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第4章 最後に笑うのは私たち?

24 固定イベント

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固定イベント詳細にもあったように、入島4日目には、この心が温かくなるような両親と死に別れしないといけない。未来が分かっている出来事、避けられない運命。こんなことをシナリオの最初に持ってくる”ともえ”は鬼か。

ただ、固定イベントが終わらないと、私が求める奇跡を起こすための行動が始められない。旗屋(裏方さん。運営側スタッフの天使から見れば、雲泥の差ということで名付けられたあだ名。プログラムの実質的製作者。フラグの連想?)から聞いた話によれば、当初は両親といつまでもいられる設定で、固定シナリオではなかった。自分が望んだ時から奇跡を起こすための行動が開始される…ということだったらしいが、奇跡を求める人の多さから、固定シナリオに変更され、今に至る。そして、あの悲劇が起きてしまう。

あの両親は、仮想体ではなく、電子情報体、いわゆるイメージ体で、プログラムの1つと言ってもいいもの。私たちも、あの固定シナリオが終わるまで、電子情報体で日数経過。商人の護衛に助けられたあとから、仮想体として、シナリオ開始になると。

でも、電子情報体であっても、プログラムであっても、私が感じる想いや願いは同じ。一時の関係であっても、いつまでもいられる設定の方が良かった。

サブシナリオの説明にある、慣れるまで…の件は、ウソ。固定イベントを起こすための布石。捨て石なんだろうね。しかも、奇跡は1回だけしか起こせない。シナリオ選択も1回だけ。奇跡はイベント選択時に申請するから、この両親を奇跡で再会することもできない。

***

固定イベントについては、話したくない。
忘れていた幼い時の両親のことを思い出したから。
前世の私のことではなく、ずっと昔の私の両親。何世代も重ねてきた、私の存在の原点にある両親の顔を忘れてしまったのはいつだっただろう。
あれから、何年?いや何万年?もう数えきれないほどの時間が経ってしまった。

って、なんで、こんな時にあの男の顔が浮かんでくるのよ!
あっちへ逝け。
さっきまでのしんみりした空気はどこかへ吹っ飛び、数えきれないほど絡んできた腐れ縁を通り越して、ひもにした相手を憎く思ってしまった。
まぁ、過ごした時間は2人とも、ほぼ同じだからね。
ともえも知っているだろうけど。
事の発端は、あれだし。
選んだのは、私たち。早まった…と思ったけど、全てが終わるのはいつになるんだろう。

そんなことをしみじみ思っていたら、仮初めの母親が

「あらあらまあまあ、そんなに悩んだ顔をして。どうしたのかしら。私に教えてくれない?」

と話しかけてきた。
どうせ、定型的な対応や返答しかないと思っていたのに、やたら人間味のある話かけ方。
少し、ぼーっとしてしまったけど

「お母さまに言う内容じゃありません。」

とぶっきらぼうな返答になってしまった。
それでも、こう言い返してくる。

「遠慮することはないのよ。あなたの母親なんだから。」

そうは言っても、あと数日で消えてしまう。
電子情報体だから、役割が終われば消える運命。きっと、もう会えない。
相談するのも、あとでむなしさが来るだけ…と思いながらも、今思ったことを相談してみることにした。

「お母さま、もし、何万年も生死を繰り返しながら旅を続けるとしたら、どうする?」

こんな意味不明な質問に答えることができるのは、あの男くらいだろうと思っていたら。

「そうね。1人なら、いつかは朽ちてしまうでしょう。でも、2人なら、どんなことがあっても朽ちることなく、その使命を果たすと思うわ。あなたは、そんな旅を選んだのでしょう。私たちも応援しているから、これからも頑張りなさい。」

…これは、誰だ。
いや、仮初めの母親だろうけど、内部情報も知っているとなると、油断はできない。
…そんな内部情報に詳しいのって、最近聞いた気がする。どこでだっけ。

「ふふ、何を考えているか、お母さんには隠せないのよ。当ててみましょうか。」

きっと当てられない。内部情報だけでも無理だろうと思っていたら

「内部情報をどこから聞いた?ってことじゃない?」

「!」

「図星ね。あなた、いつになっても顔に出るわね。ずっと昔から変わっていない。私が傍にいなくても、あなたたちは、昔の私の教えを守っているのね。」

「どうして、お母さまが知っているの」
「ふふ、あなたのお母さんだからよ。今だけじゃなくて、ずっと昔の…ね。」

なんとなく、このお母さんの正体が分かった気がする。
よく考えれば、この正体について、ともえから説明されたじゃない。
すっかり忘れていたわ。

でも、だとすれば、気持ちよく甘えられるというもの。
島外にいる本体も含めて、”本当のお母さん”に会えたのも奇跡の1つかもしれない。

***

後日、このことを含めて、会うつもりでメールを送ったら、ともえが手紙を持ってきて、渡してくれた。
”ありがたみが薄れるから会わない”と書いてあった。
あの時のお母さんは、幻想か…と思ったけれど、実は…というのは、全てが終わってからのことだった。
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