10年に一度の異界交流で、天使と悪魔に迫られています

七居

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第4章 天界取材

56話 天界料理と

 自分に宛がわれたホテルの部屋で丸一日、デスクワークに勤しんでいると、突然リンリンとドアベルが鳴った。
 扉を開けるとエルマーがいて、「ご飯まだでしょ?一緒に食べよ」とどこかの店でテイクアウトしてきたらしき包みを見せてくれる。
 そう言えば、集中していて朝食を食べた切り何も食べていない。時計を見ると、夜の六時を回っていた。
 自覚した途端、クゥ~とお腹が鳴った。

 とりあえずエルマーに部屋に入ってもらい、ダイニングへ向かうと、先ほどまで作業していたぐちゃぐちゃの状態のテーブルが目に入る。
 資料や取材ノートが大量にあるため、広いダイニングテーブルに広げて作業していたのだ。

「散らかったままでごめんね。すぐ片付けるね」
「気にしないで。そうだ、気分転換にベランダで食べない?ここ景色良いし、今の時間、夜景がきれいに見えるでしょ」


 そう言ってエルマーはベランダに出て、テーブルとイスをセッティングして、買ってきてくれた食事をキッチンから持ってきた皿に並べていく。
 あっと言う間に、即席とは思えないくらい華やかなディナーテーブルが出来上がった。
 そしてそこには、見たことのある料理の数々が並んでいる。

「エルマー、この料理って……」
「この前行った店、気に入ってたでしょ?だから店長にお願いして、テイクアウトさせてもらったんだ」

 何日か前の昼食で寄ったレストランでの食事がかなり美味しくて、確かに気に入っていた。
 特に口に出したわけでもないのに、気づいてくれていて、わざわざ私の為にテイクアウトしてきてくれたなんて。
 悪戯が成功した子どものような笑顔でこちらを見ているエルマーと目が合い、ドキドキと胸が高まる。

「ありがとう。すっごく嬉しい!」
「喜んでもらえてよかった。さぁ、冷めない内に食べよう」


 席にエスコートされて、料理も取り分けてもらって、まるで高級レストランに来たみたいにエルマーが給仕してくれる。
 彼が自分の分も取り分けて席に着いてから、一緒に食べ始める。


 初めて食べた時もそうだったが、やはりすごく美味しい。
 天界で採れる食材を使った伝統的な天界料理を出すレストランなのだが、これまで食べた天界料理のなかで一番口に合うのだ。
 伝統的な天界料理は、人間からするとかなり独特の味付けの物が多い。
 食材の持ち味なのか、調理の仕方なのか、味付けなのかはわからないが、とにかく地上界では食べたことのない味で、酸っぱいような、しょっぱいような、苦いような、甘いような、そんな複雑な味だ。
 食べられないことはないのだが、もう一度食べたいかと言われると返答に困る感じなのだ。
 それをこの店の店主は、地上界の料理を研究し、天界料理に活かせないか長い年月研究に研究を重ね、この味に辿り着いたのだそうだ。
 人間にはもちろん、天使の間でも好評で、美味しい伝統天界料理が食べられる店として人気が出始めているらしい。

「この店を見つけた時は、本当に衝撃を受けたよ。昔から食べていた料理が、こんなに美味しくなるなんてって」

 エルマーがこの店を見つけたのは偶然で、それからシャンエルさんとニエルヴァさんと三人で頻繁に通うようになったそうだ。
 エルマーは天界で有名人のようだから、彼らが通う美味しい店として少しずつ認知度が高まってきているんだろう。


 天界料理は、その食材自体がどれも色彩豊かでカラフルだ。
 サラダに使われている野菜を見ても、パステルイエローのじゃがいものような見た目の野菜はトマトに近い味がするし、鮮やかな紫の花の蕾のような野菜はキュウリのような食感と味がする。カラフルな野菜の上からは、白の中に金色の粒が混ざったドレッシングが掛かっている。
 メインのシチューのような煮込み料理は、どんなに混ぜても混ざり切らない、ショッキングピンクと黄緑のマーブル模様。具材も、藍色の肉にオレンジの花弁、アイボリーの南瓜っぽいものが入っている。
 ポリポリとした食感の、萌黄色と菫色の細長い葉のピクルス。
 添えられたパンは、真っ白で綿あめみたいなロールパン。
 青空色の飲み物はワインの味がする。

 目にも賑やかな視界いっぱいに広がる料理たちは、そのどれもが色彩からは想像できないくらい美味しい。
 初めて食べる人は、頭が混乱するだろう。


「シエナの事だから、この後もまだ仕事するんでしょ?だから、お酒はノンアルコールワインだよ」

 だから遠慮せずに飲んでねと、私の行動パターンをこの十日ほどで知り尽くしたエルマーが、グラスに注いでくれる。
 その気遣いを有難く享受し、二人で色んな話をしながら楽しく美味しく頂いた。


「シエナって、本当に美味しそうに食べるよね。僕この野菜苦手なんだけど、シエナを見てると食べてみたくなっちゃうよ」
「食べるの好きなんだもん。食い意地が張ってるだけだよ」
「そんなことないよ!たくさん食べる人って、魅力的にみえるよ」
「じゃあ、リトは大食いだから魅力的に見えてるってことだね!」
「それはない」
「あははっ!即答!」


 眼下には美しくライトアップされた公園が広がり、その向こうにはホテル群から漏れる光がキラキラと輝いている。
 楽しい会話と美味しい食事、隣には気兼ねなく冗談も言い合えるようになったエルマー。
 心がポカポカするような、愛おしい時間がゆっくりと流れていった。


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