10年に一度の異界交流で、天使と悪魔に迫られています

七居

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第4章 天界取材

閑話 節分①

 天界取材を始めて暫くたったある日。

「あ、鬼だ」

 昔絵本で見たままの鬼が、目の前を横切った。
 頭の上に生えた黄色と黒の縞模倣の二本の角。長さはさほど長くなく、五センチくらい。
 赤みがかった黒髪は短髪で、二メートルを余裕で超える長身、ムッキムキのラガーマン体型。
 そんなガタイの良い鬼の片腕には、小さな子供が抱かれていた。
 その子の頭の上に生えた二本の角は金色で、たぶん二~三㎝くらい。抱いている大人の鬼に比べたら、角の先も丸くて、何だか可愛らしい印象だ。
 父親らしき男の鬼は健康的な日焼けした肌で、子どもの方はやや黄み掛かった白い肌。
 お揃いのアイボリー色のTシャツにオーバーオールという、親子ルックがとても愛らしい。

 そういえば、地上界の東の方の地域には、この鬼にまつわる話がたくさんあると聞いたことがあって、学生時代に少し調べたことがあったっけ。
 各地の言い伝えや伝承をまとめた本に載っていただけで、結局詳しいことはわからなかったんだよね。

「親子かなぁ」

 つい目で追ってしまって気づいたら立ち止まっていたみたいで、リトとエルマーも側に来て鬼の親子を見ていた。

「恐らくそうだろうな。繁忙期が終わったから、休暇に来たんだろう」
「繁忙期?」

 鬼に繁忙期なんてあるんだ?
 いや、どの業界にも閑散期と繁忙期はあるものだけど。

「節分に鬼は付きものだろう?」
「せつぶん?」
「せつぶんっていうものに、鬼が関わっているってこと?」

 私とエルマーが節分が何か分からなくて聞くと、リトは呆れることなく詳しく教えてくれた。

 リトの説明によると、節分とは地上界の主に東側の一部地域で毎年行われている行事のことで、その行事に魔界から毎年鬼が参加しているそうだ。

 まず、各家庭ごとに黒い鬼の人形を、家族の人数分手作りで用意する。
 それを魔界から鬼が使役して動かし、その人形に豆を投げて鬼を追い払う儀式を行うことで、一年の内に身に起こる病気や災いなどを追い払うんだそうだ。
 各家庭から追い出された黒い人形は、各集落にある神社やお寺という神殿のような場所まで鬼が移動させて、翌日に纏めて神官にあたる役職の者が燃やしてしまう。
 人形を燃やすことで完全に災いを浄化し、昇華させることで、安心して一年を過ごせるという伝統行事らしい。

「へえ~、面白いね! 昔調べた時はそんな伝統行事の事なんて出てこなかったなぁ」
「地上界東側の中でも、本当に極一部の地域でしか行われていないし、今は節分を行う地域もどんどん減っていっているらしいからな」

 しかも黒い人形は毎年一から作り直すそうだ。そうしないと、災いを払えないと言い伝えられている。
 しかし、実際は毎年使いまわしても問題ないらしい。
 人間がご利益を求めた結果、勝手にそういう風習になっていったんだそうだ。

「でも、地上界で生き物じゃない無機物に、使役ができるものかな?そんな魔法があるなんて、聞いたことないよ」

 エルマーがそう疑問をぶつけると、リトは「あぁ」と頷いてから、鬼の友人に聞いた話だと言って説明してくれた。

「そもそも魔法じゃないからな。鬼が人形を使役するのは、鬼固有のスキルだ」

 そもそも使役魔法は、意思のある生き物でないと使えないものらしい。
 なのに、命の宿らない人形にも使役魔法が有効なのは、鬼の固有スキルによるもので、詳しくは教えられないそうだが、ある条件を満たせば、鬼は使役魔法と同じことができるんだそうだ。
 しかし、そのスキルと同じことを他種族がやろうとしても、絶対出来ないらしい。

「友人も、そのスキルが使えるようになるまでには、かなりの年数の修行をしたと言っていたな」

 固有スキルと言っても、産まれてすぐに使えるわけではないらしい。

 鬼の頭の角は、産まれたばかりの頃は金色一色で、体が大きくなるにつれて金色の角に黒い縞模倣が浮き出てくる。
 浮き出てきたらスキルの練習をし始めて、くっきりと縞模様になったら一人前と認められるらしい。
 逆に、くっきりと縞模様の無い角の鬼は、スキルを使いこなせないという証で、種族の中でかなり弱い立場になるんだそうだ。
 鬼社会は実力主義の厳しい世界のようだ。

「鬼って大変なんだね…」
「だが、スキルが使えるようになると、一生食うのに困らない仕事に就けるからな。それに、節分が終わったら、あの親子のように旅行を楽しむものも多いし、豪華な食事をするものもいるな」
「あっ! もしかして、恵方巻って食べ物のこと?」

 記者になりたての頃、先輩の下で仕事のイロハを教えてもらっている時に、地上界各地の郷土料理について特集することになり、めちゃくちゃ調べまくったことがあった。
 その時に、東の一部地域で冬の寒い時期に、恵方巻という長い一本の巻き寿司を食べる風習があると、見たことがある。
 その具材がとにかく豪華で、マグロやサーモン、いくら、うに、かに、いか、えび、というような海鮮オンパレードな豪華な巻き寿司なのだ。勿論お値段も豪華で、祝いの席で食べられる料理だったと記憶している。

「恵方巻か。あれは鬼が人間に教えたものだな。元々は節分が上手くいくようにと、普通の巻き寿司を一本丸ごと言葉を発さずに食べきることで願掛けする風習なんだが、それが人間に伝わった時に、何故か海鮮を使った豪華な料理になり、さらに祝いの席で食べる物に変化したと聞いている」

 なぜそうなったのかは鬼の中でもわからないらしい。
 食文化に関しては、地上界の方が進んでいるそうだから、魔界から入ってきたものをさらに進化させてしまうなんて、人間の食へのこだわりの強さは異常だなぁ。

 そう感心していると、エルマーがぽそっと一言。

「巻き寿司食べてみたいな…」


 
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続きは今夜投稿します。
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