10年に一度の異界交流で、天使と悪魔に迫られています

七居

文字の大きさ
75 / 92
第4章 天界取材

68話 名付け後

 名付けの儀式が無事に終わり、エルマーがシャンエルさんと少し連絡を取りたいというので、先ほどの応接室のような部屋へと戻ることになった。
 業務連絡をしてくると席を外したエルマーを待つ間、飼育員さんがお茶を新しく淹れてきてくれたのをまったりと楽しむ。
 飼育員さんは私達にお茶を持ってきた後、生まれたばかりの卵と産卵で疲れている夫人の様子をみてくると言って獣舎へと駆けて行き、ここには園長とリトと私の三人が残っている。
 そういえば、まだ聞いていないことがあったと思い出して、いい機会だからと園長に尋ねてみることにした。

「天界でも一つの卵に宿る命は複数なのですか?」
「基本的にはそうですね。複数卵を産む種も極稀におりますが、殆ど伝説レベルです。動物園ここに勤めている私達ですら、生きている内に見られるかどうか、わからないくらいですから」

 天使が生きている内にということは、約千年に一度あるかないかという確率だ。
 そんな奇跡的な瞬間に立ち会えたとは、かなり幸運だったみたいだ。
 もしかして、一生分の運、今ので使っちゃったかも?

 もう一つ疑問に思っていたことも、ついでに聞いておこうと口を開く。

「もう一つお聞きしても?」
「ええ、構いませんよ」
「魔素耐性の高さと名付けの関係性とは、どんなものなのでしょう?」

 リーダーの話し方では、私の魔素耐性が高いから名付けをしてほしいと頼まれたように感じた。
 理由を聞いてもはぐらかされたし、もしちゃんとした理由があるのなら、知っておきたい。
 魔素耐性が高いことで、ないとは思うけど今後もしも何かに巻き込まれたりした時、エルマーやリトが必ず側に居て守ってくれる絶対保障はないのだ。
 だったら、少しでもこの体質によって起こり得ることは知っておきたい。
 無知が一番危険なのだから。

「うーん、そうですねぇ。何と言えばいいやら…」
「シエナ、俺が説明する」

 隣で黙って聞いていたリトが、身を乗り出しこちらに体を向けて説明してくれた。

「以前、マーキングをする時に説明したことは覚えているか?」
「人間にとって魔素は毒で、その耐性が高いということは、知らない内に魔法を掛けられたり、拉致誘拐とか人身売買とか奴隷とかの危険が大きくなる、だよね」
「そうだ。今はマーキングがあるから天使悪魔に対しては抑止効果がある。しかし、さらに上位の個体については話が変わって来るんだ」
「どういうこと?」
天使悪魔おれたちよりも上位の個体、つまり、グリフォンやユニコーンなどには、このマーキングは一切通用しないんだ」

 マーキングは、あくまでも対人策であり、悪魔の中でも最上位種であるリトとお兄さんよりも下位の者に効果は抜群だが、彼らよりも更に上位の存在には、唾をつけられてるくらいの認識なのだそうだ。
 そのため、マーキングの効果がないほどの上位種からは、『マーキング済み=魔素耐性が高い=色々便利な存在』という認識らしい。
 但し、上位種であればあるほど、倫理観や道徳を心得ているため、無理な催促は絶対にしない。
 リーダーが名付けをしたのも、そういう理由なんだそうだ。

 立場的には言う事を聞かせるだけなら簡単にできる。
 しかしそれでは、多方面での今後の関係に影響が出てしまうことが彼らには分かっているため、敢えてという方法で互いに納得した上での魔法行使や契約を交わすのだという。

「名付けはそんなに難しい魔法ではないし、使用魔素量もそれほど多くない。だから、シエナの体に影響はほぼないと判断したんだろう」

 それでも、人間からしたら大量の魔素を取り込むことになるし、エルマーが説明していたような懸念事項もある。
 だから、総合的に判断してもエルマー経由での名付けが一番私に被害がない、ということなんだそうだ。

「あの短時間で最適解を出すのは、流石天界最上位種だな」

 リーダーの判断は、リトも認めるほどのベストな対応だったようだ。
 それでも、魔素耐性が高いというだけで、今後同じようなことが起きないとも限らないため、異界では絶対に一人で出歩かないようにと約束させられた。
 まあ、こればかりは体質だからしかたないよね。


 聞きたかったことを聞けて納得していると、園長さんがこれでもかと目を瞠ってリトをガン見しているのに気が付いた。
 リトは気づいているのかいないのか、優雅な所作でお茶を飲んでいる。

「園長さん、どうかされましたか?」
「え、あ、いやっ!何でもございません!」

 何もなくはないと思うのだが、本人がそう言ってるならそうなんだろうと、それ以上追及することはやめておいた。

 実は、悪魔が天界生物を褒めるということ自体が異常な事であると、この時の私は知る由もなかった。


感想 0

あなたにおすすめの小説

新人メイド桃ちゃんのお仕事

さわみりん
恋愛
黒髪ボブのメイドの桃ちゃんが、働き先のお屋敷で、旦那様とその息子との親子丼。

女の子がほとんど産まれない国に転生しました。

さくらもち
恋愛
何番煎じかのお話です。 100人に3~5人しか産まれない女の子は大切にされ一妻多夫制の国に産まれたのは前世の記憶、日本で亭主関白の旦那に嫁いびりと男尊女卑な家に嫁いで挙句栄養失調と過労死と言う令和になってもまだ昭和な家庭!でありえない最後を迎えてしまった清水 理央、享年44歳 そんな彼女を不憫に思った女神が自身の世界の女性至上主義な国に転生させたお話。 当面は2日に1話更新予定!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

橘若頭と怖がり姫

真木
恋愛
八歳の希乃は、母を救うために極道・橘家の門を叩き、「大人になったら自分のすべてを差し出す」と約束する。 その言葉を受け取った橘家の若頭・司は、希乃を保護し、慈しみ、外界から遠ざけて育ててきた。 高校生になった希乃は、虚弱体質で寝込んでばかり。思いつめて、今まで養ってもらったお金を返そうと夜の街に向かうが、そこに司が現れて……。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

世間知らずな山ごもり薬師は、××な騎士団長の性癖淫愛から逃げ出せない

二位関りをん
恋愛
平民薬師・クララは国境沿いの深い山奥で暮らしながら、魔法薬の研究に没頭している。招集が下れば山を下りて麓にある病院や娼館で診察補助をしたりしているが、世間知らずなのに変わりはない。 ある日、山の中で倒れている男性を発見。彼はなんと騎士団長・レイルドで女嫌いの噂を持つ人物だった。 当然女嫌いの噂なんて知らないクララは良心に従い彼を助け、治療を施す。 だが、レイルドには隠している秘密……性癖があった。 ――君の××××、触らせてもらえないだろうか?

巨乳令嬢は男装して騎士団に入隊するけど、何故か騎士団長に目をつけられた

狭山雪菜
恋愛
ラクマ王国は昔から貴族以上の18歳から20歳までの子息に騎士団に短期入団する事を義務付けている いつしか時の流れが次第に短期入団を終わらせれば、成人とみなされる事に変わっていった そんなことで、我がサハラ男爵家も例外ではなく長男のマルキ・サハラも騎士団に入団する日が近づきみんな浮き立っていた しかし、入団前日になり置き手紙ひとつ残し姿を消した長男に男爵家当主は苦悩の末、苦肉の策を家族に伝え他言無用で使用人にも箝口令を敷いた 当日入団したのは、男装した年子の妹、ハルキ・サハラだった この作品は「小説家になろう」にも掲載しております。

【完結】転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して二年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。