10年に一度の異界交流で、天使と悪魔に迫られています

七居

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第3章 いざ、天界へ!

36話 辞令

 翌日編集部へ行くと、場違いなんじゃないかと思うくらいに社長をはじめ役員の皆様方が勢ぞろいした会議に連れ出された。
 その顔触れは凄まじく、会長(前社長)・社長・役員・各誌の編集長・各部署の責任者と、お偉い様方が全員集合していた。

 こんな重役会議だなんて、聞いてないんですけど!!
 いつもみたいな企画会議のつもりでしか来てませんよ!?

 普段足を踏み入れない階層にある役員会議専用の大会議室に通されると、コの字型に並べられた机に等間隔に重役の皆様が座っていて、こちらを凝視している。
 室内は流石役員専用ともあり、毛足の長い絨毯に、落ち着いた色合いのシックな内装、重厚感のある机に座り心地の良さそうな革製の椅子、派手過ぎない上品な調度品が数点会議の邪魔にならないように配置され、上座の壁には会社のロゴが大きく掲げられている。

 重苦しい雰囲気に呑まれていると、ここまで一緒に来た編集長は「ここで立ってろ」と珍しく小声で言って、自分は入り口近くの席へと移動した。
 編集長が席へ着くと、上座に座っている社長が口を開いた。

「月刊アース編集部員シエナ・ジュルト。貴女に各異界へ渡り、それぞれの世界の文化・文明・観光名所等の取材を命ずる。帰国後、即座に纏めたものをガイドブックとして発売することも昨日決定したので、そのつもりで取り掛かる様に」

 社長直々にお言葉と辞令を頂いて、その内容に驚きすぎて固まっていると、役員の一人が人の良さそうな笑顔で更にこう続けた。

「悪魔のみならず天使とも個人的に交流を持てるとは、あなたはとても運がいいのだろう。その幸運をぜひ、我が社も授かりたいものだね。会社として異界と正式に契約を交わしているのだから、しっかりと仕事をしてくるように。いいね」

 そう激励をくれた、見事なシルバーヘアーに灰色の瞳のダンディーなおじ様役員は、名前は覚えてないが、就活時に最終面接の時の面接官だった人だ。
 社長以外で断りなく発言できるということは、数人いる役員の中でも特に上の立場の方なのだろう。彼の発言を受けて、数人がうんうんと頷いているのが見えた。
 
 震える喉を叱咤してなんとか返事をし、その場を辞することを許された。
 何とか編集部のあるフロアまで降りてきて、編集長が戻ってくるのを自分のデスクで待つ。
 「お疲れ様」と声を掛けられ顔を上げると、アシスタントのユリカナさんが、優しい笑顔でコーヒーを渡してくれた。
 彼女は月刊アース編集部付きアシスタントで、常に出払っている私達編集部員への連絡係を主に担ってくれている。いつも笑顔でほわほわしてるけど、あの編集長と堂々と意見を張り合える肝の据わった一児の母だ。
 結婚前は記者をしていて、編集長と同じ雑誌編集部で腕の立つ記者だったらしいのだが、今は家庭第一で、パート勤務の為定時になるとさっさと帰ってしまう。今年学園を卒業する息子さんと、今でもラブラブな旦那さんと三人で一緒に居るところを、街で偶に見かける。

「なんだか、大変なことを押し付けられちゃったみたいね」
「ユリカナさぁん!そうなんですよぉ。聞いてくれますか?」

 一気に緊張が解れて、めそめそしながら先ほどの事を話す。
 詳しくは編集長が戻ってきてから説明してくれるはずだが、あまりにも展開が急すぎて、付いていけない。
 確かに、一筋縄ではいかないような企画を押し付けられるだろうとは思っていたが、流石に別で本を出すとは思っていなかった。アース内の特集記事程度だと思っていたのだが、私が考えているよりもかなり大規模での事業になるようだ。
 そんな責任重大なことを、入社してまだ三年ほどしか経っていないペーペーに任せるなんて、会社もおかしいんじゃないかと、ユリカナさんに愚痴を零す。

「シエナからしたら、急に白羽の矢が立って、自分じゃ抱えきれないくらいの大きな事を押し付けられたって思ってもしょうがないと思うわ。でも、逆に考えれば、これはチャンスでもあるのよ?」

 自分の取材能力を見せつけて編集長を見返してやればいいのよ、とユリカナさんは言ってくれた。
 その言葉を聞いただけでも、何だか心が晴れてくる。

悪魔リトと親密になったことも、天使エルマーと知り合ったことも、出会ったのは偶然かもしれないけど、その幸運も含めてシエナの実力なのだから、胸を張りなさい」

 母と年の近い頼りになるお姉さんは、いつでもこうやって元気とやる気をくれるのだ。私が月刊アース編集部へと配属になってからずっと、面倒を見てくれていて、影で色々してくれている事に、常に感謝してもしきれないほどだ。


 そうやって二人で話していると、編集長が勢いよくドアを開けて戻ってきた。その手には分厚い封筒が2~3枚抱えられていて、すごく嫌な予感を覚える。
 そっと横を見ると、ユリカナさんも半眼で編集長を見ていた。

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