10年に一度の異界交流で、天使と悪魔に迫られています

七居

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第3章 いざ、天界へ!

39話 転移門と保護指輪

 合流したエルマーさんは、明らかにテンションが高い。
 この間電話した時も、打ち合わせを兼ねて食事をした時も、言動の端々に嬉しさが隠しきれてない感じだった。
 今日も私たちを見つけると腕をブンブンと振りながら走り寄ってきて、目の前に来た途端に両手をぎゅっと握られる。
 握った手を見て一瞬険しい顔になるもすぐに笑顔に戻り、「今日を楽しみにしていました!」と言ってそのまま歩き出そうとしている。
 私の手をずっと握っているエルマーさんの手をリトが叩き落とし、無表情で睨みつけるという器用なことをやってのけると、エルマーさんは笑顔で無言で答えていた。
 見えない火花的なものがバチバチと散っている気がするんだけど、気のせいかな。


 そんな二人に挟まれて一つため息を吐くと、数日前の食事の時のことを思い出す。
 打ち合わせを兼ねた食事をとエルマーさんに誘われてリトと行ったのだが、会ってすぐにマーキングに気づいたらしいエルマーさんは、「ちょっと失礼」と言って、リトと二人で天語と魔語で何やら話をしていた。

 食事後にリトの機嫌が直ってから聞くと、マーキングは天使にも分かるらしく、なぜ二重に重ね掛けしているのかを聞かれて、私が淫魔に襲われた上に、魔素耐性があると分かったため、念のためお兄さんと二人で重ね掛けをしたと説明をしたらしい。
 淫魔に襲われたことも喋ったのかと焦って聞くと、何か問題でもあるのかと逆に聞かれてしまった。
 いや問題大ありでしょう!あんな恥ずかしいことを他の人にも知られてしまうなんて!

 そう言うと、詳しく話せとしつこく聞いてきたが言ってないから大丈夫だと言われた。
 どこをどう取ったら大丈夫だと思えるのか。
 淫魔に襲われたイコール強制発情は、天使悪魔にとって共通認識だと、この間お兄さんにこっそり教えてもらったばかりだ。
 私が普段通りに戻っているということは、そういう行為をしたという事だ。リトが説明した時点で、その相手が彼であることは容易に想像できることなのだ。
 これから一緒に仕事をする人になんてことを言ったんだと、一人で悶絶したのは言うまでもない。

 しかし、そこはさすが外交官。
 全く私に気づかせることなく、打ち合わせも食事も最後まで普通の態度だった。
 気遣いのできる人で良かったと、心から感謝した。


 そんなことがあったため、今日エルマーさんと会うのに少しだけ緊張していたのだが、私に対する態度は至って普通で、というよりも、尻尾をブンブン振って全身で喜びを表現している犬の幻覚が見えるくらいのテンションだった。

 左側にリト、右側にエルマーさんを従えて、トンゴさんとの集合場所へと歩く。
 合流したトンゴさんは、いつも通り穏やかな笑顔だった。
 
「トンゴさん、お待たせしました。こちらの悪魔が以前から私と仕事をして頂いているリトさん、こちらの天使が今回ご協力してくださる外交官補佐のエルマーさんです」
「トンゴ・セフトネペです。よろしくお願いしますね」

 トンゴさんとエルマーさん、リトがそれぞれ握手し挨拶を交わしてから、私達は転移門へと移動を始めた。



 転移門は、その名の通り異界へと転移するための門だ。地上界では各州に一つずつ存在しており、国が管理している。
 各異界に設置されており、それぞれの世界へと転移魔法で行き来することが出来るのだ。
 地上界の転移門は、交流年時のみ開かれ、それ以外の時には、どんなことがあろうとも絶対に開かないようになっている。
 天使悪魔が容易に人間に接触できないようにと、不可侵条約によって決められているのだ。因みに、天界魔界間はいつでも行き来できる。
 そして、全ての転移門は各政府の管理下にある。
 専属の部署がそれぞれの異界にあり、天界魔界には転移門のメンテナンスを専門とする役職も存在するらしい。
 転移門は転移魔法を用いるため、人間には操作できないので、交流年の間のみ天界魔界それぞれの政府から役人が派遣されて、彼らが稼働させているのだ。


 目の前に建つレンガ造りの立派な建物は、正面から見ると普通の3階建ての建物のように見える。転移門だと知らなければ、歴史ある美術館や博物館かのような外観だ。
 建物真ん中にある重厚なドアが開け放たれている入口を入りまっすぐ進むと、ホテルのフロントのようになっている受付が見えてくる。
 受付カウンターのあるフロアは、老舗ホテルのロビーにようになっており、天井からは美しくも控えめなガラス製シャンデリアが吊り下げられ、ゆったりめの一人掛けソファーと小さめのローテーブルが、寛げる様に等間隔に並べられている。
 壁には、天界と魔界をイメージしたような絵がそれぞれ飾られ、合間合間に季節の花が美しく活けられている。

 受付カウンターへ向かうと、3人の男女がお揃いの制服を着て迎えてくれる。
 会社が予約してくれた旅券を人数分渡すと、中身を確認した後、私とトンゴさんにのみ指輪ケースを渡された。

「こちらは『保護指輪』です。転移門に向かう間に装着してください。人間の方は装着を確認してからでないと、入ることはできません」

 ケースを開けると、月桂樹の葉を繋げて輪っかにしたような繊細な細工に所々小さな花があしらわれた指輪が一つ入っていた。

 受付の男性の説明によると、人間が天界魔界へ行く時は、滞在期間を前もって申請し、魔素を分解する保護魔法陣が付与された『保護指輪』を常に身につけなければならないそうだ。
 保護指輪は、空気中の魔素を勝手に取り込み、装着した人間を魔素から守るための保護魔法が常時発動するのだとか。

「異界は空気中にも食べ物にも魔素が含まれています。必ず、常に身に着けてください」
「食べ物に含まれる魔素も分解してくれるんですか?」
「はい。装着者を内外から守るように魔法陣が組まれています。ですので、体内に入ったものに含まれる魔素も、分解されます」

 エルマーさんの追加説明によると、体全体に薄い結界が張られているような感じで、結界を空気や食べ物が通過するときに魔素が分解されるようになっているそうで、濾過装置みたいなものと考えていいらしい。
 発動している保護魔法自体も、人間に害の無いように高度な魔法技術が使われているそうで、常に発動させていても、人体に一切問題ないとのこと。

 色んな人に話には聞いていたし、実際に見せてもらったりもしたが、実際に手に取ってみるとその高い魔法技術力も、繊細なデザインも、聞いていた以上にとても素晴らしいものだ。

「地上界へ戻ればただの指輪だから、お土産や記念に取っとく人が多いみたいだね。毎回デザインが変わるから、代々コレクションする人もいるらしい。私も30年前の新婚旅行の時の保護指輪を未だに取ってあるよ」

 妻は記念日ごとに指輪を出してきてはその日一日着けているんだと、嬉しそうにトンゴさんが言った。
 なんだか微笑ましい夫婦だ。こちらまでほんわかした気分になる。

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