15 / 92
第1章 悪魔との出会い
15話 新しい世界3 リトside
満腹で寝てしまった黒猫を、本来の寝床の教会まで連れて行き、居合わせた司祭に拝まれそうになるのを回避することに成功する。
地上界には、天使を奉る天使教・悪魔を奉る悪魔教・名前は忘れたが人間至上主義の宗教の、3つの宗教がある。
黒猫は、その中の悪魔教の教会で飼われている。黒い生物は悪魔の眷属のため、御使い様として大切に崇めるらしい。
悪魔からしたら、御使いなんて大層なものでも何でもなく、ただの覗きの媒体でしかないのだが、彼らの夢を壊さない方が何かと利用しやすいので、そのまま放置している。魔界政府も黙認しているくらいだ。
無事に黒猫を送り届けた後、特にすることもないため、街中を適当に歩く。
目の前を歩いている天使の家族3人が、これから行くテーマパークであの乗り物に乗りたいとか、パレードが楽しみだとか、何味のポップコーンを買うかとか、楽しそうに話している。
その内容のどれにも興味が湧かない。
彼女が…、シエナが一緒なら、興味が湧くだろうか。
彼女に貰ったガイドブックを片手に、彼女がおすすめしてくれた場所やレストランへ行ったが、特に何も感じなかった。
景色は美しかったし、技術も素晴らしかったし、食事も美味しかった。
けれど、それだけだ。
それ以上の感情が、シエナと一緒だった時のような感情が、一切湧いてこない。
彼女に貰った名刺を取り出して、名前を眺める。
『シエナ・ジュルト』
その名前を見ているだけで、何かこみ上げるものを感じる。
声に出して呼ぶと、胸が熱くなる。
これがどういう感情なのか自分では分からず、兄に聞いてみたがはぐらかされた。
間もなく日没という頃、案内板の前に立った。
会えたら何を話そうかと考えていると、「こんにちは」と声を掛けられた。
声がした方を見ると、彼女が笑顔でこちらを見ていた。それだけで気分が高揚するのを感じ、つい表情が緩んでしまう。
少し話をして、観光してみてどうだったかと聞かれた。正直に、興味が湧くものは無かったと伝えると、なぜか真剣な顔になり、ブツブツと考え出した。
漏れ聞こえる独り言は、「一人より二人の方が感動も倍だし…」とか「もっと特殊な志向の物の方か…」とか、俺のことを慮ってくれてることが伺える。
それがとても嬉しくて、気づけば彼女の頭を撫でていた。
驚いて見上げてきた彼女の顔は赤く、目もこれでもかと見開かれている。
「髪に花びらが付いていたから」と嘘の言い訳をして、彼女のふわふわとした柔らかな髪を名残惜しく一撫でしてから手を放す。
赤い顔で俯いたまま固まってしまった彼女も可愛いが、出来れば声が聞きたい。もう少し話がしたい。
そう思い、彼女自身のおすすめ観光地を聞くと、やっと目線を上げてくれたが、何か迷っている様に見えた。
仕事がまだ終わっていないかもしれないと思い当たり、少し寂しく思いながらも諦めようとその旨を口にすると、彼女の方から夕食を一緒にどうかと誘ってきた。今日の業務は終わりらしい。
とても嬉しくて、でも無理をさせているのではと思い確認すると、視線を合わせて頷いてくれた。
何が食べたいか聞かれ、居酒屋というものに行ってみたいと言うと、「いいですよ」と小さく笑って、近くの店に案内された。
テーブルを挟み正面から彼女を見る。生ビールを美味しそうに飲む様子は、やはり可愛い。
ビールにまつわる話などを聞きながら、彼女と一緒だとただの食事もより美味しく、とても楽しく感じることに、改めて気づく。
楽しそうに話しかけてくる彼女を見ていると、もっと彼女と近づきたい、もっと仲良くなりたい、という気持ちが溢れてきた。
できれば、友達のように接してほしい。
接するだけでなく、本当に友達になれたなら。
そんなことを思い始めると、酔いが回ってきたのか、段々ブレーキが利かなくなってきて、つい敬語をやめてほしいと言ってしまった。
「取材対象だから距離を縮めすぎると仕事に支障が出る」と初めは断られたが、しつこく頼むと、承諾してくれた。ついでに、呼び方もお互い呼び捨てで呼ぶ事になった。
俺のことをリトと呼び慣れずに照れているのも可愛いが、段々慣れてきて親しみを込めて呼ばれるようになると、それだけで舞い上がるくらい嬉しい。
……シエナもそうならいいのに。
焼き鳥が運ばれてきてからは、食べた物の感想を聞かれた。
料理は確かにどれも美味しかった。魔界で食べなれている料理も、本場の地上界の方が美味しかったのだ。
しかし、そのどれもが、シエナと一緒に食べたイタリアンほどの感動はなかった。
なぜなのか、シエナに話しながらその理由に思い至ってしまって、これはかなり恥ずかしいことを言ってしまったと後悔した。
シエナが居なかったから、どの料理も感動しなかった。
シエナが居なかったから、どこへ行っても楽しくなかった。
シエナと一緒だったなら。
シエナと出会ってから、世界が変わった様に見えていた。
その理由が分からず、兄に聞いてもはぐらかされて教えてくれなかった。
しかし、やっと理由が分かった。
シエナは俺にとって新しい世界を見せてくれた人。特別な人なんだ。
――シエナと一緒にいたい。
地上界には、天使を奉る天使教・悪魔を奉る悪魔教・名前は忘れたが人間至上主義の宗教の、3つの宗教がある。
黒猫は、その中の悪魔教の教会で飼われている。黒い生物は悪魔の眷属のため、御使い様として大切に崇めるらしい。
悪魔からしたら、御使いなんて大層なものでも何でもなく、ただの覗きの媒体でしかないのだが、彼らの夢を壊さない方が何かと利用しやすいので、そのまま放置している。魔界政府も黙認しているくらいだ。
無事に黒猫を送り届けた後、特にすることもないため、街中を適当に歩く。
目の前を歩いている天使の家族3人が、これから行くテーマパークであの乗り物に乗りたいとか、パレードが楽しみだとか、何味のポップコーンを買うかとか、楽しそうに話している。
その内容のどれにも興味が湧かない。
彼女が…、シエナが一緒なら、興味が湧くだろうか。
彼女に貰ったガイドブックを片手に、彼女がおすすめしてくれた場所やレストランへ行ったが、特に何も感じなかった。
景色は美しかったし、技術も素晴らしかったし、食事も美味しかった。
けれど、それだけだ。
それ以上の感情が、シエナと一緒だった時のような感情が、一切湧いてこない。
彼女に貰った名刺を取り出して、名前を眺める。
『シエナ・ジュルト』
その名前を見ているだけで、何かこみ上げるものを感じる。
声に出して呼ぶと、胸が熱くなる。
これがどういう感情なのか自分では分からず、兄に聞いてみたがはぐらかされた。
間もなく日没という頃、案内板の前に立った。
会えたら何を話そうかと考えていると、「こんにちは」と声を掛けられた。
声がした方を見ると、彼女が笑顔でこちらを見ていた。それだけで気分が高揚するのを感じ、つい表情が緩んでしまう。
少し話をして、観光してみてどうだったかと聞かれた。正直に、興味が湧くものは無かったと伝えると、なぜか真剣な顔になり、ブツブツと考え出した。
漏れ聞こえる独り言は、「一人より二人の方が感動も倍だし…」とか「もっと特殊な志向の物の方か…」とか、俺のことを慮ってくれてることが伺える。
それがとても嬉しくて、気づけば彼女の頭を撫でていた。
驚いて見上げてきた彼女の顔は赤く、目もこれでもかと見開かれている。
「髪に花びらが付いていたから」と嘘の言い訳をして、彼女のふわふわとした柔らかな髪を名残惜しく一撫でしてから手を放す。
赤い顔で俯いたまま固まってしまった彼女も可愛いが、出来れば声が聞きたい。もう少し話がしたい。
そう思い、彼女自身のおすすめ観光地を聞くと、やっと目線を上げてくれたが、何か迷っている様に見えた。
仕事がまだ終わっていないかもしれないと思い当たり、少し寂しく思いながらも諦めようとその旨を口にすると、彼女の方から夕食を一緒にどうかと誘ってきた。今日の業務は終わりらしい。
とても嬉しくて、でも無理をさせているのではと思い確認すると、視線を合わせて頷いてくれた。
何が食べたいか聞かれ、居酒屋というものに行ってみたいと言うと、「いいですよ」と小さく笑って、近くの店に案内された。
テーブルを挟み正面から彼女を見る。生ビールを美味しそうに飲む様子は、やはり可愛い。
ビールにまつわる話などを聞きながら、彼女と一緒だとただの食事もより美味しく、とても楽しく感じることに、改めて気づく。
楽しそうに話しかけてくる彼女を見ていると、もっと彼女と近づきたい、もっと仲良くなりたい、という気持ちが溢れてきた。
できれば、友達のように接してほしい。
接するだけでなく、本当に友達になれたなら。
そんなことを思い始めると、酔いが回ってきたのか、段々ブレーキが利かなくなってきて、つい敬語をやめてほしいと言ってしまった。
「取材対象だから距離を縮めすぎると仕事に支障が出る」と初めは断られたが、しつこく頼むと、承諾してくれた。ついでに、呼び方もお互い呼び捨てで呼ぶ事になった。
俺のことをリトと呼び慣れずに照れているのも可愛いが、段々慣れてきて親しみを込めて呼ばれるようになると、それだけで舞い上がるくらい嬉しい。
……シエナもそうならいいのに。
焼き鳥が運ばれてきてからは、食べた物の感想を聞かれた。
料理は確かにどれも美味しかった。魔界で食べなれている料理も、本場の地上界の方が美味しかったのだ。
しかし、そのどれもが、シエナと一緒に食べたイタリアンほどの感動はなかった。
なぜなのか、シエナに話しながらその理由に思い至ってしまって、これはかなり恥ずかしいことを言ってしまったと後悔した。
シエナが居なかったから、どの料理も感動しなかった。
シエナが居なかったから、どこへ行っても楽しくなかった。
シエナと一緒だったなら。
シエナと出会ってから、世界が変わった様に見えていた。
その理由が分からず、兄に聞いてもはぐらかされて教えてくれなかった。
しかし、やっと理由が分かった。
シエナは俺にとって新しい世界を見せてくれた人。特別な人なんだ。
――シエナと一緒にいたい。
あなたにおすすめの小説
女の子がほとんど産まれない国に転生しました。
さくらもち
恋愛
何番煎じかのお話です。
100人に3~5人しか産まれない女の子は大切にされ一妻多夫制の国に産まれたのは前世の記憶、日本で亭主関白の旦那に嫁いびりと男尊女卑な家に嫁いで挙句栄養失調と過労死と言う令和になってもまだ昭和な家庭!でありえない最後を迎えてしまった清水 理央、享年44歳
そんな彼女を不憫に思った女神が自身の世界の女性至上主義な国に転生させたお話。
当面は2日に1話更新予定!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
橘若頭と怖がり姫
真木
恋愛
八歳の希乃は、母を救うために極道・橘家の門を叩き、「大人になったら自分のすべてを差し出す」と約束する。
その言葉を受け取った橘家の若頭・司は、希乃を保護し、慈しみ、外界から遠ざけて育ててきた。
高校生になった希乃は、虚弱体質で寝込んでばかり。思いつめて、今まで養ってもらったお金を返そうと夜の街に向かうが、そこに司が現れて……。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
世間知らずな山ごもり薬師は、××な騎士団長の性癖淫愛から逃げ出せない
二位関りをん
恋愛
平民薬師・クララは国境沿いの深い山奥で暮らしながら、魔法薬の研究に没頭している。招集が下れば山を下りて麓にある病院や娼館で診察補助をしたりしているが、世間知らずなのに変わりはない。
ある日、山の中で倒れている男性を発見。彼はなんと騎士団長・レイルドで女嫌いの噂を持つ人物だった。
当然女嫌いの噂なんて知らないクララは良心に従い彼を助け、治療を施す。
だが、レイルドには隠している秘密……性癖があった。
――君の××××、触らせてもらえないだろうか?
巨乳令嬢は男装して騎士団に入隊するけど、何故か騎士団長に目をつけられた
狭山雪菜
恋愛
ラクマ王国は昔から貴族以上の18歳から20歳までの子息に騎士団に短期入団する事を義務付けている
いつしか時の流れが次第に短期入団を終わらせれば、成人とみなされる事に変わっていった
そんなことで、我がサハラ男爵家も例外ではなく長男のマルキ・サハラも騎士団に入団する日が近づきみんな浮き立っていた
しかし、入団前日になり置き手紙ひとつ残し姿を消した長男に男爵家当主は苦悩の末、苦肉の策を家族に伝え他言無用で使用人にも箝口令を敷いた
当日入団したのは、男装した年子の妹、ハルキ・サハラだった
この作品は「小説家になろう」にも掲載しております。
【完結】転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して二年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。