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第4章 最後に笑うのは私たち?

28 希望の光

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私が最初から胎内にいたわが子は良いとして、残る34個の…は、なんだろう。
もしかしてと
いやまさかと
否定と肯定が入り混じる中、カプセル内のもやが、まとまり始めた。

ともえから、精神体集約過程と実際に身体が作られる過程は、見慣れていないとグロテスクに見え、トラウマになる可能性もあるということから、私がいる場所とカプセルの中間に不透明の視界遮断シールドが下りてきた。

ともえが、やっぱりね。という顔をして、その説明をしてくれた。

トモエ天国内での悲劇的体験で街ごと焼却処分された時に犠牲になった人たちの一部の魂が、仮想体から本体に逆流し、元々の胎児と疑似連結。その結果、母子2個の精神体が+34個という形になってしまった。
通常1つの身体に1つの精神体というのが、基本なので、その数を上回ってしまうと、身体が崩壊するだけではなく、精神体・霊体も崩れる危険性があったという。
今回は、仮想体生成装置が最初から危険性について警報を出していたので、優先的に注視できた。いつもは、栞ちゃんと精神連結して、相互に話せるようになっていたが、仮想体生成時に処理に割り込みをさせてもらい、時限式ながら遮断を行っている。
同じサブシナリオで、互いに情報のやり取りを行うことは、問題があったためだという。

私は、
「結局のところ、悲劇的体験のうち、”実体として”第2の悲劇の時のみんなの一部が、私に入り込んだ精神体だった ということ?」

ともえが頷き、
「そうね。こういう結果を生むのであれば、サブシナリオから一旦、検証に移すことになるわ。第1の悲劇が起きた際の電子情報体の両親は、知っての通り、実体で存命している場合が多いし。あなたの場合は、あの方々がどこで何をしているかは、今のところ答えられない…。でも、かなり心配していたわよ。また、あとで来ると思うけど。」

天神さまは、
「そうそう、詩織ちゃんだっけ。同じサブシナリオをしているけど。サブシナリオ”奇跡を求めて”のクリアを目指していた人たちのうち、詩織ちゃんを除いた人たちは、プログラム不具合でシナリオを強制終了させた。申請も不具合ということで、中断を私から命じた。皆さん、心よく納得してくれたよ。」

「天神さまに逆らえる人がいたら、私が知りたいわ。」
ともえが、天神さまに聞こえないように、ボソッと話をしたつもりだったのだが、
「ほほう、ともえ。いつから私に反抗的なことを言うようになったのかな。昔、私の仕事を妨害しに来たように、今回も同じ轍を踏みたいのかな。」
「いじわる。」

これだけ聞いていると、兄妹の会話に聞こえるから不思議。
仲が良くて、面白い。正確には、兄妹の”ように”、なんだろう。お二人とも突然発生型だから。
今は、これで夫婦とは思えないわ。

ともえ&天神さまが、
「何を考えているのかな。」
ぴったり息もあった発言に、
「なんでもありません。」
と、とっさに返したが、ともえが、
「迂闊なことを考えちゃダメ。私たちのレベルなら、思っていることくらい分かってしまうの。夜見君には無理だけど。」
「あれは、ダメだろう。そもそも、系統が違う。」

この際だから、お二人に聞いてみた。
「もやから人に変わるというのは、あり得るのかな。」

ともえ&天神さま
「まぁ、あれは仮の形だからそう見えているだけで…。」

反応が同時だった。しかも、息までぴったり。

「…」
「…」

「おい。」
「なあに?」
「おまえから説明してやれ。」
「別にあなたからでもいいじゃない。」
「こういうデリケートなことは、女性であるおまえからの方がいいだろう。」
「デリケートって。そもそも、性別なんてないのだから、どっちでもいいじゃない。」
「外聞が悪い。」
「面倒くさいだけでしょ。」
「いいから、さっさと説明してやれ。」
「全く、いつもそうやって逃げる。まぁ、いいわ。私から説明って、何を笑っているのよ。」

「いつも、思うの。この2人、面白いなって。」

「そんなつもりはないのだが。」
「そんなつもりじゃないけど。」

「…」
「…」

「話が進まん。じゃ、頼む。」
と天神さまは、部屋を出て行ってしまった。

「うんもぅ…。逃げられた。」

かなり悔しそうだった。

「ごめんなさいね。2人になると昔のやりとりがそのままでちゃうの。」

「私はいましたけど?」
「理ちゃんは、身内のようなものだから。」

なんだか嬉しいな。いつも、思っているけど。
ともえも、にっこりして

「で、ええとどこまで話したかしら。」
「もやが人間になるのか?というところまでです。」
「そうそう、その話よね。」
「なるの?」
「なる。」
「なぜですか。」
「理ちゃん。ここ、どこだか知ってる?」
「ともえと天神さまの実家ですよね。」
「そう、実家。その実家はどこに存在している?」
「確か、ここは…え…」
「分かったようね。ここは、天界よ。正確には違うけど。あのトモエ天国とは、時間の流れが全く違う。屋敷周囲での1時間は、おかしな世界での1か月ね。トモエ天国では、加速倍数があるから、場合によっては同じくらいの速度になるけど。」
「すると、今、屋敷内の速度はどれくらいです?」
「屋敷内は、通常であれば外と同じにする。じゃないと、屋敷から出ることができなくなるから。だから、この部屋の前室だけ可変速度にしてあるわ。」
「可変速度?」
「そう、この部屋と屋敷内の間に前室を設けて、速度の調整をしているってこと。同じ速度でないと、移動できないしね。」

思わず、つばを飲み込む。もしかして、物凄く早いと
「この部屋の速度は。」
「部屋自体の速度は、屋敷内とそんなに変わりはないわ。せいぜい、おかしな世界に比べると10倍程度ね。ただし、カプセル内の速度は、最大10万倍よ。」
「そ、そんなに速くて大丈夫なんですか。」
「うーん、これくらいにしないと間に合わないのよ。」
「何にですか?」
「精神体がむき出しの状態は、不安定で存在がはっきり確立していないから、時間経過とともに、自壊する可能性があるの。あとは、再生中の年齢かしら。年齢が高い方に合わせているから。」
「年齢が高い?」
「再生される人のうち、一番年齢が若いのは、8歳。一番年齢が高いのは80歳。つまり、80歳の方に合わせて言うと、最大10万倍になっちゃうの。」
「ということは、8歳の子は、最大1万倍ですか。」
「そのとおりよ。再生終了すれば、この部屋と同じ速度に変化するから、さらに老いることはないわ。」

視界遮断シールドが、突然普通のカーテンのように変化した。

「いよいよ、始まる。面白いから、聞き逃さないでね。」
なんだか、イタズラをしているような口調だった。
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