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第1章 悪魔との出会い
12話 再会2
彼の希望で近くの焼き鳥で有名な大衆居酒屋へ入り、とりあえず生ビールで乾杯をする。
あぁ~美味しい~。一日働いた体に染みるぅ~。
テーブルには、すぐに出てくる一品料理、枝豆・冷ややっこ・たこわさ・冷やしトマト・おつまみ塩キャベツが並んでいる。
メインの焼き鳥は、彼が何が好きか分からなかったので、盛り合わせをタレと塩の両方で頼んである。
「これが生ビールか。確かに缶や瓶で売られているものとは少し違うように感じるな。あれはあれで美味しかったが、こちらの方がより新鮮なように感じる」
「ふふふっ、皆さんそう仰られますね。でも、実は全て中身は一緒なんですよ」
「!そうなのか?しかし、確かに違うように感じるんだが…」
「不思議ですよね。入れ物が違うだけで、味まで違って感じるなんて。実際の所はどうなのかわかりませんけど、よく言われているのは、運搬時に瓶や缶は――」
よかった。普通に話せてる。
テーブルを挟んで少し距離が取れたのと、お酒の力もあって、平常心を取り戻しつつあるみたいだ。
そんな感じで、焼き鳥が運ばれてくるまで、ビール談義が続いた。
その間に、名前を呼び捨てで呼んでほしい、敬語もやめてほしいとお願いされてしまった。
初めは一応取材対象でもあるし断ったのだが、彼がどうしてもと引かなかったので、結局、お互いに呼び捨てで呼び合い、タメ口で話すことになった。
焼き鳥が運ばれてきてからは、彼が食べた料理やお酒、レストランの感想を聞いた。
どれも美味しかったと言ってくれたのだが、なんだか腑に落ちないというか、気を使われているような言い方だ。
何かを隠しているような。
「好みじゃなかったなら、正直に言って?次に紹介するお店の参考にするし」
「いや…本当にどれも味は美味しかったんだ。ただ…シエナと一緒に食べたイタリアンほどの感動は無くて。一人の食事には慣れているはずなのに、なぜか…その…寂しいと思ってしまって……」
そう言って、口元を手で隠して、顔を逸らしてしまった。
え…なにそれ…それって…
昔から他人の感情に鈍感だと言われ続けてきた私だが、そんな私でもこれはわかる。
これは……
めっちゃ恥ずかしがっている!
いい大人が、しかも悪魔という絶対的な強者である種族が、一人で食事することが寂しくて恥ずかしがっているんだ!
なにそれ、なにそれ、めっちゃ可愛いんですけど!
よく見ると、目元が若干赤くなってるし、目線も彷徨ってて、こちらを全然見ない。
よく男性が、恥ずかしがっている女性が可愛いと言っているのを耳にするが、こういう事なのだろう。確かに可愛いし、何だったらそれをもっと見ていたいし、揶揄いたくなる。
「へぇ~、私と一緒に食べたのがそんなに嬉しかったんだ~」
「そう、だけど…、いや、違くてだな、その、あ~、何というか、誰かと一緒に食事をするのがこんなに楽しいことだとは知らなくて…」
「それって、私と一緒だったからより美味しかったってことでしょ?そっか~そっかぁ~。他の所も私と一緒だったらなぁ~とか想像しちゃった?」
わたわたと焦った様子で言い淀んでいるのを、ニヤニヤしながら見つめてそう聞くと、何か閃いた!みたいな顔をした。
いい言い訳でも思いついたかな?よし、お姉さんが聞いてあげようじゃないか。
「そうだな。シエナと一緒だったら、より楽しかっただろうな。だから、シエナのおすすめの場所に行くときは、シエナと一緒に行きたい。行ってくれるか?」
「へ?」
余裕かましてもうちょっと揶揄うつもりだったはずが、逆にしてやられた。つい間抜けな声が出てしまった。
気を取り直して、観光案内のガイドをしてほしいと言う事かと尋ねると、そうだと返ってきた。
しかし、仕事は詰まっていて、休みも暫くの間取れそうにないのが現状だ。特に来週から再来週にかけては、次の原稿を上げなければいけないため、今よりも更に忙しくなる。
そのことを伝えると、「取材に同行するから、その場所を案内してほしい」と言われてしまった。
「守秘義務がある場合もあるから、取材中は同席できないよ」
「ではその間、近くを散策している。終わってから簡単に案内してくれればいい」
しかし、アポなしで突然異界人に取材を申し込むことも多いため、一緒にいるとお互い何かと気を遣い、正直なところ仕事がやりにくそう、と苦言を呈すと、彼は少し考えてから凄いことを提案してきた。
「では、正式に記者として依頼をするのはどうだ?」
「依頼?」
「そうだ。シエナの作っている雑誌は、天使悪魔を対象に地上界を紹介しているんだろう?だったら、悪魔目線でみた地上界がどういう風に見えて感じるか、直接俺に聞けばいい。俺だけの意見じゃ偏りがあるのなら、一人当てがあるから、そいつを連れてくる」
そうすれば、私は割り当てられた担当箇所の取材をできるし、リトも気兼ねなく私に観光ガイドを頼めるため、お互い対等な立場で一緒に行動が出来る、という事らしい。
うん、悪くない気がする。
編集長が許可を出すかが問題だが、リトが一緒に行って説得してくれると約束してくれた。
そして翌日、編集長に午後の会議前に少し時間を取ってもらい、二人で昨夜作った即興の企画書を見せながら、リトが説明をしたところ、反応はかなり良さそうだ。
私ではなくリトが説明したのは、彼が主体の企画であることを印象づけるためなのだが、効果は抜群だったようだ。
異界人との仕事は、人間が貶められないように政府の介入や調査が必要で、許可が出るまでにかなり時間がかかり、更に定期的な報告義務と抜き打ち審査があるため、どんなにビジネスチャンスがあろうとも基本的には民間企業は手を出さない。
そのため、一旦上に報告し判断を仰ぐ必要があるため、すぐには返答できないと言われた。
編集長が会議があるからと足早に去って行き、リトと二人で会社を後にする。
「編集長の反応は悪くなかったから、企画自体は通りそうだけど、政府の許可が必要なんじゃ、実際に動き出すのはかなり後になりそうだね」
そう言って隣の彼を見ると、わずかに口角を上げて、不敵な笑みを零していた。
「心配ない。手は打ってあるからな」
「いつの間に…。で、どんな手?」
「内緒だ。でもまあ、その内わかる」
三日後、異様にテンションの高い編集長から連絡があり、企画が通ったから今すぐ取材を開始しろと指示され、あまりの許可の速さに驚きで声も出なかった。
なんでも、上層部の許可はすぐに下りたため、そのままの足で政府の担当部署へ申請を出しに行ったら、すでに魔界から必要な書類や調査結果一式が送られてきており、あとは地上界側の調査と許可証の発行を待つのみの状態だったそうだ。
魔界側がこれだけ早く事を進めることは珍しいらしく、只事ではないと焦った政府は、たったの三日で調査を終わらせて、異例の速さで許可証を発行したそうだ。
手を打ってあるって、このことだったのか。
魔界政府に伝手があるって、リトって一体何者なんだろう?
絶対、ただの商店の次男じゃない…
リトの隠しきれていない大物感にビビりながら、今後の予定を調整するべく、色んな所へ連絡をしまくる羽目になり、それだけでその日は一日が終わったのだった。
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