、すっかり元の元気で明るい母に戻っていて、私も安心していた。
しかし、就職先が雑誌編集部とわかると、今すぐ辞めるように言ってきた。
態度が激変したあの頃ほどではなかったが、異界と接触する可能性のある場所では働いてほしくないと、必死に私を説得してきたのだ。
その時にすら、理由は何度聞いても教えてくれず、私もやっと決まった就職を今更辞退するなんて出来ないと、意思を曲げなかった。
連日の話し合いの末、結局母が折れて、私は今の編集部に就職したのだが、異界人に人気の雑誌であることは隠していた。
説得の際も、月刊アースの編集部であることは隠し、異界と接触のない別の文芸雑誌の編集部だと嘘をついた。だからこそ、雑誌業界への就職を許してくれたのだ。
それでも、交流年開催が近づくにつれて少しずつ忙しくなり、隠し通すのが難しくなってきていた時に、母の病気が発覚した。
その後は前述の通り、母を無理矢理説得して治療を受けさせたのだが、結局、交流年の始まる半年前に亡くなった。
死ぬ間際の母は、とても穏やかな顔をしていた。
「やっと真実を知ることが出来る。シエナ、いいえ――、あなたは強い子だから、きっと自分で見つけるでしょうね。でも、これだけは覚えておいて。真実がどんなに残酷だったとしても、それを乗り越えて、幸せになるのよ。自分自身で掴むの。それができる子だもの。私たちの太陽の子なのだから……」
そう言って、私の頬を優しく撫でながら、眠るように息を引き取った。
正直、母の最期の言葉の意味は今でも分からない。
11年前のあの時から必死に調べていた事に関係することなのだろう事は察せれるのだが、全く見当がつかない。
父の部屋や書斎によく籠っていたから、父に関することなのだろうかとも思い、遺品を調べてみたが、特に気になることはなかったのだ。
そして今現在、母との約束を破り、異界人とがっつり関りを持っている。
母の気持ちを蔑ろにするつもりはないし、約束を違えている事に後ろめたさも感じているが、取材を通して知れば知るほど異界へ興味が湧き、許されるならば今すぐにでも行きたいと思っている。
それでも思い留まっているのは、編集長の許可云々ではなく、必死に止めていた母の記憶があるからだ。
なぜあんなに必死に私が異界や異界人に興味を持つことを拒んだのか。
なぜ憎むようになったのか。
どうしてそれを、死ぬ間際でさえも私に何も教えてくれなかったのか。
疑問は尽きないが、今となっては確かめようもない。
知人に話したりしていなかったか、母の知り合いに片っ端から聞いてみたが、誰も知らなかった。
ただ、母の学園時代からの親友が、葬儀の後に、「推測の域を出ないけど」と話してくれたことがある。
「異界人、特に悪魔は、人間を面白がって遊ぶ事があるの。肉体的にも精神的にも、まるで玩具みたいに。それが許せなかったんじゃないかしら」
確かに、天使も悪魔も、人間の事を面白い種族だと言う人が多い。
――肉体も精神も脆弱で魔法も使えない最下層種族なのに、技術力と発想力はズバ抜けて高く、芸術性も高い。魔素のない地上界という箱庭で、たった10年で様々な物を進化させ、自分たちを楽しませてくれる。
人間をそう評価する異界人を、この数か月の取材で多く見てきた。
種族としては下に見ている言い方だが、その言葉の中に尊敬の念も確かに含まれている。
しかし、正義感の強い母はそれが許せなかったのかもしれない。母の親友はそう考えていた。
それも理由の一つかもしれない。
けれど、それだけではない気がするのだ。
父の書斎によく籠っていたのは、父との想い出に浸るためだけではなかったはずだ。父の死に何か思うところがあって、それに異界が関係しているのだろうか。しかし、以前調べた時は、何もなかったのだ。
……もしかして隠蔽された何かがある?
異界に行けば何か分かるかもしれない。母の苦しみを理解できるかもしれない。
異界人に話を聞いているだけでは、想像を膨らませるのには限界がある。
母の事を知るためにも、父の事を知るためにも、やっぱり異界へ一度は行きたい。もちろん、私自身の興味を満たすためにも。
しかし、あの編集長が今の時期に長期休暇を許可してくれるはずがない。
いくら考えても、結局同じところに戻ってきて、現状を打開できる妙案は浮かばないのだ。
……はぁ、と何度目になるかも分からない溜息を吐いて、仕方なく今日も仕事に勤しむのだった。
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