10年に一度の異界交流で、天使と悪魔に迫られています

七居

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第1章 悪魔との出会い

16話 新しい世界4 リトside(後半リト兄side)

 自分の気持ちを理解すると、そこからの俺の行動は早かった。
 酔っているのか、ニヤニヤと俺を揶揄っていた彼女に、おすすめの場所へ一緒に行ってほしいと頼むと、なんとも間抜けな返事が返ってきた。
 その顔も可愛いが、今はそれよりも、一緒に居ていい理由を作ることが優先だ。
 何の理由もなく付け回すようなことはしない。それではただのストーカーだ。まあ、そういう悪魔もいるが。
 しかし、シエナの仕事は記者だ。色々と起こりうる弊害を説明されて、このままでは断られてしまう。
 何とか一緒に居れるような方法はないか考えたが、中々いい案は浮かばない。
 シエナの作っている雑誌はどういうものだったか、思い出している内に、我ながらかなり良い案を閃いてしまった。
 
 シエナの雑誌は、異界人を対象に地上界を紹介している。
 今、天使悪魔の間で何が流行っていて、地上界の何に興味があって、何をしてみたいのか。それを調査し集計して、片っ端から取材し紹介するんだそうだ。
 また、人間にとっては当たり前のことでも、天使悪魔にとっては思いつきもしないことも多く、そういうものも魔法を使わずどのような技術で開発されているのか、というものも紹介している。
 例えば、今回の交流年の地上界の目玉と言われている『携帯電話』も、俺たちからすると、通信魔法を使わずに離れた場所にいる相手と話せるなど、どういう原理なのか見当もつかない。そういうものを、分かりやすく解説し掲載するのだそうだ。

 前者の方は俺は無能だが、後者の方なら役に立つはずだ。
 魔法に関する知識は、学生時代に本を読み漁って得たものがあるため、そこらへんの悪魔よりかは豊富だと自負している。
 シエナの担当も後者のため、一緒に居ればすぐに魔法としてとらえた場合の考え方を教えられるし、彼女の仕事もやりやすくなるだろう。
 何より、仕事相手パートナーとして一緒に居られる。

 そのことをシエナに伝えると、悪くないと言ってくれた。
 それから、前向きに上司に報告するための企画を考え出した。

 地上界では異界人との仕事は政府の介入が必須のため、あまり普及していないようだが、魔界や天界では個人の人間に仕事を依頼することは間々あることだ。よくわからないが、組織として異界人と仕事をするのは躊躇うが、個人で仕事をするのは自己責任ということらしい。
 俺はシエナ個人との仕事のつもりでそう提案したのだが、シエナは当たり前のように上司に企画として上げると言った。
 そうなると、恐らくシエナの会社は地上界政府に申請を出すことになるだろうから、先に手を打たなければならない。
 今後の段取りを考えながら、シエナと一緒に上司に説明するための企画書とかいうものを作り、翌日シエナの会社の前で落ち合い、上司とやらに説明する約束をして、その日は別れた。


 一気に酔いが醒めて仕事モードに切り替わり目を輝かせてやる気に満ちたシエナは可愛かったな、と思い出しながら一人ホテルへ向かって歩いていると、案の定黒猫が足元へと近づいてきた。
 普段は鬱陶しいと感じるが、今日に関しては大歓迎だ。もし来なければ、こちらから呼び出すところだった。

「置いて行くなんて酷いじゃないか。おかげで色々と大変だったんだよ?」

 ご機嫌斜めらしい兄は、そう言いながらも夜食を要望してくる。置いて行った詫びとしてギョーザを所望されてしまった。
 仕方なく持ち帰りできる店を探し、黒猫と一緒にホテルへ戻る。

 さて、ここからが本題だ。
 5人前のギョーザにがっついている黒猫を見下ろしながら、どう説得しようかと策をめぐらせた。


   *********


 まったく、酷い目にあった。いくら可愛い弟をからk……見守るためとはいえ、あんなものを使役するはめになるとは。我が人生最大の汚点だ。絶対誰にも知られるわけにはいかない……

 時は遡り、昼を過ぎてそろそろおやつの時間という頃。
 仕事を終えて、弟の様子を覗こうといつもの黒猫へ声を掛けると、教会へと戻っていた。毎回教会へと連れていく弟も律儀なものだ。

(やあ、おはよう。これからまた頼んでいいかい?)
 
 今起きたばかりの黒猫に念話で話しかける。

(いいよぉ。また美味しいもの食べさせてくれる?)

 この子はかなり食欲旺盛だから、毎回食事が必須なのだ。連日人間様の美味い食事を食べているせいか、最近太り気味だ。早死にしないように調整せねば。

(もちろんだとも。ところであの子は近くにいるかわかるかい?)
(ううん、いないよぉ。ここに連れてきてくれてから、すぐにどこか行っちゃったみたいだよぉ。どこ行ったか近くの野良の皆に聞いてみる?)

 くそう、完璧に置いて行かれてしまった。たしか、ここから電車で5駅先と言っていたな。そんな遠くまでこの子を移動させるわけにはいかないか。

(いや、いいよ。今回は他を使役するよ)
(そぉ?またいつでも呼んでね。美味しい物食べさせてねぇ)


 仕方ない。5駅先の近くまで意識を飛ばして、近くにいたカラスを使役する。
 お、居た居た。まだお嬢さんとは会えていないみたいだ。
 声を掛けるかどうか迷っていると、紙切れを1枚取り出し見つめ始めた。
 ……。
 …………。
 ………………。
 え、全く動かなくなったんだけど、生きてるよね?
 流石に声を掛けてやるべきか?
 とか思ってたら、おもむろにその紙切れをポケットに大事そうに仕舞って、駅前の案内板の前に立った。
 おっ、お嬢さんが向こう側から来た来た。さて、弟はどんな反応をするのかな。

 しばらく見ていると、徐々に周りが暗くなってきて、カラスの目では見えずらくなってきた。
 これからが良いところなのに。
 別の子を使役しようと近くを探すが、中々見つからない。もたもたしてるうちに、二人は移動を始めてしまった。
 このままでは見失ってしまう!
 仕方なく、唯一見つけられたヤツを使役して、二人が入った店の裏手から侵入する。
 ……どうか踏みつけられませんように。そして見つかりませんように。
 コソコソカサカサと目立たないように二人に近づき、何とか声が拾えるくらいまで近づく。
 そこからは、まあ、笑いを堪えるのに必死だった。

 二人が別れたのを確認し、いつもの子を再び使役して弟の前まで歩いていく。
 夜も遅いため、少しだけギョーザを食べて満足したあと、いよいよ今日の事をからk……聞こうと顔を上げると、久々に見る生き生きとした悪魔らしい悪い笑みを浮かべていた。
 …嫌な予感。


 予感は的中して、弟はお嬢さんと仕事をするために、魔界政府に申請して明日の朝一番に地上界へ書類を送り準備を整えろと言ってきた。

「兄さんの伝手をフル活用すればいけるだろう?」
「無茶言うな!そんな急に言われても無理に決まっているだろう!?」

 確かに政界に伝手はあるが、いくら何でも時間がなさすぎる。明日の朝までなど絶対に無理に決まっている。
 しかし、あの弟がやっと興味を持ったことだ。
 昔から何をやらせても全く興味を示さなかった弟が、自分から積極的に動くほどに興味を持った人間が出来たことが、何よりも嬉しい。

 口では文句を散々言い、渋々引き受けたように見えただろう。
 しかし内心舞い上がっている私は、夜中にも関わらず早速秘書二人を呼びつけて、政界に身を置く友人に動いてもらうべく、徹夜で策を練ったのだった。
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