10年に一度の異界交流で、天使と悪魔に迫られています

七居

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第1章 悪魔との出会い

14話 新しい世界2 リトside (回想)

 その日、急に兄に呼び出されたかと思ったら、見聞を広げる名目で地上界へ行けと言われた。
 意味が分からず何故かと問うと、いかにも裏がありそうなにこやかな笑顔でこう言った。

「この前の交流年は、私も父さんから店を引き継いで代表になってから初めての交流年だったし、それなりに忙しかったから、お前にも手伝って貰ったけど、今年は臨時従業員も雇ったし、私も余裕あるんだよね。だから、いい機会だし、地上界へ行って、色んなものを見てくるといい。あそこは私たち悪魔では思いつかないような面白い物がたくさんあるから、何か興味が湧くものがあるかもしれないよ」

 要するに、代わりの者に仕事はやらせるから、お前は遊んで来いという事か。しかも、地上界行のチケットまで既に用意されている。
 仕事をしなくていいのなら、特にすることもないので、二つ返事でチケットを受け取った。
 それからすぐに空間魔法で作り出した亜空間に適当に必要な荷物を収納し、身一つで地上界へやって来た。

 魔界を出る時も、地上界へ着いた時も、係員が何か言っていたが、久しぶりの転移魔法に軽く酔ってしまい気分が悪かったため、話を聞くよりも先に休める場所へと向かった。

 ベンチで少し休憩し、酔いも収まったところで、転移門を出て適当に歩き出した。
 しばらく歩き、そういえば朝から何も食べていないことに気づき、気づいてしまうと本格的に腹が減ってきて、どこか適当にレストランにでも入るかと、近くにあった案内板を見て探すが、中々見つからない。
 地上界では案内板にレストランは表示しないのか?と、疑問に思いながら、周辺を見渡すが、何度見てもそれらしき表示も店も見当たらない。
 どうせなら美味いものが食べたいのだがさてどうしたものか、と思っているところに、彼女は現れた。

 肩までの長さのふわふわとした明るい茶色い髪を上下に分け上半分を一つに結び、分厚いレンズの眼鏡を掛けた奥にある大きな焦げ茶の瞳でこちらを見上げ、濃灰色のジャケットと揃いのズボンに滑らかそうな生地の白いブラウスを着て、大きな肩掛け鞄を右肩に掛けている。


 初めは警戒している様子だったのが、俺の何がそうさせたのか、徐々に兄がよくするような呆れたような顔に変わった。
 しかも、人間に擬態した状態なのに、悪魔だと一発で見抜かれた。
 人間は魔力の流れを読めないため、擬態した悪魔など絶対に見分けられない。それなのに、彼女は初めから俺が悪魔だと見抜いたのだ。
 驚愕し、なぜ見抜けたのか聞くと、仕事柄天使悪魔と接することが多く、自然と見分けられるようになったという。
 ただの人間にそんなことが出来るのだろうか。天使悪魔は魔力の流れを視て擬態を察知する。しかし、俺の知る限り、人間は魔法に関する知識はほぼ無く、感知することすらできないはずだ。
 なのに、目の前の彼女は擬態した天使悪魔を人より多く見てきただけで、見分けがつくという。

 なんとも面白い能力を持った人間だ。こんな人間は初めて見た。

 話を続けていると、どうやら俺の常識の無さを見かねて、この後少しだけ世話を焼いてくれるらしい。
 なんとも恥ずかしく不甲斐ないが、仕事中にも関わらず、地上界を観光する上で最低限必要な知識の伝授と、美味い食事に連れて行ってくれるようなので、お願いすることにした。
 普段の俺なら、見ず知らずの初対面の相手に案内を頼むなど絶対にしないのだが、彼女から滲み出る優しさや纏う雰囲気が心地よくて、直感で彼女に着いていくのが最善だと思ったのだ。


 彼女の方も、話すうちに段々慣れてきたのかコロコロと表情が変わり出した。食事中も、美味しい美味しいと言って幸せそうに食べる姿はなんとも可愛らしく、出来ればずっと見ていたいくらいだ。
 すると、無意識に見つめすぎたのか、彼女は自分のパスタも食べてみるかと言って、小皿に分けて寄こしてきた。
 確かに美味しそうなパスタだとは思っていたが、それよりも、美味しそうに食べる彼女の姿がもっと見たい。
 しかし、そのことを伝えるのは憚られ、どう答えるべきか迷っていると、彼女が首を傾げて、食べないのかと目で言ってきた。
 そこまでされて断るなどできるはずもなく、小皿を受け取り一口食べる。
 うん、美味しい。

 それ以上に、彼女が分けてくれた気持ちが嬉しい。
 人と一つの皿を分け合うことが、こんなに嬉しいことだとは知らなかった。
 誰かと一緒に食事をするのは、こんなに楽しい事だっただろうか。


 一通り食事を楽しんだ後、食後のコーヒーを飲みながら、今後の事を聞かれたので、彼女がくれたガイドブックを見ながら観光するつもりだと言うと、とても喜んでくれた。
 
 可愛らしい笑顔を盗み見ながら、デザートを一口食べる。


 ……なんだこれは!!?
 コーヒーの苦みを含んだスポンジ生地に、チーズっぽい味のする白いクリーム、苺の爽やかな甘酸っぱさ。その全てが絶妙なバランスで一つに上手く纏まっていて、ものすごく美味しい!

 魔界で食べたティラミスと全く違う。こんな美味しい物は今まで食べたことがない。
 魔界の食文化は、地上界から持ち込まれたものがここ数十年で根付き、食卓の定番になったが、本場の味というのはここまで違うものなのか。

 感動に打ちのめされていると、彼女が爆弾を投げてきた。
 なんと、ジェラートもあるのか!しかも持ち帰りが出来るのか!
 彼女が買うか聞いてきたが、そんなの即答だ。買うに決まっている。季節によって味が変わるらしく、今販売しているフレーバーを一通り全て注文した。
 ついでにティラミスも持ち帰りが出来ないか聞いてみたが、それは出来ないらしい。非常に、非常に残念だ。
 すると、店の物とは違うが、コンビニ毎に色んな種類が売っていると教えてくれたので、帰りに全コンビニのティラミスを制覇することを決意した。


 両替も無事に出来たことだし、ここは色々してもらったお礼に俺が払うと言ったのだが、通貨の説明と会計方法を実際に見せる方が分かりやすいからと言って、結局彼女が全額支払ってくれた。
 申し訳なく思っていると、経費で落ちるから気にするなと言われてしまった。

 ジェラートを受け取り、彼女と別れの挨拶をしてからも、何となく離れがたくて何度も振り返って彼女を見た。その度に可愛い笑顔で手を振ってくれていた。


 紹介してもらったホテルにチェックインし、ジェラートを一先ず部屋の冷凍庫へ入れて、コンビニティラミスを制覇しようと再びホテルを出たところで、黒猫がすり寄ってきた。
 そう言えば、彼女と出会った案内板の所にもいたな。

「非常~に楽しそうだったじゃないか、

 そう言ってニヤニヤしながら、一晩中揶揄われたのは言うまでもない。

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