10年に一度の異界交流で、天使と悪魔に迫られています

七居

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第1章 悪魔との出会い

15話 新しい世界3 リトside

 満腹で寝てしまった黒猫を、本来の寝床の教会まで連れて行き、居合わせた司祭に拝まれそうになるのを回避することに成功する。

 地上界には、天使を奉る天使教・悪魔を奉る悪魔教・名前は忘れたが人間至上主義の宗教の、3つの宗教がある。
 黒猫は、その中の悪魔教の教会で飼われている。黒い生物は悪魔の眷属のため、御使い様として大切に崇めるらしい。
 悪魔おれたちからしたら、御使いなんて大層なものでも何でもなく、ただの覗きの媒体でしかないのだが、彼らの夢を壊さない方が何かと利用しやすいので、そのまま放置している。魔界政府も黙認しているくらいだ。


 無事に黒猫を送り届けた後、特にすることもないため、街中を適当に歩く。
 目の前を歩いている天使の家族3人が、これから行くテーマパークであの乗り物に乗りたいとか、パレードが楽しみだとか、何味のポップコーンを買うかとか、楽しそうに話している。
 その内容のどれにも興味が湧かない。

 彼女が…、シエナが一緒なら、興味が湧くだろうか。

 彼女に貰ったガイドブックを片手に、彼女がおすすめしてくれた場所やレストランへ行ったが、特に何も感じなかった。
 景色は美しかったし、技術も素晴らしかったし、食事も美味しかった。
 けれど、それだけだ。
 それ以上の感情が、シエナと一緒だった時のような感情が、一切湧いてこない。

 彼女に貰った名刺を取り出して、名前を眺める。
 『シエナ・ジュルト』
 その名前を見ているだけで、何かこみ上げるものを感じる。
 声に出して呼ぶと、胸が熱くなる。

 これがどういう感情なのか自分では分からず、兄に聞いてみたがはぐらかされた。



 間もなく日没という頃、案内板の前に立った。
 会えたら何を話そうかと考えていると、「こんにちは」と声を掛けられた。
 声がした方を見ると、彼女が笑顔でこちらを見ていた。それだけで気分が高揚するのを感じ、つい表情が緩んでしまう。

 少し話をして、観光してみてどうだったかと聞かれた。正直に、興味が湧くものは無かったと伝えると、なぜか真剣な顔になり、ブツブツと考え出した。
 漏れ聞こえる独り言は、「一人より二人の方が感動も倍だし…」とか「もっと特殊な志向の物の方か…」とか、俺のことを慮ってくれてることが伺える。

 それがとても嬉しくて、気づけば彼女の頭を撫でていた。
 驚いて見上げてきた彼女の顔は赤く、目もこれでもかと見開かれている。
 「髪に花びらが付いていたから」と嘘の言い訳をして、彼女のふわふわとした柔らかな髪を名残惜しく一撫でしてから手を放す。

 赤い顔で俯いたまま固まってしまった彼女も可愛いが、出来れば声が聞きたい。もう少し話がしたい。
 そう思い、彼女自身のおすすめ観光地を聞くと、やっと目線を上げてくれたが、何か迷っている様に見えた。
 仕事がまだ終わっていないかもしれないと思い当たり、少し寂しく思いながらも諦めようとその旨を口にすると、彼女の方から夕食を一緒にどうかと誘ってきた。今日の業務は終わりらしい。
 とても嬉しくて、でも無理をさせているのではと思い確認すると、視線を合わせて頷いてくれた。



 何が食べたいか聞かれ、居酒屋というものに行ってみたいと言うと、「いいですよ」と小さく笑って、近くの店に案内された。

 テーブルを挟み正面から彼女を見る。生ビールを美味しそうに飲む様子は、やはり可愛い。
 ビールにまつわる話などを聞きながら、彼女と一緒だとただの食事もより美味しく、とても楽しく感じることに、改めて気づく。

 楽しそうに話しかけてくる彼女を見ていると、もっと彼女と近づきたい、もっと仲良くなりたい、という気持ちが溢れてきた。
 できれば、友達のように接してほしい。
 接するだけでなく、本当に友達になれたなら。

 そんなことを思い始めると、酔いが回ってきたのか、段々ブレーキが利かなくなってきて、つい敬語をやめてほしいと言ってしまった。
 「取材対象だから距離を縮めすぎると仕事に支障が出る」と初めは断られたが、しつこく頼むと、承諾してくれた。ついでに、呼び方もお互い呼び捨てで呼ぶ事になった。
 俺のことをリトと呼び慣れずに照れているのも可愛いが、段々慣れてきて親しみを込めて呼ばれるようになると、それだけで舞い上がるくらい嬉しい。
 ……シエナもそうならいいのに。

 焼き鳥が運ばれてきてからは、食べた物の感想を聞かれた。
 料理は確かにどれも美味しかった。魔界で食べなれている料理も、本場の地上界の方が美味しかったのだ。
 しかし、そのどれもが、シエナと一緒に食べたイタリアンほどの感動はなかった。
 なぜなのか、シエナに話しながらその理由に思い至ってしまって、これはかなり恥ずかしいことを言ってしまったと後悔した。

 シエナが居なかったから、どの料理も感動しなかった。
 シエナが居なかったから、どこへ行っても楽しくなかった。
 シエナと一緒だったなら。

 シエナと出会ってから、世界が変わった様に見えていた。
 その理由が分からず、兄に聞いてもはぐらかされて教えてくれなかった。
 しかし、やっと理由が分かった。
 
 シエナは俺にとって新しい世界を見せてくれた人。特別な人なんだ。

 ――シエナと一緒にいたい。
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