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第1章 悪魔との出会い
13話 新しい世界1 リトside
気分良く目覚めて、すぐに荷物をまとめて支度をし、近くのカフェで朝食をとる。
……そうか、今日会えるのか。
それだけで、気分が高揚し、不思議と昨日までとは世界が違って見える。
悪魔は本能的に勘が鋭い。そのため、こうして偶に予言じみた事が頭に浮かぶことがある。
大昔にあったとされる長年の天使との抗争で、天使が神からの天啓を受けるのに対抗して発達したとされている、第六感と呼ばれるものだ。
それが朝起きてすぐに働いたようだ。
テラス席でコーヒーを飲んでいると、足元にいつもの黒猫がやってきた。
「今日は早いね。何か良い事でもあったのかい?」
「……今日会えるらしい」
「あの記者の子かい?ふぅん」
そう言ってしっぽをゆらゆら揺らしながらテーブルに飛び乗り、目線で朝ご飯を催促する黒猫。
わざわざ残しておいたチキンサンドの一切れを目の前に置いてやる。すると、早速ガツガツと食べ始めた。何時もながら、朝から食欲旺盛なことだ。
店員にミルクを少し深めの平皿で頼み、それも置いてやる。
「それで、どこで会えるんだい?」
「ここから電車で5駅行った所だ。前に会った時と同じ状況を作ればいいらしい。……付いてくるのか?兄さん」
あっと言う間に食べ終わり、口回りをミルクで白くしながら、お代わりを要求するように右前足を皿に乗せている黒猫は、兄がいつも地上界で使役している個体だ。
悪魔は、異界の黒い生物の意識を乗っ取り、使役することが出来る。そのほとんどが、生息数が多くどこにでもいるカラスを使役するのだが、我が兄はいつも同じ個体の黒猫を使役している。
教会で飼われている猫らしく、寝床の出入りが自由でいつでも動かせて、使役魔法も素直に受け入れる、扱いやすい対象で気に入っているのだとか。
使役魔法は、対象個体の抵抗があると跳ね返されるため、兄のように同じ個体を使役し続けることは珍しい。普通は、一度目は使役できても、二度目は抵抗されることが多い。
なぜ魔素のない地上界で使役魔法が発動するのかというと、悪魔の眷属と言われている黒い生物には魔素耐性が高い者が多く、その黒い毛や皮膚に微量の魔素を溜め込んでいるからだ。
しかし、同じ黒い毛でも、人間の毛は魔素を溜め込む力はない。
目の前の黒猫の腹を満たすために再び店員を呼び、ツナのソテーを追加注文し、ミルクの無くなった平皿に水を入れてくれるように頼み、自分用にコーヒーのお代わりも頼む。
因みに、普通の猫にとって人間の食べ物は毒だが、使役中に飲食したものは無害化される。
「もちろんだとも。そんな面白そうなこと、見逃せるはずがないだろう」
口回りのミルクを舐め取り毛繕いしながら、面白そうにこちらを見ている彼は、魔界で仕事に勤しんでいるはずなのだが。
何故か、俺を地上界へ行かせてから、この黒猫を通して頻繁にちょっかいを掛けてくるのだ。
今、我が商店は一番忙しい時期だ。なのになぜこの兄は、覗き見をしている暇があるのだろうか。
「仕事はいいのか。覗き見して遊んでばかりいると、また怒られるんじゃないのか」
「大丈夫大丈夫。ほら、私ってば要領いいし。それに、弟の人生を変えてくれるかもしれないお嬢さんとの逢瀬を、見守る義務が私にはあるだろう?」
何が義務だ。ただ見たいだけのくせに。人を揶揄って遊んでるだけだろう。
兄に彼女との一部始終を見られた挙句、後から揶揄われることが確定しているなど、許容できるか。
「何が義務だ。面白がってるだけだろう。あとでアイツに言いつけておくから、覚悟するんだな」
「ふふふっ、この私に喧嘩を売るのかい?いいとも、買ってあげようじゃないか。しかしそんな事をしていいのかな?私が地上界へお前を行かせなかったら、お嬢さんとも出会えなかったということを忘れてはいけないよ?」
黒猫姿で凄まれても、全く迫力もなく、威圧感もない。
それに気づいているのかいないのか、黒猫は「フフフッ」と見下すように可愛く笑っている。
そうこうしている内に、追加注文した品がやってきた。
連日やってきてはテラス席で一緒に食べる俺達に店員も慣れたのか、俺ではなく黒猫の前に料理を配膳している。
店員に「猫ちゃんよく食べますねぇ。とっても可愛いです」とか言われて、上機嫌の兄は、にゃーんと愛嬌を振りまいてから、再び食べ始めた。
器用に嫌いなネギを避けながら全て平らげ、満足したらしい黒猫は、少し仕事をしてくると言って使役を解除した。
ただの猫に戻った目の前の黒猫は、お腹がいっぱいで眠いのか、そのままテーブルに寝転んだ。
「こら、そこで寝るな。寝床に帰ってから休め」
一度目を開けてこちらを伺い、興味なさそうに目を閉じて顔を逸らし、本格的に寝始めてしまった。
こうなるとこいつは梃子でも動かない。他の客に迷惑を掛けるわけにはいかないため、仕方なく抱き上げて、会計を済ませて店を出る。
彼女に会えるのは夕方以降のようなので、それまでどうしようか考えるが、これといって行きたい場所もやりたい事も思い浮かばない。
とりあえず腕の中でスヤスヤ寝ている猫を本来の寝床へ帰してやろうと、教会へ向かって歩き出す。
その道すがら、彼女との出会いを思い出していた。
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